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孤児院の子供達

残酷というか、可哀想な描写がありますので、苦手な方はご注意下さい。



「えっと…これが孤児院っすか?」


目の前にあるのは、どう見ても朽ち果てた教会だ。

曇ってヒビ割れた窓ガラス、建て付けの悪い扉、錆びてボロボロの鉄柵。

中に入れば更に状況は最悪で、天井からは所々陽射しが差し込み、埃だらけの床には虫の死骸が転がっている。


「ミナ‼︎お前、どこに行ってたんだよ‼︎」


「お兄ちゃん‼︎」


ミナを見つけて駆け出してきたのは、まだ10歳程の少年だった。

細い身体は骨張って、少年の現状の過酷さを物語る。


「あのね!お姉ちゃんがミナのお願いを叶えてくれるの!」


「ミナ…」


少年は無邪気に笑う妹を抱き締めながら、浮き出しそうな眼でユノ達を見る。

その瞳には喜びなどなく、なんの期待もしていないのが見て取れた。

それはこの少年が過ごしてきた時間がそうさせたのだろうと、ガイアスは眉を寄せた。


「ミナ!ノア!勝手に知らない奴を入れるなよっ‼︎」


室内に響くほどの怒声に視線を向ければ、複数の少年が姿を見せた。


「あれが噂の悪ガキっすね。」


声を上げたのはソバカスの目立つ赤毛の少年らしく、壊れた椅子を蹴飛ばしながらミナ達の前に立つ。


「ごめん、トリノ…」


「罰としてお前らの昼飯は没収だ‼︎分かったらさっさと掃除しろ‼︎お前らも出て行け‼︎」


ガンッと机を蹴って威嚇して、二人の怯えた様子にハッと笑う。

これで自分の食べる分が増える。

そんな声が聞こえてくる表情だった。


「うわぁ〜…お約束みたいな悪ガキっすねぇ。」


「一度外に出た方が良さそうだな。」


外に出ると、ミナがノアの手を引いて追いかけてくる。


「ミナ!掃除をしなくちゃダメだろ⁉︎」


「でもお姉ちゃんが帰っちゃう‼︎」


「ミナ‼︎夕飯まで没収されちゃうよ‼︎」


悲痛な兄の叫びに、ミナの足が止まる。

きっと没収されたのは一度や二度ではないのだろう。

その時のひもじさを思い出したのか、二人の表情は暗いものだった。


「心配するな。帰ったりしない。」


「お姉ちゃん…」


「話を聞かせてくれないか?ここは本当に町が用意した孤児院なのか?」


ガイアスの問いに、ノアは自分の知る限りの事を話してくれた。

ノア達の村が襲われたのは10日前の昼の事。

大人達は近くに迫った祭りの用意の為広場に。

子供達は歌の練習の為に村長の家に集まっていた。

突然村中に響いた魔鳥の鳴き声に、外に出た子供達が見たのは絶望と恐怖の光景だった。

とっさの判断で子供達を助けてくれたのは、ピアノの伴奏をしていた村長夫人…トリノの母親だった。

村長宅の地下室に子供達を集め、自身は入り口を隠す為に残り…魔物の牙で命を落としたという。

襲撃からしばらくして駆けつけたナレスト軍の話では、入り口は絨毯と机で隠されていたという。


「トリノが僕達を憎むのは仕方ないんだ…」


あの時、ナミとノアは両親を探す為に走り出してしまった。

すぐに夫人に捕まり地下室に入れてもらったが、その時ノアは気付いてしまった。

魔物の一匹がこちらを見ていた事を。

夫人はそれに気付いていた事も…。


「だから…夫人は囮になったんだと思います。僕の勝手な行動が夫人を…」


静かに泣く兄妹に、かける言葉は見つからない。

だがノアは自分の罪を飲み込んで話を続けてくれる。


軍に保護されたノア達は、ナタリの領主に引き取られた。

そこには他の村の孤児や生き残りもいて、色々な場所に振り分けらた先がここ、創世教の廃教会だったそうだ。

食事の配給は毎朝運ばれてくるが、20人分には到底足りず、隙間風どころか雨も凌げない廃墟の夜は凍える程寒い。

孤児院の責任者だという神父は、昼間に一度顔を見せるだけで何もしてはくれないという。


「職務怠慢だなぁ。」


「いや、ここの領主には一度会った事があるが、悪人には見えなかった。もしかしたら現状を知らないだけなのかもしれない。」


「だとしてもさぁ、」


「構わん。私は娘の願いを叶えるだけだ。時間逆行(タイムブレード)


かざした手の先にある教会が、瞬く間に元ある姿を取り戻していく。

純白の外壁。

青と金色の折混ざる屋根。

飾りの施された豪奢な扉。

輝くステンドグラス。

濡れた様な黒鋼の柵。


「嘘…」


建造したてのようなその姿に、ノアは腰を抜かしてしまう。


「また派手な事して〜…」


レオをスルーして教会内に入ると、壊れた椅子と机しかなった場所は、礼拝堂のあるべき姿に戻っていた。

ノア同様に腰を抜かしている子供達。

ユノはそれに目もくれず、奥へと進む。


「へぇ、ここはマテリア派の教会だったようっすね。」


「マテリア…?」


ステンドグラスの光を浴びて輝く純白の女神像。

それは瞳を閉じて淡く微笑んでいる。


「ユノ様は宗教とは無縁っすからね。この世界を創造したと言われる四神の一柱っすよ。龍神 サフィム、武神 オズマ、聖神マテリア、賢神シーナ。獣人はサフィム派、ドワーフはオズマ派、人はマテリア派、エルフはシーナ派が信仰してる感じっすね。ちなみに俺はユノ派っす!」


「ミナ、お前達はいつもどこで寝ている。」


「うわっ、聞いてないっ‼︎」


「えっとね、ミナ達は扉の前で、他の子達はこっちの壁際だったよ。」


「そうか。」


それだけ言うと、ユナは手を掲げ


「これはどう言う事だ⁉︎」


大きな声に振り返ると、中年の神父とシスターが呆然と教会内を見渡していた。

昨日まで廃虚だった場所が見違えているのだから、当然の反応といえる。

だが、二人は思い出したかの様にこちらに近付いてきた。


「馬鹿者が‼︎神聖な壁に汚れた手で触れるんじゃない‼︎」


「うわっ‼︎」


立ち上がろうとしたトリノを突き飛ばし、神父はマテリアの像をうっとりと見上げる。


「おぉ、素晴らしい…これはマテリア様の奇跡だ…。シスター・ナディア。」


「は、はい。」


「この者達を森の施設に移しなさい。」


「神父様、ですがあそこは…」


「構いません。あぁ…マテリア様…」


恍惚の表情の神父を残し、シスターは子供達を連れて森へ向かう。


「どなたかは存じませんが、ここは孤児院の敷地です。お引き取り下さい。」


「はいはい。行きましょう、ユノ様。」


すぐ様ステルスの魔法で姿を隠し後を追うと、そこにあったのは小さな山小屋だった。

だが、近付くにつれて周囲に漂う異臭に気付き、子供達の顔が青ざめていく。


「や、やだ…私行きたくない…」


「我儘は聞きません。さぁ、今日からあそこがあなた方の住処です。私達に面倒をかけぬよう、大人しくしているのですよ。」


どれだけ身勝手な奴らだ…と、ガイアスの拳が握り締められる。

ガイアスの両親も、彼が幼い頃に亡くなった。

流行病ではあったが、親を失い伯父に引き取られてからの生活は楽ではなかった。

伯父は可愛がってくれたが、血の繋がらない伯母はガイアスの食事を減らし、仕事を押し付け、口癖のように『ここに居たいのなら、私達に面倒をかけるな』と言われ続けたのだ。

今のシスターと、まったく同じ表情で。

しかし伯父が事故で亡くなると、唯一の男手のガイアスを逃すまいと、『育ててやった恩を返せ』を繰り返す。

だからガイアスは冒険者になった。

魔物を討伐すればすぐに金になるし、食うにも困らない。

力を付ければ誰に屈服することも無い。

大金を稼ぎ『恩』を返し、旅に出たあの瞬間を、ガイアスは今でも忘れられないでいる。


「………行ったな。」


「お姉ちゃん…お兄ちゃん…」


ステルスを解除し、足元に縋るミナの頭を撫で、ユノ達は子供達を外に待たせて小山の扉を開いた。


「これは…」


狭い小山の中は真っ暗で、漂う異臭にゴブリンの洞窟を思い出す。

腐臭、汚物、カビ…

その場にいるだけで病を患いそうな不衛生な環境。

だが、ガイアス達が驚いたのは、闇の中に浮かび上がる無数の光。


「獣人の…孤児?」


「魔人が目撃された村の生き残りっす。」


「レオ、お前知っていたのか。」


「…鼻がきくんでね。」


レオは苦笑しながら子供達の側に寄り、頭を撫でようと手を伸ばすが、子供達は身体を震わせ蹲る。

誰一人…声も上げずに。


「…誰だって、痛いのは嫌だよなぁ…」


小さな呟きに、幼い瞳がゆっくりと上を向く。

そしてやり場を失ったレオの手を、小さな手が力なく握った。


「獣人差別か。」


「なんだそれは。」


「一部の人間…マテリア派の教会関係者には多いらしい。人間至高主義ってやつだ。昔は数にもの言わせて獣人を迫害し奴隷にしていた時代もあった程だ。ん?」


今、明らかに子供達の空気が変わった。

怯えの中に浮かび上がるのは、明確な怒り。

そのキーワードは…奴隷。


「まさか、オーガ達が獣人を連れ去ったのは奴隷にする為か?」


ビクッと肩を震わせながら、啜り泣く声が聞こえてくる。


「だ、だめだ、泣いたら、打たれるぞ!」


「パパ…ママ…」


「やめろよ!ごめんなさい!泣かないから!黙らせるから!誰も叩いたりしないで!」


それだけで、彼らの現状は十分理解できた。


「ふむ…そう言えば、私はレオから『お願い』をされた事がない。」


「えっ…」


「長い付き合いなのにおかしな話だ。」


「ははっ…俺はユノ様の従者ですから…」


「レオ。」


ユノが両手を広げると、打ち付け閉ざされていた窓が吹き飛び、扉が開く。

陽射しの差し込む室内には、傷を化膿させ、座る事もままならない子供達がひしめき合っていた。


「っ…」


「私はお前が教えてくれたように、察する事が出来ているか?」


「…はい。やっぱりアンタは…俺の神様っすよ。」


涙を浮かべたレオに微笑みかけ、黄金色の頭を撫でる。


「ユノ様…こいつらを、助けてやって下さい。」


「聞き届けた。」


言葉が終わらぬうちに、ユノ達は外に待たせていた子供達の元に転移した。

傷だらけの獣人の子供達に驚き青ざめてはいたが、誰も差別の視線を向けることはない。


範囲回復(エリアヒール)浄化(ピュリファ)創作(クリエイト)火炎(フレイム)


連続詠唱に周囲が閃光で包まれる。

気が付いた時には、子供達の傷は癒され、血で固まっていた髪はサラリとなびき、衣服は統一された純白に青と金糸の繊細な刺繍の法衣へ。

小屋は真っ赤な炎に焼かれて崩れ落ちる。


「えっ…ぼ、僕達…どうして…」


「痛く…ない…痛くないよ‼︎」


「でもお家をあんなにして…怒られるよ…僕達みんな…みんな…」


「子供達。今から起こることは、他言無用だ。」


「たごん?」


「誰にも言っちゃダメって事っすよ。」


レオの言葉に素直に頷く子供達に、ユノは瞳を閉じて小さく呟いた。


「まさかこんな日が来ようとはな…変化(チェンジ)


銀色の髪が淡く輝く白金に変わり、ふわりと緩やかなウェーブがかかる。

大きな瞳の色は深いブルー。

ふっくらとした小さな唇。

朱の差す柔らかそうな肌。

まるで教会に祀られた像そのものへと姿を変えた。

服は子供達とお揃いの法衣。

手に持った聖杯。

マテリア派の信徒なら、誰もが思うだろう。

聖女 マテリアの顕現だと。

穏やかな話し方と甘い声。

慈愛に満ちた穏やかな笑顔。

正体があのユノ・ミズリーだと、見ていた者たちでさえも信じられない変貌ぶりだ。

それに…


「さぁ、(わたくし)の可愛い子供達。あなた達の家を、取り戻しに参りましょう。」


宗教の知識は皆無だった筈なのに、演じる聖女 マテリアはいやに板についている。

まるで本物を見てきたかのように、迷いがない。


「教会関係にどこまで通用するかはわからないがな…」


「大丈夫っすよ。だってユノ様ですから。」


レオの言葉に、聖女 マテリアはユノの表情で笑うのだった。





next…




























「」

優乃「ケモミミショタっ子可愛い〜!」

シアナ「子供に酷いことをするなんて許せません!へカテリーナさん!成敗しちゃって下さい!」


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