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ポエム

八月異世界

ジリジリと夏の暑さ滾る八月。

あと数日で残暑と呼ばれる時期らしいが

このままでは、暑さが残りすぎるのでは、

といらぬ心配を重ねてしまう。


しかし、暑い。


元の世界に居たときは、こんなに暑さ、

経験したことがなくドラゴンの胃の中

だと勘違いしてしまったほどだ。



そろそろ休憩を終わらなければ、仕事が

終わりそうにない。異世界に来たのに、

なぜか似たような仕事をしているのは、

なんの因果か、呪いなのか。


商人として使い潰されるのに疲れていたのに

こっちの色々な仕事を経験するうち、商人が

一番身体に合うと気付いてしまったのは皮肉

な話ではないだろうか。

ペコペコ頭を下げる暮らしは死んでも変わらない

寂しくて侘しい感傷に浸り、サテンの涼しさに

身体がすっかり慣れてしまった。


外に出れば確実に襲いかかってくる暑さを

扉越しに睨み、立ち上がるやる気が湧かず

をすする。


思えば、こっちに来て何年経つのだろうか。

やっと5年目ぐらいになるのかもしれないが

未だによくわからん事だらけだ。


とりあえずこの夏というものは本当に要らない。

海とかは最初は興奮したが、今となっては

行き過ぎてだれてしまった。


もしもこの夏が終わって、元の世界に帰れると

したら私はどうするのだろうか。


たった5年されど5年。


出会いもあり、生きる基盤もできた。


生きていくのが楽しくなった。生きにくいが。


ストローで苦茶をすすり、サテンのテレビを

眺めていると、ラストサマーバケーションなんて

謳うCMが流れてきた。


来年もどうせあるというのに不思議な話だ。


否、同じ夏は二度ないとも言うから、それの

ことだろうかなんて脳内問答を繰り広げるが

思考するのも面倒になり氷をチャカチャカと

ストローで回して遊ぶ。



最後の夏。

もしそうなら、海に行かねばならないな。

妻も子供もまだ喜んでくれるだろう。


やっと免許取れたんだ。今度は私の運転だ。


きゃんぷとやらもしてみたい。


元の世界は毎日キャンプ生活みたいなもんだったが

家族で行くキャンプはまた格別になるのだろうな。


元の世界に戻るとして、挨拶は誰にすれば

いいのだろうか、知り合いが多くなりすぎた。

喜ばしくも、寂しくもあるか。



あちらの夏を経験してもらうのも一興だろうか。


涼しいから避暑地のようは扱いにされそうな

予感がしつつも、終わってしまった世界の夏を

夢想する。

楽しく虚しい。



苦茶の最後の一口を啜り、会計に進む。


完成された商売システムを手慣れたように

会計をすませる女性には未だに感嘆してしまう。



スウっと、息を一つ飲み込み扉を開けるための

気合いを入れる。


最後の夏まではまだ遠く、

最後を迎えた夏もまだ遠くなった。


それでもこの異世界に生きていこう。


この異世界では生きていこう。


ドラゴンの胃の中よりは暑くはないのだから。



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