本の世界へ。そして執筆の沼へ。
中学時代は楽しかった。
あの頃は兎にも角にも、見るもの読むもの何もかもが新鮮だった。スーパーヒーローが世界を守る小説を読めば、自分もヒーローのように成りたがって。異世界を旅する退廃旅行小説を読めば、バックパッカーになることに憧れて。
それに、言い方は気に食わないけれど。中学生デビューに失敗し、ぼっちにならざるを得なくなった僕にとって、小説は唯一無二の親友とも言うべき存在だった。故に、僕がクラスの底辺……ナードとしての烙印を押されるまでにはそう時間もかからなかったし。そして、そんな環境が僕の居場所を図書室の隅へと追いやり、本の虫……もとい、本に齧りつき、頼り切りにならざるをを得なくなるのは至極当然とも言えた。
それでも。僕にとってその環境は居心地の悪いものではなくて。むしろ誰にも構われず、本を読むことのみに集中できる環境は最高だった。本に囲まれている限り、僕は、僕の物語の主人公でいられたんだから。
確か、一年の冬休みの頃だっただろうか。エアコンをフル稼働させ、毛布を頭からかぶっても尚しばれるような室温に震えていた日。早々に貸本を読み終え、新学期を……正確には、長期休みで休館中の図書室が開く日を今か今かと待ち望みヤキモキしていた頃。時間つぶしにもならないアプリをダウンロードしては消してを繰り返していた僕は、とある広告を見つけてしまった。
そこにはとても簡素なメイリオフォントで「君も小説を書こう!」たったそれだけ書かれていた、いつもならば眼中にも無いような広告。
ああ、だのに。僕は其れに魅入られてしまったんだ。たった九文字の、その勧誘に。
そのバナーをタップして、コレまた簡素なアイコンのアプリをダウンロードして。利用規約も、ハウトゥーもまともに読むことのないまま、時間も忘れ食い入るように見続けた。
何ということかな。まるで桃源郷、まるで極楽浄土。溢れんばかりの小説を無料で読むことができるだなんて。とりあえず、と、手当たり次第に人気作品から七、八本ほど読み切った僕の心の満たされようと言ったら、当時の僕の語彙力では……いや、今の僕でも筆舌に尽くし難いものだった。
でも、僕が気に入ったのはそれだけじゃない。もちろん、この膨大な数の作品を収める書物庫への不満は概ね無いし、僕が見てきた中でどの図書館よりも「僕向き」だと感じている。でも、それだけじゃ、きっと僕は今に至るまでのいつの日かに飽きていただろう。名作と呼ばれる作品をつまみ食いして、陳腐化した感動に勝手に軽蔑を覚えてアンインストールしていたことだろう。
そう。僕が心から気に入り、そして今もなお沼から抜け出せない理由。それはこのアプリの投稿機能だった。
玉石混交の小説群。その中には僕が読んできた文庫に勝るとも劣らないほどに心をくすぐられる作品もあれば、小学生くらいのちびっこが頭をひねって書いたんだろうな、と得心するような微笑ましくも欠伸の出るような物もある。……だからこそ、思ったんだ。此処こそが、僕の想像力を、創造欲満たせる場なんだと。
そして、今。高校二年生の夏。未だ、僕はこの「底辺作家」という沼から抜け出せずに居た。




