白い雪のプリンセスや!
ディグビー王国のマリーナ女王とクリス国王は病に倒れてその命を閉じました。
新女王として君臨しはマリーナの実妹メリッサでした。
マリーナには娘がおり、その名をマリスと言いました。彼女は生まれながらにして母マリーナのように美しい肌を持つ美少女でございました。
しかしごつすぎるメリッサの性格が相まってマリスは酷すぎる虐めを王女より受けるようになりました。余りにも酷さにマリスへ同情した城下町村長のドモンは「マリス王女を鍛え上げる」と銘打ち、カントー山山奥へ避難をさせました。避難したマリスはカントー山の山奥で7人の小人達と慎ましく暮しを始めました――
マリスがカントー山へ旅立って長い年月が経ちました。それでも女王メリッサはマリスのことを忘れてなどいませんでした。彼女の執念は石より固く蛇より長くその身に巻かれていたのです。
「鏡よ、鏡、この世で1番美しい王室は誰や?」
『それはまごうことなくメリッサ様にあります!』
「ちゃうやろ! お前! それ言うならマリス・ディグビーの筈や!」
『え、だってマリス様はその、あの、えっと……』
「鏡よ、鏡、この世で最も醜い王室は誰やねん?」
『えっと、あの、それはマリ……ス……ぎゃあ!』
パリーン! 365代目の鏡はあっさり王女に壊されました。
王女メリッサは村長ドモンを城に呼び、本当のことを問いただしました。
「今朝、魔法鏡がなぁ、一番醜い顏しとる王室はマリスや言うとったで」
「いやぁ……なかなか鍛えても効果がでなくて。すいません。女王様」
「どこにいるんや?」
「へ?」
「マリスはどこにおるか聞いとんじゃ」
「いや、それはその……」
「お前、知っとるで? こないだ隣村のサラとかいうオバハンと手を繋いで街を歩いておったと、城のモンから聞いとんやぞ。写真もあるんやで?」
「ぎくっ!」
「洗いざらい奥さんに知られたくなかったら教えなさいや。黙っといたるから」
「マリス王女は……」
マリス王女は7人の小人たちと毎日食っては飲んで、飲んでは食っての幸せな生活をカントー山の山奥で営んでいました。今じゃ歩くのも、腰を上げるのも、ちょっとしんどいぐらいの体型に変わりました。
「王女様、ボクもう食べられないよー」
「誰が食べろって言ったの! 常に私が優先じゃねぇか。このヤロー!」
「王女様、私最近悩みがあるのー」
「え? どうした? ビヨンセ?」
「私、歌姫みたいって言われている気がするのだけど、気のせいかな?」
「バカヤロー、気のせいに決まっているだろ! どっからどうみても、占い師のゴールデン・○ッピーバーグだよ。お前は!」
「なんかムカついたけど、スッキリした! ありがと! 王女様!」
「王女様、これ美味しいけど、美味しいからあげなーい。あーん♪」
マリスのパンチが小人ナズのお腹に炸裂しました。
「ごふっ……そんな……あんまりだよ……」
ナズはマリス王女が木の実ピザをたいらげるのをただ見るばかりでした。
さらに奥の茂みでこの惨状をみる魔女が1人。
魔女はあれこれ考えましたが、勇気を振り絞り、8人の宴会の輪の中に入っていきました。
「おーい、訪問販売『とっても美味しい林檎屋さん』やでー」
「あ? 誰だ? お前?」
「最近大好評のとりたてピチピチの林檎を売っている訪問販売や!」
「ボクもう食べられないよー」
「カバヲクン、そう言いながらさっきから食べてばかりじゃないか~」
「ほらほら、どうや? 今日は特別に無料進呈してやるで?」
「いい、帰れよ」
「え?」
「ウチはな、カンサイ弁が大嫌いなのよ! お前のその顏みていると、忌々しい記憶が蘇って仕方がねぇんだ。悪いけどよ、とっと帰ってくれ」
「ああ、帰るわ。でもタダでこの林檎は受け取ってくれへんか? 美味しいから」
「イチイチお節介な奴だな!! そんな固くて食べるのに不便な物がいるか!!」
「あの、そしたら調理して食べやすくしたるから……」
「帰れと言っているだろが!!」
マリスは近くにあったコップを老婆の魔女に向けて投げました。
マリスが投げたコップは魔女の頭に命中、魔女はその場で倒れてしまいました。これには7人の小人たちも驚き、マリスはその顔を青くしてしまいました。
すぐにマリスと7人の小人たちは魔女の看病にとりかかりました。ここは山奥、街の医者を呼ぼうにも時間がかかってしまいます。できることをただ必死に8人で手分けしてとりかかりました。
魔女は目を覚ましました。ここは山小屋の中、どうやら意識を取り戻せたようです。頭には包帯がまかれており、看病して貰ったみたいでした。魔女が起きるのに気がついたマリスがスープのようなものを持ってきました。
「はい。これでも飲みなよ」
マリスから頂いた飲み物を魔女は飲み乾しました。
「ごめんな。アンタが売っていた林檎美味かったよ。それアンタの林檎で作ったジュースさ。悪かったな。帰ればかり言ってしまって」
「そうかい。そうだったかい。ふふふ。よかったわぁ」
「ああ。ごめんよ。美味しい林檎やった」
「マリス、お前の肌はホンマに美しいな」
「え? もしかしてアンタは……」
魔女は一瞬光り輝くと、その姿を綺麗なドレス姿に変えました。
このドレス姿、そして白髪の髪、すべてマリスに見覚えのあるものでした。
「伯母上……女王様!?」
「城下町の魔女に頼んで変身したんや」
「どうしてこんな所に……私は……!」
「心配せんでええ。もう遅いからな。そろそろ効く筈やで?」
「そろそろ効く?」
「ああ、あの林檎全部に下剤をたっぷりと仕込んどいたんや」
「な!? なんてこと!! ぐっ!?」
「1週間は下痢地獄やろうな。そういうとる私もお腹が……」
マリスもメリッサも便意を促し、すぐに山小屋のトイレを目指しました。
「ウチが先やで! この年寄りに気を使えよ!」
「何言うとんや! 先に下剤飲んだのは時系列的にウチやで!?」
マリスとメリッサは互いに跳ねのけながらも、階段を駆け下りました。そこで彼女達は絶望を目にしました。トイレの前には6人の列ができていたのです。
「ボクもう絞りだせないよー!」
とか何とか言いながら全くトイレから出てこないカバヲクンでありました。
下痢地獄から1週間後、マリスはディグビー城に7人の小人を引き連れて戻りました。城に戻ってきたマリスは占い師ハルナハ・リセンボンのような風貌からミュージカル女優ニシノカ・ナのように美しく、可憐な王女様となっていました。他7人の大太りだった小人たちも見違えるようなダイエットに成功し、そのまま城の美女イケメン軍団として城に仕えるようになりました。歌が特技なビヨンセはディグビー城専属のディグビー歌姫として世にその名を轟かせました。
無理が祟ったメリッサ王女は翌年、心不全の為、息をひきとりました。しかし念願だったマリス王女の結婚を見とどけ、その晩年はずっと穏やかな顔をして王夫妻を見守り続けていたとのことです。
マリスは新国王で夫のチャーリーとメリッサの1回忌で墓参りに訪れました。
ずっと手を組んで祈りを捧げるマリスをチャーリーはじっと見つめていました。この美しい美女がかつては世界一の魔獣と謳われていたなんて嘘のようです。
「真剣に祈っとったな。何願っとんたんや?」
「さぁ? ウチが痩せてから怒られたことないし、怒ってはないと思うけど……」
「思うけど?」
「感謝と懺悔。うん、でもほとんど感謝やな」
「ええ家族に恵まれたな」
「そうであるうちはそうであると気づけへんものや。これからやで、アンタ」
マリスは片手でお腹をさすり、チャーリーと繋いだもう片手を強く握りました。
時代はかわります。でも変わらないものもあるのです。めでたし、めでたし。