任務準備
すいません…表現が拙いせいでなかなか任務が始まらない…
俺とキーはいつもの武器倉庫に来ていた。
鍛冶工房がある武器倉庫へ訪れる道中、すれ違う人々がキーの顔をチラ見して見惚れる人も散見された。
だが、声をかける人はまるでない。
キーの目は機械とほとんど変わりがないし、少々不気味な雰囲気をまとっているからな。
表情が乏しい所の話じゃないし、本当にもったいないなと心から思う。
武器倉庫の鍛治工房に訪れると、鍛治工房の奥の方から
「おっ!やっと来たか!お望みのもん出来てるよ!」
とちょっと興奮気味のギーセが大声でこっちに向かって叫んでいた。
やめてくれよな…ほら、周りの奴らがこっちみてんじゃん。
俺ら見ると必ずキーの顔を二度見するやつが多いからすごい居心地が悪くなる。
しかも大抵二回見たら冷たい目でこっちを見るおまけ付きだ。
俺、なんもしてないのに…
俺はさささっとギーセに近づいて、頭を捌いて耳に顔を寄せ、
「おいっ、いつもいってるだろっ!いちいち叫ぶなってっ!目立つから勘弁してくれよ!俺の評判知ってるだろ?俺をゴミみたいな目線をプレゼントして来るから嫌なんだよ!」
そう言うとギーセはトボけた風に
「えっ、事実だからいいじゃん。ゴミをゴミといってなんか悪いことあんの?実際俺の武器も天に誘いやがって、これくらい我慢しろって!」
と、最後は顔からニヤニヤした笑みがこぼれていて俺は拳を握りしめ、震えることしかできなかった。
(事実だけど…事実だけど…できるだけあの類の目線は避けたいんだよェ…!!)
俺をいじった後、ギーセはキーを見て一瞬挙動が止まり、また工房の奥へ歩いていった。
ギーセは恋人が完全に武器だからなぁ、驚きはするけど見惚れるほどはないって感じか。
それにしてもキー、お前ここに来てから本当に表情が変わってないぞ…。
もはや狂気的だな…、本当にこんな人作るとか人間じゃないな…。
間も無くギーセは奥からやってきて、俺に剣を手渡してきた。
「これは過去最高の一品だぜっ!刀身を打ってる時に「こいつは来るなっ!」って薄々思っていたんだよ…!今回は少し趣を変えて新しい材料を使って見たんだけどそれが中々手応えがあってな、この調子だともう少し踏み込んだ鋭い武器が作れるなって思って…」
いつも通り俺はギーセの高説を右から左に聞き流し、剣を試しに振ってみて、違和感がないかを確かめていた。
うん、いつもより軽くて使いやすいな…しかも魔力付与がしやすいようにみねの部分を太く作ってもらえるし…及第点だな。
まあ大体ギーセの作品は粗悪品てことがあまりなんだけどね。
それにしてもうるせえな…。専門家でもない俺に高説かましたって俺は理解できねえんだよ…!しかも「過去最高の出来」って毎回聞いてるからな。
確かに腕が上がっていることは使っている俺からしても不満はないんだが、そんなに最高を叩き出してもらったら最高の価値が目減りしていくぞ…。
「おい!聞いてんのかっ!?」
「あぁ、すまん、流してたわ」
「俺の武器愛をけなしやがってェ…!とりあえずはこれだけ耳に入れとけよな!この剣、軽いけどその分耐久力は下がってるよ、お前が剣に対して粗末に使わないようにな!」
「おい、いらんことすんなよ!軽いしいいなと思った気持ち返せや!そこは耐久力も両立だろ!」
「まあ、魔石でそこはなんとか!峰に魔力貯めて防げばある程度は防げるよ!相手の銃器のライフルだっけ?あれにはギリ防げるくらいかな?でっかい銃弾も逸らすことくらいなら大丈夫!」
「な、なあ、俺の魔石適性知ってるよな?そんなふんだんに使ったら俺の所持魔石一瞬ですっからかんだわ!」
「あ、忘れてた!すまんね!」
そこでウインクすな!真面目に気持ち悪いわ!
もう任務も開始時刻に迫ってるし、間に合わせじゃ無理だからこれを装備するしかないか…。
「次は耐久力高めでな!軽さもできるだけ維持しろよ!」
「それは俺の気分次第だっ!気が向いたら作ってやるよ!」
「この野郎…まあいいわ今回はこれでなんとかするわ、じゃあな」
「おいおい、お代忘れてるよ!」
「チッ、このままいけると思ったのに…」
「んなもん何回もやられてるからこっちもわかるってーの!約束通り2倍だからな!」
「へいへい」
俺は代金をいつもの2倍を払い、武器倉庫を後にした。安心しろ、キーはずっと俺の後ろで虚空を永遠に眺めているよ。
武器倉庫から酒屋に戻る間、あまりにも気まずいから俺はキーに話題を振った。
「な、なあ。お前、武器はどうした?護身的なものとか」
「ない、必要ない」
「いやいや、いるだろ…万が一ってもんもあるし…。そもそも最近じゃ対魔術師がいるし、放出系魔法は全部機能しなくなるぞ?」
「…なら私に会う武器は?私の魔力量じゃ武器が持たない」
「なら魔剣武器だな。魔力伝導性も高いし、耐久値も俺の武器とは格が違うしな」
だけど、俺はこれを勧めることはできない。
前にもいったように隠密には完全に不向きだ。
魔剣武器は魔石内蔵型と『武器強化』による付与型の二種類あるが、もちろんキーには後者にはなるが。
(付与型の場合通常の武器より魔力の燃費が格段によくなり、無駄なエネルギーが出ににくくなる。また、通常の武器の場合、元の武器に依存するため、強度、軟度には限界があるが、付与型の場合ムチのようにしなることもできるし、逆に鋼鉄の槍にもなる。伸縮性も抜群)
後者の場合、威力調整するのに結構鍛錬が必要になる。
さらに、魔石を使う度、騒音がひどい。
ベースを魔石にしている分、魔力の小さな変化に反応して吸収、放出するためその過程で音が発生してしまう。
通常の武器なら外からベールを覆う感じになるんだが。
これは俺にとってかもしれないがすごく高い。
武器の支給額の軽く50倍は行くかな。
なんせ対対戦用の代物だから出回る数も少ないし。
「じゃあそれにする。連れていって」
「ああ」
まあ見るだけなら大丈夫か。多分買えないし、扱えないし。
そして、魔剣倉庫に訪れ、キーは魔剣職人から如意棒みたいな物を手渡された。
ちなみに、形状変化できるから剣とかの形にしなくていい。
キーは手渡された如意棒を凝視したら、その後眼を閉じ、魔力を如意棒に送り込んだ。
それはすごい幻想的で、キーの周りが仄かに白く輝いて見えた。
キーの周りと如意棒から漏れ出る魔力は粉雪のように舞って消えて行く。
白く照らされる顔に表情の変化は見られないが、それが逆に映え、白い世界が何も悪意の無い美しい本の世界の中にあるものに感じられた。
俺と魔剣職人がキーの幻想的な姿に見ほれていると、キーは眼をゆっくりと開いて、
「できた」
と一言。
「「え?」」
と俺と魔剣職人がキーの手元を見ると、五色に光る小剣がそこにあった。
「「ええ!??」」
五色が出るってことはつまり…魔剣を完璧に扱えることを意味する…。
全ての色が均等に表れるとは微細な魔力調整を魔剣を介してできていることの証左。
さらに後から気づいたことだが、魔剣特有の騒音が全く出ていない。
するとキーは小剣の形状を変え、剣、太刀、大剣、槍、薙刀と、次々と滑らかに武器を作り、そして《ダガー》に戻った。
「やっぱりこれが一番扱いやすい」
と一言。
やっと現状に頭が追いついてきた俺と魔剣職人は、互いの顔を見て
「「これ、夢だよな??」」
と互いに頬をつねりあった。
痛い…、夢じゃない…。
キーの超人じみたハイスペックさを痛感する俺と魔剣職人出会った…。
キーは魔剣職人の方を向き、
「いくらですか?」
と尋ねたが、魔剣職人は
「…タダでいい。だが!メンテナンスは俺に任せてくれっ!俺の名はディーガ!こんなもの見たのは初めてだっ!俺の名にかけてお前の武器を最前の状態で送り出してやる!!」
とディーガは言い放った。
「ありがとう」
とキーはお礼をした。
経費が浮いたのはありがたいが、そんなことより疑問が残る。
あんなにできるのに、なぜ隠密部隊に回されたのか…。
それは今回の任務で明らかになるのだが、この時の俺にへ知る由も無いことであった。
ちなみに、魔剣を無音でできたのは魔力供給の安定性とうっすら遮音幕を刀身の周りを覆っていたらしい…。
なんてハイスペックなんだ…。
俺らは武器を調達し、酒屋を通じて任務の出発点である国境付近の都市、コーキンスに向かった。
次こそは任務開始になるかと!!!