初任務とジルクの日常の一コマ〜おやっさんとの会話〜
ヒロインが喋らないタイプだから仕方がないのか…?おやっさんの方がすごくしゃべっている気がするけど…ま、まあいいか汗
二日後。
俺とキーは上司に呼び出させれて今隊長の部屋にいる。
調度品は少なく、殺風景な部屋だが、唯一椅子だけは大仰な造りになっている。
そこはそこも質素なままでいけよと突っ込みたくなるが、上司の威厳を少しでも示すにはこれくらいしか方法がないらしい…不憫だな、隊長殿よ。
と、そんなとりとめのない感想を抱いていると、隊長が静寂を破り、口を開いた。
「さて、お前らの初の任務を与える。」
「「はい」」
1つ間を置いて隊長はゆっくりと答えた。
「国境近辺の異変調査だ」
俺は心の中でため息をついた。
これは果てし無く面倒臭い仕事だ、と。
国境近辺は異変なんて日常茶飯事だし、逆にない方が珍しい。
大まかな任務は以前やったことがあるからわかるからだいたいわかる。
それは不用意に近づいた敵機体の撃破、もしくは捕縛、連行。
また、不審物を発見した場合は通信魔石を用いて情報部に連絡。
つまり、パトロールって訳だ。
国境は1つの小隊で回るのはキツイため、主に20部隊が駆り出されている。
だが、俺はその部隊には含まれない。
なにせ隠密部隊だからな、表沙汰にはされない者を担当することになる。
心の中では「お断りさせていただきます」と笑顔で返していたのだが、拒否すると隊長からチョークスリーパーを敢行され、首を縦に振るまで閉め続けられる。
俺とキーは声を揃えて、
「「了解」」
と答え、詳細の任務用紙をそこでもらい、蝋燭で燃やして部隊長室を後にした。
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廊下を2人で歩いていると、俺は前を見据えたままキーに尋ねた。
「キー、お前こういう隠密行動の経験は?」
「ないよ」
「なら今回は俺の行動をよく見ておけ。だいたいわかるから。後注意すべき事はあまり不用意に喋らない事だが…お前には関係ないか」
「?」
とキー頭をかしげるが、俺はそれを見なかったことにし、話を続けた。
「国境近辺の調査ってのは国境付近の都市も例外じゃない。そこに潜伏してるスパイの存在の有無を確認し、いれば炙り出す」
「わかった」
「ちなみにこのスパイを炙り出す任務はこの部隊だけだ。口外厳禁だからな」
俺はそんなことはまずありえないだろうと思いつつも、注意を促し、キーは
「うん」
と頷いた。
廊下の突き当たりまで行き、俺とキーは一旦別れ、いつもの酒場に落ち合う予定になっている。
俺はそそくさと自室に戻り、任務の為の装備を整えていると、ふと頼んでいた剣の調達を忘れているのに気がついた。
(やっべ、丸腰はさすがにまずいな…。しゃーない、キーも連れてってあの空間に行くか)
と、ちょっと予定を変更し、俺は自室を出て、いつもの酒場へ足を向けた。
やっぱり酒場に訪れると、おやっさん以外の人はいなかった。まあ開店準備中だからしゃーないんだけど、喧騒に包まれているはずの酒場がここまで寂れていると哀れでフッと嘲笑してしまった。売れてないのも丸わかりだし。
丁度そこをおやっさんに見られていたようで、物凄い剣幕で俺に近寄り、胸倉を掴まれた。
「おい!訂正しろやこのカス野郎!!戦争が近いから客足も遠のくも仕方がないだろっ!!誰のせいでk…」
とここまで喋りかけたおやっさんの口を全力で塞いだ。
「おいっ!悪かったからそれ以上口を開くなっ!!俺じゃなかったらお前人生終わりだぞ!」
俺が咄嗟に口を塞いだから危なかったものの、あれ以上喋っていたら本当にまずかった。
祖国の罵倒に値する発言をするだけでもお縄になるほど俺の国はピリピリしてんだよね。
国民の心を1つにー!とかアホなことをやってんだよこの国は。本当にアホくさい。
他にやるべき事がごまんとあるって言うのに。
と、頭に登った血が少し引いたようで、冷静さを少し取り戻したおやっさんは、
「くそが!2度とそんなこと言うんじゃねえ!次やったら今度は叩きのめしてやるからなっ!」
「やっ俺なんも言ってねえし」
「うるさいわっ!次はないと思えっ!」
と全く冷静じゃないおやっさんは荒々しい足取りで厨房に戻っていった。
次会うときはしっかり飯でも食いに行ってやろうか…一番安いのだけど。
と、嵐が過ぎ去ったと思うと、またおやっさんがやってきて、
「てか、なんでお前入ってきてんだよ!お前の目は節穴かよっ!閉店中って看板が見えないのかっ!?」
「だってここが待ち合わせだし。外で立ってるの面倒臭いから店内で待たせてもらおうかと」
「常識をわきまえろ!」
「まあまあ、そう怒んなって。俺も好きでこの店来てるんじゃないんだから」
「ならここ待ち合わせにしてんじゃねえよ!他所いけや!」
「や、あんたもわかってんだろ?俺は用無しでこんなとこ来るわけないだろ」
「あぁ!わかってるよ!だがお前の口調がいちいち鼻に付くんだよっ!もう少し相手のことを配慮してもの言えよ!」
「アーハイハイ、ゼンショシマスー」
「このカス野郎っっ…」
とまたおやっさんはせわしなく厨房に戻っていった。
このやり取りやめられんわ〜、おやっさんなんだかんだいって根は優しいからな。
もう何回目だろ?このやり取り。
板について来たわ。
おやっさんをいじった後少ししてキーはここに到着した。
「おっ、来たか。まあ入れ。汚い場所だけど」
「わかった」
厨房からおやっさんが
「ここは俺の店だ!!お前の所有物じゃねえよ!後一言余計なんだよっ!!」
といいツッコミをしてくれている。ホント面白いな、おやっさん。
俺はおやっさんの言葉をスルーしてキーに事情を伝えた。
「すまん、ちょっと寄り道頼むわ。武器の整備頼んでてよ」
「わかった」
「無視するんじゃねえ!?」
「じゃおやっさんまた後でな〜。マズイ飯でも作って待っとけよー」
といつもの軽い別れ句を詠み、おやっさんはいつものごとく
「お前の飯はねえよっ!!早くいけこのカス野郎!!」
と返歌を返す。
あーこの感じ、任務のスタートにはかかせないな、次もこのやり取りがしたくなるから任務にやる気を出せる。
俺の密かに楽しみにしている日常の風景であった。
(俺が生き残りたいことってまさかこの為っ!?いやいや、んなわけないだろっ!)
と1人で自分を突っ込みながら、酒場のドアを開けるのであった。
次からは任務スタートです。普通に任務が終わったらいいんですけどね(白目)