孤独な愛国者《ロン・ドール》
翌日。
部屋に備え付けられている郵便受けから手紙を取り出し、昨日のパートナーとの初対面の日時時間について確認した。
日時は今日の午後1時、ミーティングルーム1とのことだ。
…暇だな。
任務の後は疲れを取る為として3日は少なくとももらえるようになっている(建前上はそうだが、緊急クエスト見たく、駆り出されることもままあるんだけどね)。
「取り敢えず消耗した魔石の補填と武具の整備でもするか。」
と俺は棚の脇に置いてある武具セットを担ぎ、街へと繰り出した。
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魔法の国の街。
それはそれは魔法道具をふんだんに使った便利でSFじみた光景が想像するが、この街は全くそんな要素はない。
首都の街といっても魔法道具の類は全く使われてなく、1つのメインストリートから支脈のように小道が分かれ、その間を木造の家がひしめいてる、魔法国家の首都としては威厳もへったくれもない街並みだった。
市民はメインストリートを行き交い、各々の目的地に仕事をしに行き、その途中で商人が出店を開き、商品を売る、なんともどこにでもありそうな殺風景な街。
ここまでひどいのは技術の漏洩を防ぐなんだからそうだ。
些細なところから技術が盗まれて、決定的な差が開かない為の一種の予防策なんだそう。
まあ意味ないだろwと思うんだが。
この限界情報統制状態を引いているのに少なくとも年に一度は情報が外に漏れる。
たかが民間が使う程度の魔法なんて向こうにとっては既知の技術なんだろうけど…。
俺はそんなことを思いながらいく先々の人に飲まれながら、途中の小道にそれ、昨日訪れた居酒屋に入った。
「よう、おやっさん。今日も邪魔するぞ」
「今は閉まってるよ!出直せカス野郎!」
「まあまあ、落ち着けって。俺も用があってここに来たんだから」
「ああ、そういやそうだったな。ならさっさと俺の視界から消えろ。営業の邪魔だ」
「へいへい」
と俺は居酒屋から出ると、一目見ればわからないが、違う場所に転移した場所に出た。
「さてと、まず魔石の補充をするか」
俺は早速小道を歩き、突き当たりのビルに入っていった。
ちなみにここは首都からかなり離れた所にある。
襲撃の心配はほぼ100パーセントないと言われてる場所だ。
何しろここは異空間だからな。絶対不可侵だろ。
まあ陽亜のエルフなら見つけられそうだかな。
ここの構造はいたって簡単、居酒屋から出た右手には魔石の倉庫、左手には武具の倉庫があるだけだな。
その道中には国家に雇われた魔石職人や鍛治職人、そのどちらも極めたごく一部の魔剣職人がいる。
魔剣職人は魔石で武具を作っちゃうヤバい奴らのことだ。
基本戦争用に貯蔵されるから俺が触る機会がないが、ものすごい威力を誇り、連射速度も半端じゃなく戦いに革命を起こす程らしい。
一時憧れたことがあるが、隠密には向いてないと思い、諦めた。
でもロマンがあるよなぁ〜と諦めているか諦めているかわからない俺だった。
魔石倉庫に入ると、俺は今日使った魔石を全て新調し、新しく入荷してる魔石をドンドンバックに放り込んだ。
ちなみに魔石は消耗品。
人は魔力を操作できるが自身に魔力が無いからこれを媒体として使うことになる。
魔石の中にある魔力を使って魔法を繰り出すことになるが、操作能力がない、つまり適正がないやつは魔法も付与された魔石を使うわけだ。
俺はもちろん適正が平均以下なもんで既製品を確保。
俺はある程度魔石を補充し、パートナーの力量を見極めてから魔石を再補充しようと考え、バックに空きを残して向かい側の武器倉庫に向かった。
「よう、ギーセ。今回も整備頼むよ」
「おお!ジルトか!帰って来てたのか!いつものね、ちょっと見せてみろ」
俺はいつものように鍛治職人のギーセに整備を依頼している。
こいつは鍛治職人の中では新人の部類に入るが、腕前はピカイチだ。
まだまだ荒削りな部分が目立つが、最近になって技術が向上したように思う。
「おいっ!俺の丹精込めて作った剣、思いっきり歪んでんじゃねえか!ありえねえだろ!」
「あ、すまん。強化して思いっきり地面に叩きつけたわ」
「マジかよっっっ!?こんなもん整備できるかドアホ!作り直しだよっ!」
「え、時間どんだけかかんの?いやなんだけど」
「自己中にも程があるだろっ!2日特急で作ったるからそれまで我慢せいっ!料金は2倍なっ!」
「そこは1.5で」
「もうお前帰れ!」
「わかったわかった、払うって」
ふう、武器の調達も終わったな、そろそろいい時間だし行くか。
俺は散々ギーセに「あんのクズ野郎がっ!」「さっさと召されろっ!」と愚痴を言われながら鍛治倉庫を後にした。
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午後1時、ミーティングルーム
「おう来たか」
「そりゃ来ますよ。俺の命がかかってんだから」
「しゃーないだろ。お前過去何人パートナーを殺して来た?その報いだろうよ」
「??俺のパートナーは全員止むを得ずなくなったんですよ?俺は何もしていません」
「『何もしてない』から死んだんだよ。助けられた所を助けない、みたいにな。だが『何もしない』選択を選んだからこそ国に貢献している部分もあるからお前の首を切れねえ。とんだ同僚殺しだよてめえは」
俺は上司に睨まれるが、目線を逸らし、肩をすくめるだけだった。
と、話が途切れた時、ドアをコンコン、と鳴らす音が響いた。
「来たか、入れ」
「失礼します」
俺は目を見開いた。
そこにはまさに美女がいた。
フードを被っているが、その隙間から溢れる髪は美しい森を想起させる透き通った緑色。
澄み渡った青空のような空色の瞳。
制服を身にまとった姿は理想の女性のスタイルを維持し、制服から伸びた肢体はしなやかで形容しがたいほど美しい。
手袋の間から覗く肌は絹のようななめらかでシワひとつない。
(嘘だろ…こんな美女と手を組むのか…嬉しいってよりも居心地が悪い!)
そんなことを思っている間、上司が口を開いて彼女のことを説明した。
「彼女は対戦闘用の部隊にいたが、この隠密部隊に移籍することになったそうだ。彼女の戦闘力は折り紙付きで、一騎当千まではいかないらしいが、かなりの実力者だ。巷に流れてる噂だと『過去最高の失敗作』らしい。後に魔石適正は上限突破の怪物だ」
「過去最高の失敗作」?上司の言葉に疑問をもっていたがその後の爆弾発言でその思考が吹き飛んだ。
「なんでそんな逸材がこんなところにくるんですか!どう考えても不釣り合いでしょう!」
「だからこそ、だよ。いったろ?失敗作だって。詳細は知らないが、御することができなかったんじゃないか?だからここに送って来たんだろう。だか逸材には変わらないからお前、こいつ殺したら首チョンパね」
「はぁ…わかりましたよ」
と上司はこの部屋を後にして、俺と彼女2人きりとなった。
とりあえずコミュニケーションをとろうと彼女に話しかけた。
「君、名前は?」
「私はk-157」
「はっ?今なんて?」
「k-157」
「それが名前なの??」
「うん」
(うそん!!?)
まさか上が失敗『作』って言ってたのはこういうことだったのか!と驚きを禁じ得ない俺だった。
こいつはあれだ、国が作った人間兵器、感情を全て削ぎ落とされた人間であり人間でない。
国に尽くす以外は何もしない、できない『孤独な愛国者』である。
悲惨な人生を歩むのを定められた哀れな人間だ。
(皮肉なことだな。人間らしく生きたいがな為に人間を捨てなければならないなんて)
俺はそんなことを思い、彼女と会話を続けるのだった。