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ミラーズ・ウォー 〜魔法の国編〜  作者: 虎一揮
第1章 2人の運命
11/11

逃亡戦

約一週間ぶりの更新です!


ギャレットが俺とキーの後を追う。

チェルドはまだ閃光線フェルテス・ソーティアの効果がまだ残っているようだ。

ギャレットの方が『身体強化ドレイラン』の効果が高い所為(せい)で互いの距離がじわじわと縮んで行く。

と、さっきキーに命令して置いた『怪物号令モルテス・ゲリーダ』の効果で四方八方から国の番犬である怪物(モンスター)がものすごい勢いでこっちに向かってくる。よし、後は仕上げか。


「キー、『歌謡指揮(シンティ・タクト)!』」


「わかった」


歌謡指揮(シンティ・タクト)』。

あっさり言うと怪物(モンスター)を操る魔法。

操れる怪物(モンスター)の数と精密性は反比例するが、魔力適性により、そのどちらもが両立させることが可能な魔法だ。

もちろんキーは規格外なので、ここに集まった第一派の最寄りにいた怪物(モンスター)程度なら全匹精密に操ることが可能だろう。


「キー!全体の6割をギャレットに向けて走らせろ!後の3割はチェルド!残りはこっちに寄せて身代わりにしろ!」


「ん」


怪物(モンスター)の挙動が狂う。

突然怪物(モンスター)は小刻みに震えだし、痙攣を起こして倒れこむ奴もちらほら。

歌謡指揮(シンティ・タクト)』の副作用だな。

操れない奴もいるんだよな、拒絶があまりにも強すぎて天に召されるモンスターが。

まあ人でも召される奴はいるけど。


怪物(モンスター)の痙攣が止まり、全体の統制が整ってギャレットやチェルドに向かって方向転換。

残りの1割はこっちに向かう。

怪物(モンスター)の中には近距離タイプや遠距離タイプが大まかには決まっており、彼らに向かう怪物(モンスター)はまるで軍隊のように近距離タイプ、遠距離タイプとしっかり区分けされている。

キーの記憶(メモリースティック)には隊を動かす戦術の定石(セオリー)がインプットされているようで、耐久型が前方に寄せられ、その間を突くようにリーチの長い武器をもつ怪物(モンスター)が振り分けられる。

遠距離型は援護(サポート)役をしっかりつけ、万が一の後方狙いを防ぐように考えられている。

飛行タイプは基本遊撃で、全体にバランスよく振られているようだ。

全方位から襲撃を仕掛けているから包囲殲滅を狙うようだ。

まあ定石(セオリー)かな。

数にしてはこっちがうん百倍勝ってるんだし。


「あぁ?さっき呼び寄せたやつか。んなザコいやつら足止めにもなんねえよ!そっちもわかってんだろ?」


ギャレットの周辺に魔力が満ちて行く。

陽炎(かげろう)のようにギャレットの周辺が揺らめき、次第に温度が上がって行く。

陽炎(かげろう)は全方位にじわり、じわりと広がり、一定の円を描くとピタッと止まった。

半径10m、やつの魔力の行使限界か。

やっぱり広いな。


「1発で終わらせてやんよ!『緋炎の業渦(ファルト・スクレルガ)』!」


ギャレットを中心にした円が一斉に発火して渦を巻く。

その高さはゆうに8mは超え、ギャレットをすっぽりと包み込んでいる。

メラメラと燃える炎は周辺に生えている草を焼き焦がし、大地に火が伝達されていく。

最接近した怪物(モンスター)も火に取り憑かれてしまい、断末魔の叫びを上げて倒れていく。

魔法の火は侮れない。普通の火とは違って残留しやすいからな。

次々と近接タイプの怪物(モンスター)が燃え尽くされ、辺りに肉の焦げた匂いが蔓延する。

操られている怪物(モンスター)だが、本能で死の危険を悟ったか、死線(デット・ライン)の一歩手前で足をすくまして動かない。


「仕上げにこれだ!『旋嵐迅散ウィルタ・トルティニク』!」


ギャレットを中心にして突風が同心円状に巻き起こる。

彼の周りにある焔は風に吹かれ、より一層火力が強くなる。

そして、突風に炎が写り、炎の効果範囲が爆発的に広がる。

やばい、ここまで届くぞこれは!

猛烈に広がる業火は周囲にいる怪物(モンスター)を無慈悲に焼き尽くしていく。

空に対する効果範囲も拡大しており、飛行タイプの怪物(モンスター)も焼き落とされていく。

断末魔の声を発するまでもなく。


「キー!『永久凍獄エタティクル・フリーゼ』!俺とキーを中心にして半球を描いて直撃数瞬前に展開!」


「ん」


ちなみに今俺は掻っ捌いた死体を引きづりながら逃走している。

身体強化(ドレイラン)』のおかげでなんとか運べているが、やはり人の死体は重い。

戦闘は完全にキー任せになってしまうが、援護程度なら出来る。

俺は『遠距離狙撃(ファデリク・スナイプ)』を使い、無数の魔力弾を後方にばら撒くように撃った。

その後闇媒をそれらに付与、重力場(ブラックホール)を形成し、焔の進行と威力を阻害しようと試みる。

だが、複合魔法(マルチ・マジック)はやはり同じ複合魔法(マルチ・マジック)でないと防げないか。

複合魔法(マルチ・マジック)はその名の通り、二つの属性を掛け合われた魔法のことだ。

対称的な魔法ならば威力は激減するが、相性がいいほど魔法の威力は指数関数的に増大する。

俺みたいな物理付与でないから威力もその分跳ね上がる。

そりゃ俺の用いたにわか作りの重力場(ブラックホール)じゃ防げる道理はないわな。


焔の壁は重力場(ブラックホール)をたやすく呑み込み、勢いの減衰は望むべくもなく、俺とキーの所に飛来する。

熱気が肌を撫で、皮膚を当たったそばから焼き焦がす。

身体強化(ドレイラン)のおかげで身体に悪影響はまだ防げているが、熱はジワジワと俺の命を刈り取りろうとする。


死を間近に感じる。

その時キーは『永久凍獄エタティクル・フリーゼを展開し、半球型に整えられた、無駄の無い氷の作品のような壁が完成する。


俺とキーはすぐ半球の壁の中に入り込み、焔の壁をやり過ごす。

灼熱の焔は氷の壁を溶かし尽くそうとするが、一向に氷が溶けそうな気配はない。

複合魔法(マルチ・マジック)に対抗できちゃう魔法ってなんぞ?って思っちゃうが、指示している俺が思うのも何だわな。


とにかくギャレットの複合魔法(マルチ・マジック)の猛威を逃れる俺たち。

焔の壁の威力が衰える所を捉えてもう一度走り出す。

後ろに振り返ってみるとギャレットはもう目前まで迫っていた。

さっきのギャレットの攻撃ですでに護衛に就かせた怪物(モンスター)は蒸発済み。

1発交戦して時間稼ぎをするか。

ギャレットの後方を見やると閃光閃光フェルテス・ソーティアの効果が抜けたチェルドがギャレットより俊敏な動きで距離を詰めてくる。

一度交戦した時に放っていた魔力を牽引しながら。


「さあ、再戦だ!手こずらせやがって!チェルド!遠距離から支援頼む!」


「あいよ!」


「キー!チェルドの魔法の相殺を頼む!俺はギャレットを足止めする!」


「ん」


俺は仕方なく担いでいた死体を後方へぶん投げ、臨戦態勢をとる。

やるしかねえか。

キーが俺から離れ、チェルドが飛び出した方向へと距離を保ちながら移動していく。

チェルドもギャレットの支援を早々に諦め、キーを撃破する事にシフトしたようだな。

さて、俺はこいつに改めて集中できるな。もう一回分析をしとくか。

地力はギャレットの方が上、正面で戦ったらまず負けるな。

優っていることとすれば経験とでしかないか。

しかもチェルドは銃を隠し持っていたから他にも科学兵器を持ち合わせているかのせいがある。

俺が最初視認して死角になっていた背中の辺りとかな。

ギャレットもそれなりの装備を持っているだろう。


俺は鯉口から剣をスラリと引き抜き、ゆったりとした態勢で迎え撃つ。

ギャレットもニヤリと頰を吊り上げ、右腰から剣を抜き出し、突きの姿勢でこっちに飛び込んできた。

俺はすぐさまサイドステップ、相手の進行方向から外れ、側面からギャレットに斬りかかる。

ギャレットもすぐに急停止し、その勢いを回転力に変え、振り向きざまに対応する。

まだギャレットは回転は止まらず、もう一度回転し、弧を描くように右脚による回し蹴りを放つ。

俺は両腕を交差して一瞬回し蹴りを受け止め、右は受け流す。

すぐギャレットの背後をとり、足払いを仕掛ける。

ギャレットは回転を止めず、そのまま右脚を足払いする脚に向けて放ち、俺の足とギャレットの脚が正面衝突する。

凄まじい衝撃が下半身を駆け巡るが、どちらも『身体強化ドレイラン』で強化している為、足を折れることはない。

少し互いの威力が拮抗するが、地力の差と回し蹴りの威力ですぐにこっちが押される。

すぐに脚を引き、ギャレットの蹴りを虚空へ回す。

その後両足で地面をつかみ、ギャレットに斬りかかる。

ギャレットも読んでいたようで、俺の放つ剣戟を悉く撃ち落とし、さらにはカウンターを仕掛ける。

俺は剣の腹でギャレットの剣を受け、すぐに軌道を晒す。

ギャレットの剣が一瞬俺の隣を通り抜け、俺は流れるように剣をギャレットの剣の根元に繰り出し、力の限り弾く。

ギャレットの剣が空に舞う。

武器を失ったギャレットだが、焦る様子もなく、すぐに背中から武器を取り出そうとする。


「させねえよ!」


俺はギャレットにタックルし、背中に回った手を受け身に回させる。


ギャレットは態勢崩す。


俺はすぐさま居合の構えをとる。


タックルの勢いを殺さずギャレットに最接近。


俺の繰り出した剣閃の鈍い輝きが闇夜を斬り裂き、ギャレットの腹部へ吸い込まれる。


「つっっっっ!!!」


ギャレットは即座に態勢を立て直し、こっちに飛びかかる。


と思えば右足が空中で静止。


右脚に力を入れて跳躍、後退。


俺の居合斬りは空を斬る。


器用なことをしやがる。

咄嗟に空中に魔力の足場を作って蹴りつけやがったか。


すぐに俺は追撃をする。


ギャレットに武器を取り出す隙を与えない。


即座に『遠距離狙撃(ファデリク・スナイプ)』で牽制。


ギャレットは『身体強化(ドレイラン)』の魔力を調整して魔力弾を凌ぐ。


その間を縫って俺はギャレットに接敵。


そして大上段から剣を振り下ろす。


ギャレットはこっちの接近にすぐさまサイドステップで剣線を回避。


俺は地面にあえて剣を叩きつけ、地面をえぐる。


ギャレットは地面の揺れの影響で背中に手を回せない。


俺は地面に突き刺さった剣を放棄、腰から副装備(スペア)短刀(ナイフ)を装備し、突撃(チャージ)を仕掛ける。


ギャレットは態勢立て直してすぐさま前に跳躍して回避。


俺の上をギャレットが通り過ぎる。

俺の短刀(ナイフ)のリーチを見越してだろう。

勢いが前に行っている分距離を取れると考えただろう。後は丁度俺の延長線上に剣の存在を確認したのも考慮に入れてだろうな。


だがそれは愚策。

俺は左手に忍ばせておいた針を右脚に投擲。


ギャレットは着地してすぐさま距離をとる。

その後すぐに落ちていた剣を拾い、こっちに振り向いた。



「つっ!!手前なんか俺の足首に細工しやがったな!煩わしいんだよ!」


ギャレットは足首に視線をやり、魔力をそこへ集めている。

あんなかすり傷程度のダメージに気づく触覚って何なんだよ…ただでさえ戦闘中で絶えず擦り傷を受けているはずなのに。

だが、毒だと思ったらちょっと違うな。

毒なら体内に魔力を巡らせ、侵食が浅く、少量なら消滅が可能で、最低でもその器官で止められ、またその器官の侵攻を抑えられる。

それが魔力となったら話は別だ。

毒は身体を侵す術は心得ているが、魔力に対する対抗手段はない。

だが、魔力となると魔力に対する耐性があるため、侵入されたら取り出すことは困難を極める。

また弱体化させることも通常の毒よりもハードなものとなる。

さらに特筆すべき点はこれだ。

突然ギャレットの右足が弾け飛ぶ。

辺りに肉片が飛び、周囲の景観を血の色で染め上げる。右足が生えていた部分からは絶え間なく血が流れていくのが見える。

ギャレットは小規模な爆発で少し浮き上がり、なんとか左足で着地をする。


「グアァァァァァ!!!…やってくれるじゃねえか!!仕込んだのは魔力だったか!」


「このご時世で毒なんて使うかアホ」


「それはそうだな」


得心したような顔で頷くギャレットを眺めて内心イラっとする。

少しくらい苦痛に顔を歪めろよ、片足が吹っ飛んだのによ。


やっぱりか。

ギャレットの右足には淡く魔力てま包み込まれ、止血と共に義足を魔力操作によって創り出させている。

徐々に輪郭がはっきりとしてきて、もうはっきりと足が視認できるまで魔力の密度が高まっている。


「これ嫌なんだよなぁ、感覚がねえから動かすの結構大変だし。まあそれが狙いの一つだろうけどよ」


ギャレットの言う通りだな。

感覚が無いのは戦闘の最中にはある程度ビハインドを()いられることにはなるが、魔力が剥き出しに、しかも超濃密度になっているのが一番大きい。

身体強化(ドレイラン)』は全身の魔力の濃淡を任意に変えられるから、物理的に魔力が五属に変えられる危険性をグッと下がることはできる。

さらに、『身体強化ドレイラン』はそれ専用の魔石からの魔力の抽出によるため、ある程度魔力には予め「力」という属性が振られているから意図して五属に変えようとしない限り、「力」の属性を変えることは出来ない。

だが、義足となると、濃淡の調整は出来ず、ずっと濃度を高くしていないと身体を支えることができないし、あまつさえ戦闘中のときより高濃度にしておかないと先頭に支障が出る。

高濃度だと五属の変換にはそれなりの威力が必要とされるが、もし変換する威力達した場合、大規模な五属による爆発が起こるってわけだ。

つまり、爆弾を抱えたまま、戦闘に挑むことになる。


よし、片足を牽制しつつ、あわよくばもう一つ足を失わせれば逃げられるな。

流石に両足が欠損した状態で追ってはこないだろう。

後はここにギャレットを足止めする方法を考えるだけ。


早々と戦闘が一区切りがついた為、チェルドとキーの戦闘に指示を出す余裕ができた。


「キー!チェルドの攻撃の属性は水と土!水を使うなら『放電雷砲(エレティル・キャノン)、土なら『驀進瀑布(ウォルテン・ウェーク)!」


「ん」


「よそ見してんじゃねえよ!」


ギャレットが怒りながら俺に向かって回転斬りを放つ。


右脚に上手く体重が乗せられない為、パワーもさっきよりも激減する。


俺は剣の腹を叩きつけて軌道を晒し、身体を開いた隙間にねじり込む。


そして振り抜いたギャレットに向かって逆袈裟斬りでギャレットを両断する。


ギャレットは振り抜いた勢いを利用してそのまま後ろに跳躍して回避、着地するとすぐに前屈みになり、少しためを作り距離を詰めにかかる。


ギャレットの剣線を即座に見切り、避けては側面を叩きつける。


さっきから近接戦闘が続きすぎだな。

指示も出しづらいからなこっちも中距離戦闘へ移行させてもらうとするか。


俺はギャレットの突進(チャージ)をわざと受け、同時に軽く後ろへ飛ぶ。


衝突の勢いで後方10mまで退き、俺はすぐに『遠距離射撃(ファデリク・スナイプ)』の魔石を取り出し、ギャレットに向けて撃ち抜く。


また距離を詰めようとしたギャレットは俺の狙撃に気づき、サイドステップで避け、こっちに恨みがましい目線を向ける。


「おいおい、斬りあいじゃねえと思わねえだろうがよ…。さっさと戻って来いや!」


「なんでお前の土俵で戦わなきゃならねえんだよ。こっちの方が都合がいいから次からこっちの方で戦おうじゃないか」


「クソが!おいチェルド!狙いやすくなったろ!さっさと撃ち抜け!」


「……」


「おいチェルド!どうした!返事をしろこのクソチビ野郎が!!」


ギャレットがチェルドがいた方向に振り向くと、身体から煙を上げたチェルドが地面に横たわっていた。

さっきの怪物(モンスター)ほどにはいかないが、全身が焦げて、生きてはいるが、再起不能な状態になっている。


「どうなってんだ!?なんも燃える音とかしてなかったぞ!何が起こった!?」


猛烈に取り乱しているギャレット。

片方の仲間は両断され、残りはこんがり焼かれてしまってやっと焦りの色が出てきたか。

こりゃ勝機が出てきたか?

俺はキーの戦闘能力をかなり下に見積もっていたようだな。


戦闘描写の表現の向上に励みます!

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