空を飛んだ姫
ある城に、ユーラという一人のお姫様が住んでいました。そのユーラ姫は、一度も外に行った事がありませんでした。ある夜のこと、ユーラ姫が空を見ながら言いました。「一度でいいから外の世界を見てみたいわ。大空の下で、走り回ってみたいわ。」すると、星がどんどん窓の外に集ってきました。その星は沢山集まり、お城の外ヘ行くための階段になりました。そして、一つの星が言いました。「ユーラ姫、どうぞお逃げ下さい。お城の外で、沢山遊んで下さい。」ユーラ姫は一歩足を前に出しましたが、すぐに引っ込めました。ユーラ姫は迷っていました。何故なら、ユーラ姫は来週大きな舞踏会が自分のお城で行われるからです。今日お城を出れば、舞踏会には間に合わないでしょう。それでもユーラ姫はお城の外に出たいという気持ちが大きくて、階段を一段一段おりて行きました。階段をおり終わった時、星が忠告しました。「ユーラ姫、二度とここに戻って来てはいけません。いいですね?」すると姫が言いました。「私の城よ?どうしていけないの?」星はその質問に、こう答えました。「姫が戻った時、姫は一生外ヘは出られなくなってしまうのです。」それを聞いた姫は、星にお礼を言って真っ直ぐ走り出しました。森を走っていたユーラ姫は、疲れてしまいました。すると、ユーラ姫は切り株を見つけました。「あら、こんな所に切り株があったわ!」ユーラ姫はその切り株に座り、そのまま目を閉じました。森の風を子守歌とし、夢の中に落ちていきました。ユーラ姫が眠った頃、一人の王子が現れました。「大丈夫ですか?」王子が話し掛けても返事がないので、王子はユーラ姫を一緒に馬ヘ乗せ自分の城ヘ向かいました。ユーラ姫が起きると、そこは森の中ではなく、綺麗なベッドの上でした。「ここはどこなの?」辺りを見回し、ユーラ姫はベッドから降りようとしました。その時、男の人の声がしました。「もう少し休んでいるといい。」声のした方を見ると、白いタキシードを着た男の人がいました。「あなたは誰なの?」ユーラ姫はベッドに座りながら男の人にそう質問しました。「僕はこの国の王子、マロンです。」「マロン?この国の王子って事は、私はあの国から出られたのね!」ユーラ姫はマロン王子の目の前に行き、お礼を言いました。「マロン王子、ありがとうございます。」「何がです?」「あの国から私を逃がして下さったのです。」ユーラ姫がそう言うと、マロン王子は首を傾げました。「貴女の名前は、何ですか?」「私はユーラですわ。」「ユーラ姫?」マロン王子は驚いた顔をしました。来週、隣の国のお城で行なわれる舞踏会の主催が、ユーラ姫の父親だったのです。「どうかなさいましたか?」「いいえ。」マロン王子は迷いました。この事を言うべきか、言わないべきか。結果、言わない事にしました。マロン王子は、ユーラ姫に一目惚れをしてしまったのです。なので、ユーラ姫をずっと傍に置いておきたかったのです。「マロン王子?」「朝食がまだでしたね、どうぞ付いて来て下さい。」「はい。」ユーラ姫はベッドから降り、マロン王子の後を付いて行きました。少し歩くと、大きな机が見えてきました。「そこに座ると良い、ユーラ姫。」「はい。」ユーラ姫とマロン王子は、向かい合うように座りました。「ユーラ姫、貴女はどうして森の中に居たのですか?」マロン王子がそう質問すると、ユーラ姫はこう答えました。「私はお城を出て逃げていた途中なのです。」「でわ、どうして逃げたのです?」するとユーラ姫は、黙り込んでしまいました。「ユーラ姫?」「私は、一度も外に出た事がなかったんです。」ユーラ姫はそれ以上何も話さず、ご飯を次々と口に入れていきました。食べ終わると、マロン王子が言いました。「外で遊びませんか?馬に乗ったり、走り回ったり。どうですか?」「いいのですか?」「はい!」ユーラ姫は喜びました。やっとユーラ姫の願いが叶う時が来たのです。庭に出ると、馬が一頭いました。「これは何?」「馬ですよ。乗ってみますか?」「はい。」ユーラ姫を前に、マロン王子は後ろに乗りました。馬が動くと、ユーラ姫は喜びました。初めてだったのです。「マロン王子、私は走ってみたいです。」「走る?」「はい。」ユーラ姫がそう言うと、マロン王子はユーラ姫を馬から降ろしてくれました。「走りましょう。」「はい」ユーラ姫は庭をずっと走っていました。回ったり、ジャンプしたり。「ユーラ姫、疲れたでしょう?少し休みましょう。」「はい。」ずっと走り回っていたのです。ユーラ姫がベッドで眠ると、マロン王子は大広間に行きました。「ユーラ姫は僕の事を何と思っているのでしょうか。」誰もいない大広間、マロン王子の声だけが響き渡ります。すると、どうでしょう。天井から何かがやって来たのです。「誰だ!」「私は女神です。もうすぐユーラ姫の家来がやって来ます。早く、早くユーラ姫を。」マロン王子は驚きました。羽の付いた女の人が話したからです。「早く、ユーラ姫を安全な所に。」「分かりました。」マロン王子は眠っているユーラ姫と地下の部屋に一緒に入りました。「きっとここなら大丈夫だ。」マロン王子は内側から鍵をかけ、絶対に入れないようにしました。すると、声が聞こえてきました。「姫は何処だ!ユーラ姫を何処ヘやった!」ユーラ姫の家来です。ユーラ姫はその声で目を覚ましました。「ユーラ姫、貴女を助けたいと思います。」「はい。あの、私、」「どうかなさいましたか?」王子がそう聞いても、ユーラ姫は何も話しません。「あの、マロン王子。」「はい。」「私、」ユーラ姫が言いかけると、扉の場所が見つかってしまいました。「長官、こんな所に扉が!」「扉だと?」家来達がこちらに近付いて来るではありませんか。簡単に鍵を解かれ、ユーラ姫を奪われてしまいました。「ユーラ姫!」「マロン王子!」ユーラ姫は家来達にお城に連れて行かれました。「マロン王子。」ユーラ姫はずっとお城に着くまで、そう呟いていました。一方マロン王子は、自分の部屋に籠っていました。「僕のせいだ。僕がもっと警戒していれば。」マロン王子はずっと後悔していました。すると、さっきの女神が出て来ました。「マロン、来週会えるではありませんか?」「ですが。」「大丈夫です、来週まで待ちましょう。」マロン王子は少し考え、それから返事をしました。「はい、来週まで待とうと思います。」マロン王子の返事を聞くと、女神は消えていきました。舞踏会前日、ユーラ姫は困っていました。ユーラ姫の父親が婚約者のドール王子を連れて来たのです。「お父様、私はもうお慕いしているお方がいるのです。」「それは誰だ!」「言えません。」ユーラ姫には、お慕いしている方がいるのです。なのでユーラ姫は、婚約者などいらなかったのです。「ユーラ、結婚の正式発表は舞踏会だからな!」ユーラ姫はそこから逃げるように自分の部屋には入りました。「誰も私の気持ちを分かってくれないわ」ユーラ姫はずっと泣き続けました。「外に出たいわ。外に出させて」ユーラ姫はどうしても外に出て、マロン王子に言う事がありました。どうしても、言わなければいけなかったのです。マロン王子は、明日の舞踏会に向けてお城を出ました。「ユーラ姫。」馬を走らせ、家来達と共にユーラ姫のお城ヘ向かいました。そして、舞踏会当日。「皆さん、来て下さってありがとうございます。」舞踏会には沢山の人が集まりました。勿論、マロン王子もです。「でわここで、娘を紹介したいと思います。ユーラです。」拍手の中、ユーラ姫の手を引いてドール王子が現れました。「正式に、娘のユーラと、ドール王子の結婚を発表します。」マロン王子は驚き、声も出ませんでした。しかし、我に返るとすぐに声を張り上げました。「ユーラ姫!僕と結婚して下さいますか?」ユーラ姫はマロン王子が居た事に驚きました。「ユーラ姫!返事を下さい!」ユーラ姫は黙り込んでしまいました。そして、階段をいっきに降りたのです。「結婚して下さい。」「はい!」二人は手を繋ぎ、お城を出ました。「どうぞ、乗って下さい。」「はい」馬に乗った二人は、森を抜け、崖に出ました。後ろからは、家来達が追って来ます。「どうしましょう。」「まずは、落ち着こう。」マロン王子は、もうユーラ姫と別れたくないのです。「ユーラ姫、僕は貴女に言いたい事がある。」「何でしょうか?」深呼吸をして、マロン王子は言いました。「好きです。」「私も!私も、マロン王子をお慕いしております。」やっと気持ちが繋がりましたが、家来達はどんどん近付いてきます。「マロン王子、私はずっと一緒にいたいです。」「ユーラ姫。」マロン王子は考えました。すると、ユーラ姫が言いました。「死ぬ時も、一緒ですよ?」ユーラ姫は分かっていたのです。一つしか方法は無いのです。「ユーラ姫、本当に良いのですね?」「はい」「後悔しませんか?」「はい」「でわ、どうぞ」マロン王子はユーラ姫に手を差し出しました。ユーラ姫は、その手を取りました。二人が見つめ合っている時、家来が来ました。「見つけたぞ!」その声と同時に、マロン王子とユーラ姫は身を投げ出しました。落ちる途中ユーラ姫が光り、大きな羽根が見えました。「これは、あの女神と一緒だ。」ユーラ姫は、女神の子供だったのです。「一緒に、行きましょう?」マロン王子が頷くと、空高く上っていきました。二人は星になり、ずっと一緒でした。