煙草
中に入ると宿とは思えないくらい可愛い部屋だった。
「可愛い部屋に泊まってるんだね」
「私の印象とは真逆なんですけど可愛いものが好きなので……あ、そこに座っててください、紅茶入れてきます」
そう言うとノアは返事も聞かずにキッチンに向かった。
「あれ?俺女の子の部屋に一人じゃないのか?」
そう、考えてみるとノアはキッチンで俺は今何をしてもバレない状況に置かれているのだ。
「まあ、こんな時は変な事はしないように大人しく待つべきだな」
一人で葛藤していると体が勝手にクローゼットの前まで歩いて行き手を伸ばしていた。
「待て待て、俺は何をしようとしているのだ、女の子のクローゼットなんか絶対ダメだろ!!」
そう言い聞かせていても男の子の性だ、クローゼットに手をかけ開こうとした時
「アヤカさん何をしているんですか?」
まずいバレてしまった、これは有無を言わずして現行犯だ。
「い、いや!!ノアちゃんがどんな服着るのかなって思って」
俺は馬鹿だ、素直に言ってどうする。
「ふふっ、アヤカさんは面白いですね」
そうか、俺は今女の子だったのを忘れていた
「クローゼットの中には何も入れてないですよ、私の私服なんて地味なので見ても得しませんし……紅茶入れたのでどうぞこちらに座ってください」
俺の葛藤は無駄に終わったようだ。
俺はノアに入れてもらったレモンティーを飲みながらゆったりとした時間を過ごす。
「ノアちゃんちょっとベランダ行ってきていい?」
「大丈夫ですけど、どうしたんですか?」
「煙草吸いたくなっちゃって」
「アヤカさん煙草吸われるんですね……」
ノアは悲しそうとはちょっと違うがほんの少し困っているような顔をした。
女の子が煙草を吸うと言う行為を考えたらそういう反応は妥当だろう
「考え事してたら吸いたくなる時があるの、その内禁煙するから心配しないで」
こう言い残しベランダに出る、良くは見てないがノアは少しだけ安堵したように思えた。
俺は煙草に火を点け一吸い、更に二吸いし腰をつく。
この煙草はもちろん親の金で買った物だ、異世界に飛ばされて気づいたが相当クズな行為だと俺は反省をした。
今思えば本当に異世界に来ただなんて日本に居た頃からは想像つかねえよな、家の奴等は俺の事邪魔者扱いしてたし現実世界に未練なんてものは一つもないし、この世界も金さえあれば不自由することはないだろう。
しいて言うならばこれから先の人生が全く読めない事だ。
冒険をしていたら死ぬ事もあり得るだろうし慎重に行動しなければならないな、最後に一吸い深く肺に入れ煙草の火を消す。
「ただいま、もう外も暗いしそろそろ帰るよ」
するとノアは不思議そうな顔をしてこちらを向いた。
「アヤカさん泊まっていかないんですか?」
予想外のお誘いに驚き、嬉しさを隠せなかったが流石に女の子の姿とはいえお泊りはやばいでしょ!!
「い、いや、流石に女の子とはいえ知り合ったばかりの人を泊めるのはどうなんだろう?」
「知り合ったばかりでもアヤカさんは助けてくれた“良い人”ですし問題ないですよ?」
まてこの子は良い人なら誰でも止めるのか?俺としては凄く嬉しい提案だが女の子と一つ屋根の下はマズイだろ、丁重にお断りをしなくては。
「気持ちは嬉しいけど……ほら!この部屋ベット一つしかないし、また今度お泊りしよ?ね?」
「確かに一つしかないですね、忘れていました。ではまた明日ですね」
と、ノアは残念な表情と共に微笑んでそう言った。
「一応この宿には泊まるからまた明日の朝この部屋に迎えに来るね」
おやすみと挨拶を交わし部屋を出た俺は宿舎で一泊分のお金を渡し鍵を受け取る。
「ノアより安い部屋選んだんだけど一泊分でこの値段って……」
やはりノアは金銭面が少し狂っている様だ。
自分の部屋に入り質素な椅子に腰を掛け、周りを見渡す。
「安さで選んだから文句は言えないがノアの部屋を見た後にこの部屋は少し物足りないな」
俺は軽くシャワーを浴びようと脱衣所に行き服を脱ぎ始める。
「やはり自分の体なんて需要が感じられないな」
そう言いながらも鼻血が出ていた。
シャワーを浴び終え、髪を乾かし現実世界に居た時に着ていた無地のロングTシャツに着替える。
ベランダに出て煙草に火を点け心を落ち着かせる。
「この体に慣れるまでは生活が大変そうだな」
空を見上げると先程より色濃く深い海の底の様な夜空、その深海から見える光の様な綺麗な星が映っていた。
「引きこもっていたら絶対見れねえ物だな」
そう呟き俺はベッドに入り眠りについた。