初ダンジョン。
「おはよう!!アヤカ起きて!!」
俺はレイチェルのうるさすぎる元気な声で起こされた。
「おはようレイチェル、今何時?」
「今は朝の五時だよ!!」
何言ってんだこいつ。
「おやすみレイチェル」
俺は再び眠りに就こうとしたが無論レイチェルがそんな事許してくれるハズもない。
「何寝ようとしてるのさ!!僕だって君に起こされたみたいなものなのだからな!?」
ん?俺は一度として起きていない、ましてやレイチェルを起こしてなんかいないぞ。
「何寝ぼけた事言ってるんだい、あれを無意識でやっていたのだとしたら君はやはり変態だ」
え?待って待って、寝てる俺レイチェルに何をしたの?
「……非常に聞きづらいですが私はレイチェルさんに何を?」
レイチェルはもじもじしながら赤面して口を開いた。
「……僕が寝てたら君がいきなり抱き着いてきて……キスをしてきて……〇〇とか〇〇とか……」
おっと、俺の意識が無いのを良いことに性欲さんは好き勝手やってくれたようですね。
「あ、危うく僕の貞操が君に奪われる所だったんだからね!?」
「記憶に残っていないのが非常に残念だ……」
しまった、またやらかしてしまった。
これは流石のレイチェルでも起こるんじゃないかと思ったのだが
「いくら僕でも最初位はちゃんと男の子が良いよ!!」
「え?怒ってる理由はそこなの?」
流石の俺でもこの回答は予想外だ。
レイチェルは更にもじもじしながら小声で
「二回目以降君なら大歓迎だからもう少し待っててほしいな……」
早朝から何を口走ってるんだこいつ、俺が男のままなら間違いなく今のフレーズで元気になってたぞ?いやあえてナニとは言うまいが。
これ以上この話をしているといろいろな方面でよろしくないので強制的に終わりにする。
「じゃあその時まで待ってるよ、とりあえずお腹空いたし着替えて腹ごしらえしようよ」
「そうだね、じゃあ」
バッ!!
「またかよ!!デジャヴかよ!!早く向こうで着替えてきなさい」
着替え終わった俺たちはこの時間からやっているレイチェルおススメのお店に行き食事をする。
「つかなんで朝日が昇ってないのに朝ご飯食べてるんだろうな」
「それは君が僕に……」
「よし、ご飯も来たし食べながら炭鉱について作戦を考えようか」
「今回のメインは君のレベル上げだし炭鉱の奥までは行かないと思うけど念の為に話しておこうか」
「はい先生」
サラダに刺していたフォークがいつの間にか喉元まで来ていた。
「冗談です、とりあえず私のレベ上げもそうなんだけどレイチェルの宝探しはどうするの?急がないとメアリーちゃんに盗られるよ?」
レイチェルはどう思っているか知らないがメアリーからしたらこれは早い者勝ちのバトルと言ったモノだろう。
「それは多分大丈夫じゃないかな」
「どうして?」
普通に考えれば未だに自分が盗れていない物を他の人に盗られるリスクを考えれば俺のレベ上げは後回しだろう。
「そこのお宝に執着している奴等が居ると前に言っただろう?」
「確かに言ってたね、だったら今すぐにでも行ってそいつ等が来る前に盗ればいいだけなんじゃないの?」
執着と言ってもこんな時間から居る訳が無いよな。
「そんなことが出来てるなら最初っから僕だってこんな炭鉱に執着はしないよ、良いかい?そいつ等は炭鉱の宝が湧く手前で住み着いているんだ……しかも一人や二人じゃない」
「ちなみにお聞きしますが何人ほどで屯しているんでしょうか?」
「一度見たときは二十人は超えてたね、だからそう簡単には盗れないしメアリーにも盗られないって考えだよ」
確かにそれほどまで頑丈に守られているのならいくら元魔王軍幹部でも厳しいだろう。
「じゃあ俺のレベルを数日かけてある程度の所まで上がれば二人でお宝ダッシュって感じかね?」
「そう言う事だね、数で負けててもレベル差があれば大丈夫じゃないかな?始まりの町で屯してる連中だしレベルそこまで高くないだろうし」
レイチェルの考えは間違ってはいないだろう、そう思い早速朝食を食べ終え炭鉱にレベルを上げに行く。
「レイチェルってただお宝が好きなロリッ子だと思ってたけどちゃんと考えて行動しているんだね」
「また僕の事ロリって言ったな?まあ戦いに関してはちゃんと作戦を練らないと死に直結する場合もあるからね」
「確かにな」
レイチェルと話しながら山を登りノアと一緒に狩りをした場所を奥に進んでいく。
「ここはノアと狩りをした場所だ……」
「今は炭鉱の事を考えてほしいんだけど?命を落としたらノアに会えなくなっちゃうよ、僕にちゃんとはぐれない様についてきてね」
レイチェルの言う通り今は余計なことを考えている場合なんかじゃない、早くレベルを上げてノアを迎えに行くためにも。
「着いたよ、ここが炭鉱の入り口だ」
「思ったより遠かったね、戦う前から疲れたよ」
出発前はまだ薄暗かったが既に朝日が昇っていた。
「本当に君は体力が無いんだね、さあ頑張ってレベルを上げようじゃないか!!」
レイチェルは発言と共に炭鉱へスタスタと歩いて行く。
中に入ると松明が焚かれ意外と明るかったがどことなく苦手な雰囲気だ。
「って言うか私達がここで狩りをしていたら寝泊りしてる奴等に怒られないの?」
朝っぱらから自分家の玄関で戦われていたら普通は怒鳴りに来るはずだ。
「まああいつ等はお宝さえ取りに行かなければ静かな冒険者なんだよ」
「本当にお宝を守ってる階層ボスみたいだな」
「おっと、話している途中なのに気が早いなあ」
目の前にはコボルト?みたいなモンスターが四匹固まって表れた。
「一つ質問をしても良い?」
「なんだい?」
「あのモンスターのお名前は?」
「あの小さい奴が野良犬で一匹だけちゃんと装備を身に着けている奴がコボルトだよ
石ッころと言い弱いモンスターの名前がいちいち可哀想なんだよ……俺がその内ちゃんとした名前を考えてやるからな野良犬。
「じゃあ僕は危なくなるまでここで見守るから頑張ってきなよ!!応援してるから!!」
「お、おう!!」
ここの適正レベルとは程遠い俺が危ない目に合わないわけが無いと思いながらも今までネトゲで鍛えてきた自分の腕を信じて剣を握りしめた。
ありがたい事にこの世界は適正レベル装備システムが無い分おっさんから貰った金で良い装備を手に入れたがレベルが低い分極力ダメージを受けたくない……よく言えばヒットアンドロ―を悪く言えばやり逃げをし、雑魚から仕留めていくのがベストだと踏んだ俺は距離を少し開け敵が突っ込んできたタイミングで垂直切りをしていく。
「アヤカレベルに見合わぬ戦いっぷりだね、正しい選択だとは思うけど僕なら一気に仕留めちゃうかな」
「俺とレイチェルのレベル差と使えるスキルを考えてから発言して欲しいんだけど!?」
「アハハ!!確かにそうだね」
「つか一匹仕留めたけど流石に三対一は厳しいんだけど助けえもらえたりしない?」
こんな会話をしている間にもコボルトと愉快なワンちゃん達は俺を殺しに来ている。
「君ならこれくらい大丈夫だと思うからまだ助けてあげないよ?」
「クソロリぼくっ子が!!!!!!!!」
俺はそのまま怒りを敵にぶつけるかの如く猪突猛進で剣を振り回した。
実際は三分程度しか経っていないのだろうが体感時間は十分をとうに越しているような気がした。
「ラストはてめえだけだぞクソ犬野郎が」
「アヤカー口が悪くなってるよー、それとこの戦いが終わったら僕に吐いた暴言を撤回してもらうからね?」
ニコニコしているレイチェルが怖いので一刻も早くこいつを倒してジャパニーズ土下座といきましょうか。
「グウオォ!!」
スキルも使わずに身体能力で敵の攻撃を避ける
「単調な攻撃ばっかしてんじゃねえよ二足歩行の犬ッころが!!」
避けた流れで振り返りながら敵を真っ二つにした。
「あー、疲れたよ」
「お疲れアヤカ!!レベルはどうだい?」
カードを確認すると8レベに上がっていた。
「やっぱ適正以上はしんどいけど経験値が美味しいね」
「コボルトが美味しかったんだね」
こんな会話を俺は正座の状態でしていた。
「次にこいつらがリスポーンするまで時間もあるしお昼にしようじゃないか」
「食材持ってないのにどうするの?」
レイチェルが指さしていた場所には先程俺が倒した野良犬が居た。
「え?これ食べるの?いや食べれるの?」
「丸焼きにすればなんでも食べれる物じゃないのかい?」
「今までそんな生活してたの?」
「うん!!」
ダメだ、こいつに常識の生活は通用しない……。
「まあ今回は丸焼きで良いけど次からは私が作るね」
ご飯くらいは冷蔵庫に入っている物を使って自分で何とかしないと生きていけない生活だった俺は自炊だけには慣れている。
「お!!君の手作りは楽しみだね!!じゃあ今回は僕が火を起こしてあげようじゃないか!!」
俺達はその場でお昼にした。