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なまはげ?

「温泉?」


あまりにテンションの高い暖に、ちょっとタジタジとなりながら、正妃が聞いてくる。


「ソウ! 温泉! 温カイ、オ湯。ユックリ、タップリ、ノンビリ、入ッテ、健康バッチリ! 心、体、元気ナル! 魔界、温泉ナイ?」


片言ながら、暖は言葉を連発する。身振り手振りをまじえて、温泉の説明をした。

彼女の勢いに、全員ひき気味だ。


「……えっと、それって大きなお風呂のことかしら?」


笑みを引きつらせながら、モノアが質問した。後宮には、どこぞの温泉施設も真っ青なくらい大きい豪華絢爛な浴室がある。モノアの質問は、全員思ったことだった。


しかし、暖は「違ウ!」と大声で否定する。


「温泉、タダノオ湯ナイ! 決メラレタ成分入ッテル、効能アル! 体、トッテモ癒サレル!」


日本には、温泉法というものがあり、決められた成分が一定以上含まれているものを温泉という。ただのお風呂と温泉は、明確に区別がつくのだ。


「温泉、国ノ法デ定義サレテイル!」


だから違うのだと、暖は声高に主張した。


「そんな……法? は、聞いたことがないわ」

「それって、必要なものなの?」

「人間というものは、おかしな法を作るのね」


正妃とモノア、イノトは、不思議そうな顔をして首を傾げる。

もちろん、この世界の人間界に、そんな法律はないはずだった。なにせ、異世界日本から温泉を召喚するぐらい、温泉がない国なのだ。地球にしたって、日本のような温泉文化を持つ国は少ない。温泉法なるものが、外国にあるかどうかは、暖だって知らなかった。


しかし、今、その説明を正妃たちにする必要はないだろう。重要なのは、魔界に温泉があるかどうかだ。


その後、暖は片言を駆使して、モノアと正妃から魔界の温泉情報を聞き出そうとした。




――――結果、暖にとって非常に残念なことに、魔界には温泉がないことが、判明する。

魔族は頑健な種族。温泉で疲れをとったり、ましてや治療をしたりすることはなかった。


「ナイモノハ、仕方ナイワヨネ」


暖は、意外にあっさりと納得する。

しかし、決して温泉を諦めたわけではなかった。

こと温泉に関して、暖が諦めることなんて天地がひっくり返ってもありえない!

暖をよく知る妹や親友、何より義弟が、その事実を声を大にして証言してくれるだろう。



「ナイナラ、作レバ、OK!」



案の定、力強く暖は、そう宣言した。


「作る?」


不思議そうに首を傾げる正妃たち。

暖は、大きく頷いた。


「私、知リ合イ、温泉呼ベル人イル!」


ニコニコと笑う暖の笑顔は、無敵だ。

虫の知らせとでもいうのだろうか、正妃たちの背中にブルッと悪寒が走る。


「……ウララ、その人って?」


恐る恐るモノアが聞いた。


「チョット気難シイ、オバアチャン。デモ、ホントハ、優シイ! 大丈夫!」


暖は、ドンと大きく胸を叩く。次の瞬間、派手にゴホゴホとむせた。

正妃とモノア、イノトやブラットまでもが、むせる暖を不安そうに見つめる。




「……その人の名は?」


聞いてはいけない! 何故かそう思いながら、しかし、話の流れで聞かないわけにもいかず、正妃は、たずねた。


聞かれて、暖はにっこり笑う。



「ディアナ!」



きっぱりと、暖は答えた。






…………どこかで聞いた名だなと、正妃は思う。

モノアとイノトは、なんだか聞き覚えはあるものの、思い出すことができずに首を傾げる。


ブラットは、――――大きく目を見開いた。


次の瞬間、まるで鬼の首をとったかのようなドヤ顔で、立ち上がる。



「ついに正体を表したな! やっぱり、お前は魔界を滅ぼすために、人間界から送り込まれた刺客だろう!」



暖をピシッと指さしながら、ブラットは大声で叫んだ。


一方、さされた暖は、目をパチクリさせる。


「ブラット?」


正妃も不思議そうな声をあげた。

ブラットは、ますます声を大きく張り上げる。



「なにが、優しいおばあちゃんだ! ……『ディアナ』とは、忌み嫌われた魔女の名! 魔族の子供が言うことを聞かない時に、脅しに使われる、恐怖の対象だ!」





――――魔界では『悪い子になると、ディアナが来るよ』と、子供を脅すのだという。

悪い子の代表だったブラットにとって、その名は、忘れようのない恐怖の対象だった。


(……ディアナったら、魔女じゃなくて“なまはげ”なの!?)


秋田県の有名な伝統行事を思い出した暖は、心の中で大声をあげる。



「……ブラット。あなたという子は。いくらなんでもそれは言いがかりよ。『ディアナ』は、おとぎ話の中の魔女でしょう?」


正妃が、深々とため息をつく。モノアや、イノトでさえも、呆れ顔だ。


「違う!」


ブラットは、首をブンブンと振って否定した。



「違う! 違う! こいつは間違いなく人間の刺客なんだ! ――――“ダンケル”が、人間界から魔界に連れ込んだ“災い”に、違いない!」



ブラットが「ダンケル」と言った瞬間、正妃の顔が強張った。

表情がすっかり抜け落ち、美しい顔が、まるで能面のように変化する。



「……ダンケル?」



何の感情もうかがえない冷たい声が、正妃の口からもれた。



「そうだ! こいつは、ダンケルが後生大事に抱えてきた女なんだ! ダンケルの奴、後宮から魔界乗っ取りを企んでいるに違いない!」



ダンケルは、誰もが認める魔王の嗣子である。彼が魔界を乗っ取る必要は、これっぽっちもない。

ブラットの言い分は理の通らないものであったが、彼は自信たっぷりに言い切った。



そして、その言葉が響いた次の瞬間――――



正妃の体から、膨大な威力の攻撃魔法が、暖をめがけ放たれた!




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