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世界に一つだけの(うん、パクリだわ)

「外ス、違ウ。緩メルダケ」


「それだって嫌よ! 私に、触らないで!」


暖が説得するのだが、モノアは必死に抵抗する。どうしてそんなに嫌がるのだろう?

困惑する暖を、モノアはキッと睨みつけた。


「私は、陛下の側妃なのよ。醜く太るわけにはいかないわ!」


ハッキリ暖を見ながら「醜い」と言うモノア。彼女が暖をそう見ていることは確実で、流石に暖もカチンときた。


「私は醜くないわ! 醜いのは、あなた達よ! 生命としての在り方まで歪めて、そんなものが美しいはずないでしょう!」


感情のままに、暖は叫ぶ。

――――子をなし、自分たちの種を次世代に繋ごうとするのは、生物の本能だ。根本的な本能を危うくしてまで、魔族の女性は痩せることに拘っている。それは種として、とてもイビツなことだった。そんな状態を美しいと言えるわけがない。

興奮のあまり日本語で怒鳴った暖の言葉は、魔族には伝わらない。しかし、それでも暖の強い怒りと悲しみは、間違いなく伝わった。


「……ウララ、コルセットを緩めることは、姫さまにとって必要なことなのだな?」


真剣な顔で料理長が確認してくる。

暖は、大きく頷いた。


「ソウ! 死ニタクナケレバ、絶対、緩メル必要!」


暖の言葉を聞いた料理長は、キッと表情を引き締める。


「姫さま、失礼いたします!」


サッと立ち上がると、素早くモノアに近寄った。


「嫌よ! 何をするの!?」


抵抗するモノアの体を、料理長は押さえつける。


「姫さま、どうかご辛抱ください! 後でいくらでも罰を受けます」


モノアに謝りながら、料理長はコルセットに手をかける。呆然とする警護の一つ目を叱りつけた。


「何をしている! 早く手伝え! 姫さまのお命を救うのだ!」


鬼気迫る勢いの料理長。一つ目がギラギラと輝き、はっきり言って恐ろしい。その迫力は、料理長より身分が上に思われた警護の三人が、慌てて従ってしまうくらい。


おかげで暖は、少し落ち着くことができた。

四人に押さえられ無理やりコルセットを緩められたモノアは、両手の中に顔をうずめ、肩を震わせ泣いている。ほんの少し緩くなっただけのコルセットは、外見上何も変わらず、モノアの腰は病的なまでに細いままだ。なのに、たかがそれだけのことで、彼女はこの世の終わりかというように泣いている。

暖は、モノアが哀れになった。




「ねぇ、あなたの生きる価値は、美しくあることにしかないの?」


思わずそうたずねていた。日本語の暖の言葉は、やはり通じない。しかし、声に宿る悲しみと切なさ、そして憤りともいうべきやるせなさに気づいたのか、モノアは顔を上げた。涙に潤む一つ目を暖はしっかり見つめる。


「美シイ、全テ、ナイヨネ? 生キル、ソレダケ、凄イコト。大キイ、キレイ目デ、モット広イ世界、見テ」


美しさだけにこだわらないでほしいと、暖は思う。世界は広く、様々な生き方、考え方がある。

いくら魔王の側妃とはいえ、ただ魔王の側で美しくあることだけが全てではないはずだ。


「私は、側妃なの。どんな魔族女性より、常に美しくあらねばならないのよ」


モノアの言葉に、暖は首を横に振る。


「ソノ前ニ、一人ノ、モノア。……タッタ一人ダケノ」


かつて流行った歌ではないが、彼女は世界にたった一人のモノアという女性だ。魔族で、たぶん一つ目の一族のお姫さまで、きっと真面目でなんにでも一生懸命な女性なのだろう。側妃というのは、彼女の身分を表す呼称の一つでしかない。側室であろうとなかろうと関係なく、彼女自身を大切に思う者もいるはずだ。


(多分、料理長はそうよね?)


だから、彼女には自分を大切にしてほしいと思う。


「側妃でない私になんて、価値がない」


「違ウ! 料理長――――エット、シムス? モノア、大好キ! ……ダヨネ?」


暖が聞けば、ハッとした料理長は、ものすごい勢いで頷いた。


「私などが、姫さまを“大好き”などと、おこがましいことですが、……私は、モノアさまがお小さい頃から、ずっと心からお慕いしております。側妃であろうとなかろうと、私の忠誠はモノアさま、ただお一人のものです」


真摯な表情で料理長は言った。


「当然、私も!」

「私も!」

「私もです!」


警護の三人も、我先にと声を上げる。

その四人を見て――――モノアの目から、涙がこぼれ落ちた。


「……そなたたち」


声が感動で震えている。

暖はニッコリ笑った。


「モノア、素敵。……チョット太ッテモ、ナンデモナイ! ミンナ、モノア大好キ! ダカラ、生キル、頑張ロウ!」


暖の言葉を聞いても、まだモノアは不安そうだ。揺れる一つ目で、周囲を見回す。料理長や警護の三人と視線を合わせた。

四人は、モノアの視線をしっかり受けとめる。



四つの目に力を得て、最終的にモノアは、……小さく頷いてくれた。


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