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キャンペーン実施中!

先週は忙しく更新できませんでした。

その代わり、今週は、今日と明日更新予定です。

『長く美しく生きよう! 大キャンペーン! 絶賛開催中!』


何の宣伝かと思うような横断幕が、後宮の食堂に掲げられる。


「なんだい? これは」


それを見た料理長は、目を丸くして首をひねった。

暖は、ニコニコ笑いながら説明する。


「ミンナ痩セスギ、ダメ、説明シタラ、ワカッテクレタ。太ルナイ範囲デ食ベル、良イ」


あの後、痩せすぎの脅威と死んだら何にもならないということを、暖は必死に訴えた。

結果、下女は渋々とではあったが、暖の説得に応じてくれたのだ。


「みっともなく太るくらいなら、死んだ方がマシだと思っていたけれど、太るんじゃなくて、痩せすぎないための食事なら、食べてあげてもいいわ」


非常に上から目線の下女である。

もしもこのセリフを聞いたのがディアナだったら、ブチ切れて「ムリに食べてもらわんでもいいわい!」と怒り出すのだろうが、そこは、アルディアにお人好し認定されている暖である。彼女は、非常に素直に喜んだ。


「勿論、ソレ以上痩セナイ、OK!」


本当は太って欲しいのだが、いきなりは無理だろう。それでも少しずつ食べる量を増やしてもらって、太る事への忌避感を減らしてくれたらと思う。


どうすれば一番いいかと暖は、考え込む。


そこに――――



「本当に、その方がダンケル様の好みなんでしょうね?」



疑わしそうに、下女が暖を見てきた。

内心、ドキリとするが、「勿論!」と、暖は頷く。


下女を説得するために、古今東西あらゆる健康論を語った暖。

しかし、その何よりも一番効果があったのが、ダンケルの嗜好の話だった。


「次、王、ダンケル様。ダンケル様、痩セスギ、嫌イ! ダンケル様、王ナッタラ、痩セスギ、流行遅レ、ナル!」


女性が流行を気にするのは、どの世界でも変わらない。それは魔界でも同じで、しかもここは魔界の中心、王宮の中でも女性だけが暮らす後宮だった。そこにいる女性が、流行遅れを、嫌がるのは当然だ。


「痩セ過ぎ、太ル、出来ナクナル。ソノ時、泣イテモ、遅イ!」


暖の言葉に、下女は顔色を変える。

そして、これ以上痩せないことに同意したのだった。

できれば健康面で納得して欲しかったのだが、……まぁ仕方ないかと、暖は思う。




こんなやりとりの末に、始まったのが、『美しく長く生きよう! 大キャンペーン!』だった。

流行遅れになるという脅しはかなり効果があったようで、下女の仲間も何人も参加してくれる。


「ホントにこれを食べても太らないの?」


あの時の下女とは別の下女――――耳が垂れ耳で鼻が尖った犬顔の女性が、目の前の焼き肉を見ながら、聞いてきた。

野菜もたっぷり、ジュウジュウと焼けたお肉は、とっても美味しそうだ。

とはいえ、そんなことを聞かれても、栄養士でも何でもない普通のOLだった暖には、わからない。


(カロリー計算とか、したことないし)


しかし、ここは迷いなく頷いておく。


「大丈夫!」


元々、この下女も、もの凄く痩せている。多少食べてもそんなに直ぐ太るはずもないのは、考えるまでもないだろう。


下女は、それでも心配顔だった。焼き肉を前に食べようかどうしようか迷っている姿は、「待て」をさせられすぎて、凹んでいる大型犬にしか見えない。


「心配ナラ、後デ、運動スル、シマショ!」


適度に食べて運動する。健康に生きる基本である。


暖の言葉に、ようやく犬顔の下女は食べはじめた。一口食べて、嬉しそうに二パッと口を開ける。その姿は、やっぱり喜んでいる犬にしか見えなくて、暖は心の中でほっこりする。



彼女もそうだが、暖に「大丈夫」と言われて、食べる下女たちは、みんな幸せそうな顔をした。暖の言葉は、何よりも、彼女たちの“心”を、かなりの部分で楽にさせているのかもしれない。



そんな彼女たちと一緒に、食後に体操をするのが、最近の暖の日課だ。

体操といっても、流行のエクササイズなど知らない暖が行うのは、昔懐かしいラジオ体操である。


「イチ、ニ、サン、シ、ニ、ニ、サン、シ」


暖の掛け声で、見よう見まねでラジオ体操に精を出す魔族女性たち。


――――はっきり言って、一種異様な光景だが、暖は気にしないことにしていた。



『美しく長く生きよう! 大キャンペーン!』は、こうして後宮の下女を中心に広がっていったのだった。



しかし、そんな体操をした翌日、


「あなたの言う運動をしたら、足が痛いんだけど」


ギョロリとした爬虫類の目をした下女に、暖は文句を言われる。


「ソレ、筋肉痛!」


毎日食堂でハードな仕事をしている下女たち。しかし、ラジオ体操で使う筋肉は、また違う筋肉らしく、彼女は筋肉痛になったのだ。

仕方がないので、暖はマッサージをしてやることにする。


(なんか、私って、どこでもマッサージしているわよね?)


村でも、ディアナやウルフィアにいつもマッサージをしていたことを、暖は思い出す。


(みんな元気かしら? 戦争は、終わったはずよね? ……ディアナとウルフィアは、お茶会を再開しているかしら?)


そうならいいなと、暖は思う。


「ぼんやりして、何を考えているの?」


ギョロリと目を向けられて、暖はふんわり笑い返した。


「イエ。……今度、一緒、オ茶飲ム。ドウ?」


気持ちよさそうに暖にマッサージをしてもらいながら、下女は「そうね」と頷く。


「痩せるお茶なら飲んであげてもいいわよ」


やっぱり偉そうな下女である。

ディアナなら――――言うまでもないだろう。



「……健康イイオ茶、用意スル」


ディアナでない暖は、苦笑しながらそう話す。



そんな風に、魔界の日常は、過ぎて行った。


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