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究極の二択

「な、何で? どうして、私? 私、治癒魔法なんて使えないわよ!」


パニックになって叫ぶ暖。


「落ち着け。わしらにわからん言葉になっておるぞ」


額を押さえながらディアナが指摘した。


「あ! えっと……ナ、ナンデ、私? 私、治癒魔法、使エナイ!」


必死に否定する暖だが、ダンケルは首を横に振った。


「お前は、俺の怪我を治してくれた」


「ソンナコト、シテナイ!」


「いや、今回も前回も俺の怪我の治りは、いつもに比べれば間違いなく早かった。しかも、小人になって本来の能力を封印した体でこれだ。どう考えても、お前のおかげだろう」


「気ノセイ!」


とんでもない勘違いに、暖は思いっきり首を横に振る。

そうでしょう? と、ディアナたちを振り返った。


「ギオル、リオール、ミンナ! 間違イ、教エテヤッテ!」


懸命に頼む。

しかし、どうしたことか、誰一人暖を助けてくれない。

それどころか、


「お前は、いい加減、自覚した方が良い」


ディアナまで、そんなことを言い出した。


「自覚……?」


ポカンとする暖。


「お前には、間違いなく治癒の力がある。わしらが何よりの証拠じゃ。お前がわしらの世話をしてから、わしら全員、体の調子が良くなっている。……これは事実じゃ」


そうは言われても、彼女自身には、何か特別なことをした覚えはない。


「お前が来る前のわしは、いつも慢性的な体の痛みに悩まされておった」


ディアナの言葉に、暖は首を横に振る。


「それは、温泉とマッサージが効いたからで――――」


「ウララと出会えて、私は生きたいと思えるようになりました」


暖の言葉が終わらぬうちに、美しく微笑んだリオールが発言する。


「ソレハ、嬉シイ、ケド……」


リオールの精神が元々強かっただけだろうと、暖は思う。


「私、結構最近やる気に満ちているのよぉ。悪巧みとか、楽しいわよねぇ?」


クスクスとラミアーは笑った。

それは良くなったと言えるのだろうか?


「わしの足も、動くようになった!」


元気よく怒鳴るネモは、その場で足踏みをしてみせる。

マッサージの効果が出たことは単純に嬉しいが、それを治癒魔法というのは違うだろう。


「王子もウルフィアも、具合が良くなっていたじゃろう?」


ダメ押しのようにディアナが聞いてくる。

しかしウルフィアだって、マッサージと温泉効果だろうし、アルディアの場合は、たまたま暖が喘息やアレルギーの対応を知っていただけのことだ。


「違ウ、……思ウ」


暖は、頑なに首を横に振る。


「頑固じゃな」


ため息をつくディアナの後ろから、大きな竜の首がヌッと伸びてきた。


「では、我はどうだ? 認知症で竜と人の区別もつかなかった我が、ウララ、お前に会ってから意識がはっきりとしてきた。これも治癒魔法ではないと言うつもりか?」


ギオルに問われて、暖は答えに窮す。

正直に言えば、その通りだと答えたい。

たまたまギオルが治る時期と自分の来た時期が重なっただけだろう。


(みんな、偶然に偶然が重なっただけなのに……)


暖は、心の中で反論する。

しかし、彼女がどう言っても、みんなには納得してもらえないように見えた。

戸惑いながら、暖は口を開く。


「絶対違ウ、思ウケド……ミンナ、私、魔界行ク、良イ、思ウノ?」


ダンケルは、暖に魔界に来て原因不明の病を治してほしいと言った。

自分に治せるとはとても思えないが、それでも、ディアナたちは暖に治癒魔法があると言う。

ということは、ダンケルの話を受けるべきだと、全員思っているのだろうか?


(行って、魔族を救うべきなの?)


確かに、いくら敵対している種族とはいえ、魔族が滅亡することは、この世界にとって大きな問題なのかもしれない。


(でも、私、なんの役にもたてないのに……それとも、行って、治癒魔法が使えないとわかれば帰してもらえるのかしら?)


悩むウララに対して、「それは違います!」と、リオールが叫んだ。


「私はウララと離れたくありません。ウララを魔界にやるくらいなら、魔族なんて千回滅んでもかまわないと、思っています」


堂々と発言するリオールに、ダンケルの顔がピクピクと引きつる。

暖はびっくりして口をポカンとあけた。

さすがに、千回はないだろう。


「これは、私だけではなく、みんな同じ意見でしょうが、……それくらいなら、私たちは、全員直接魔界に出向いて、魔界を消滅させてやります!」


「そうだそうだ!」と、ネモが拳を突き上げる。

しかし、ギオルとラミアーは困った顔で黙り込む。

そして、言ったリオール本人も、苦しそうに顔をしかめた。


「本当に、そうは思っているのですが――――」


小さく呟くリオール。


「そんな面倒くさいこと、わしはごめんじゃぞ」


ディアナは、きっぱりとそう言った。


「崩れた世界のバランスを戻すのは、地味で退屈な作業じゃからな」


続く言葉に、全員が呆れる。地味でなければいいというものでもないだろう。


「そんなつまらん魔法を使うくらいなら、ウララを魔界にやった方が簡単じゃ」


あくまで身勝手にディアナは話す。


「……まぁ、世界の被害は、そっちの方が格段に少ないわよねぇ?」


ラミアーも、仕方なさそうに同意した。


「ウララのために魔界を滅ぼすのは、個人的には賛成だが、……まあ、冷静に考えれば止めておいた方がよいのだろうな。……何より、ウララ、お前もそう思うだろう?」


真面目に考えこむギオルに聞かれて、暖は、思わず首を縦に振った。

自分が魔界に行くか行かないかの話が、いつの間にか魔界を滅ぼすかどうかの話になってしまっている。

つまり、魔界に行くか、滅ぼすかということだ。

これぞ究極の二択だろう。

頷く以外の選択肢が、暖にあるはずもない。


「ならば、わしが、ウララと一緒に魔界に行こう!」


ネモが、ドンと胸を叩いて、そう言った。

暖は、びっくりしてしまう。


「ネモ、マダ足、少シシカ動カナイ! ダメ!」


最近のネモは、足に感覚が戻ってきたと喜んで、足腰のトレーニングを開始しようとしては、暖に止められているような状況なのだ。


「以前のピクリとも動かぬ状態から比べれば、完治したと言ってもいいくらいだ」


いやいや、流石にそれは違うだろう。


「無理シナイデ! セッカク、良クナッタ。マタ、ダメナッタラ、悲シイ」


泣きそうな暖の顔を見て、ネモは、むうっと唸る。

そんな二人の間に、ディアナの杖が突き出された。


「諦めろ、ネモ。どのみち今の魔界には、ウララ以外は行けんのじゃ」


老いた魔女は、ため息混じりにそう言った。

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