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全員集合!

ゴクリと唾を呑むダンケル。

そこに――――


「二度ではなく、三度でしょう?」


呆れたようなリオールのツッコミが入った。


「三度めは、不幸な偶然が重なっただけじゃと言っておろう!」


ディアナは、真っ赤になって怒鳴り返す。

エルフと魔女のやりとりに、ダンケルは、顔をひきつらせた。


「まったく、誰のせいでこんな騒ぎになったと思っておる!」


もう一度、トネリコの杖で、リオールの頭を殴るディアナ。

リオールは、小さな声で「すみません」と謝った。

次いでディアナは、クルリとダンケルの方に振り向く。

ダンケルは、ビクッとした。


「お前もじゃ! チビ魔族! 今回の全ての騒動は、お前の浅慮のせいなのじゃぞ! 身の程知らずにも、この村に忍び込むなど、阿呆としか言いようがない! お前が、今五体満足でおられるのは、ひとえにウララ故じゃ! わかっておるのか!」


既に小人ではないのに、ダンケルは、チビなどと呼ばれてしまう。

しかし、そこを指摘する余裕もなく、「はい!」と答えてしまった。

その後、体裁悪そうに「チッ」と舌打ちする。


「なんじゃ! その態度は!」


ディアナに杖で殴られそうになって、ダンケルは慌てて逃げた。


「それが、本当にトネリコの杖なら俺は死ぬぞ!」


ダンケルの不慮の死は、暖の寿命に直結する。

ディアナは、無念そうに杖を下ろした。

ダンケルは、ほっと息を吐く。少し考え込み……覚悟を決めたみたいに頭を上げた。


「……お前たちなら、なんとかしてくれるかもしれない。…… 折り入って、聞いて欲しいことがある」


強い瞳で、ダンケルはディアナとリオールを見る。


なのに――――


「お断りじゃ」

「断ります」


間髪入れず否定の返事が二つ重なって響いた。


「なっ!? ここは、頷いてくれる流れだろう!」


「そんなわけがあるか。寝言は寝て言え」


ディアナは、取り付く島もないほど素っ気なくダンケルをいなす。


「まったくです。勝手にこの村に忍び込み、あまつさえウララに世話をされて……そんな羨ましいことをしたお前の話を、なんで私たちが聞かなければならないんです」


リオールは、氷つきそうな冷たい目でダンケルを見た。

それでも、ダンケルは諦めない。――――否、諦めることはできなかった。


「俺が、なんでこの村に来たのかとか、そもそもの今回の戦いの理由とか、知りたくはないのか?」


「そんなもん、関係ない」

「まったく興味はありませんね」


食い下がるダンケルに、再び重ねて即答するディアナとリオール。


「俺の話を聞いて協力してくれれば、戦いは終わるんだぞ!」


ついに、ダンケルは、そう叫んだ。


「戦いなんぞ永遠に終わらなくとも、私にはまったく影響ありません。むしろ、あの腐れ王子が帰って来なくて清々しますね」


そう返すリオールの言葉には、彼の本気が滲み出ていた。

どうにもできずに、ダンケルは項垂れる。

ところが、先ほどまでリオールと意見を一致させていたディアナが、考え込んでいた。


「……戦争が終わらずに、ウルフィアが帰って来ないのは、困るのぉ」


寂しそうにポツンと、老婆は呟く。


「そうだろ!」


途端、ダンケルは勢いづいた。

魔女とはいえ、ディアナは人間(?)。エルフより説得できるかもと、ダンケルは勢いづく。


「……うむ。戦いなどどうなっても良いが、そのために、わしが茶飲み友達をなくすなど、我慢できんことじゃ」


ところが、返ってきたのは、人間としてどうかと思うようなセリフだった。

魔女が本当に人間なのかと、ダンケルは悩む。


「――――癇癪を起こして、わしは、今度こそ世界を滅ぼすやもしれん。年寄りはわがままじゃと、いわれるからのぉ。…… 三度めの正直じゃな」


ニヤリとディアナは笑った。

世の中には、わがままではなく穏やかで優しいご老人だって多いはずだ。しかし、ディアナに反論できるはずもなく、ダンケルは、ぶるぶると震えた。

リオールが、嫌そうに顔をしかめる。


「そうと決まれば、善は急げじゃ! 動くぞ! 全員集合じゃ!」


しわがれたディアナの大声が、長閑な村に響き渡った。



◇◇◇◇◇◇



「――――という事で、これから、わしの『生き生き老後のための茶飲み友達奪回作戦』第一回会議を行う!」


数時間後、ギオルの住む広場に集められた暖たち。


「ハ?」


暖は、目をパチクリさせた。マッサージをしていたディアナが、突然姿を消したかと思っていたらのこの事態。

一体全体、何がどうしてこうなったのか?

さっぱりわからない。


「ナンデ、急ニ、ソンナ話?」


「聞かない方が、いいですよ」


疲れたようにリオールが話しかけてきた。

暖以外の者たちは、ディアナのこんな暴走に慣れているのだろう。あまり驚いた風はない。


「さあ、とっとと話せ!」


当のディアナは、彼女の後ろにいたダンケルをドン! と、つき出した。

魔女の老婆に押された魔族は、何故かヨレヨレになっている。


「エ? ダンケル、ドウシタノ?」


「聞かない方が、いいですよ」


またまたリオールが、疲れたように言った。

暖は、ポカンとしてしまう。

ダンケルは、疲れきった顔を上げる。ゴクリと唾を呑みこむと、覚悟を決めたように話しはじめた。


「――――そもそも今回、魔族が動いたきっかけは人間世界に治癒魔法の使い手が現れたという情報が入ったからだ」


ダンケルの言葉に、暖は驚いた。


「スゴイ! ソンナ人、イタンデスネ!」


スゴイスゴイと感心する暖。

周囲の者たちは、皆、微妙な顔をする。

ダンケルも顔をひきつらせるが、コホンと咳払いして言葉を続けた。


「魔族は、ここ数十年、原因不明の病に苦しんでいる」


苦しそうな声で、告白する。


「ほほう、それは初耳じゃな」


情報通のディアナでも、知らないことはあるようで、魔女は小さな目を大きく見開く。


「絶対、その事を外に漏らさぬようにと、父が――――魔王が、魔法をかけたからな」


神妙な顔で、ダンケルは話した。

どんなに規制をしたとしても、機密は必ず漏れる。過去の数多の歴史がその事実を物語っている。

だから、それを危惧した魔王は、魔族全員に対し、秘密を明かそうとした途端、その者が死ぬ魔法をかけた。


「……それはまた、バカな魔法をかけたものじゃな」


ディアナは、顔をしかめてそう評した。


「ナンデ?」


暖は、不思議そうにディアナにたずねる。

秘密を漏らさないために、魔王がかけた魔法は、この上なく有効な手段だろう。

聞かれたディアナは、バカにするかのように鼻で笑った。


「そんなことをすれば、魔族は、その問題を必ず内部だけで解決しなければならなくなる。――――愚の骨頂じゃ」


知識は、どうしても生まれ育った環境によって偏る。解決できない問題に面した時、発想の転換をはかることは常識であり、その際、同じような考え方の者ばかり集まっても結果は期待できない。


「そうでなくとも、エルフや竜族など、永くを生きて知識を蓄えたものに助けを求めないなど、気がしれんな」


「魔族だって長命種だ!」


嘲るディアナに憤慨し、ダンケルが怒鳴り返した。


「ムダに大きい闘争本能で、殺しあいを繰り返さなければな。……年を取り弱った者を獲物としか見なさず、端から殺す種族が、どんな知恵を蓄えられる?」


ディアナは蔑んだ笑いを浮かべた。

今度は、言い返せずに、ダンケルは唇を噛む。

老いた魔女は、小さなため息をこぼした。


「……まあよい。今は、魔族の愚かさをあげつらっておる場合ではないからの。それで、いよいよ行き詰まった魔族が、外から解決策を探そうとして、治癒魔法の噂に行き着いたんじゃな?」


ディアナの確認の言葉に、ダンケルは渋い顔で頷く。


「戦いを起こせば、戦場に治癒魔法の使い手が現れると思ったんだ」


この国に、治癒魔法の使い手がいるという噂がたったのは、ほんの少し前のことだった。信憑性も何もない、小さなこぼれ話みたいな噂。

しかし、万策尽きて藁にも縋る思いだった魔族は、そんな噂に縋りついた。隣国トクシャを操り、戦争を仕掛ける。

……ところが、戦いを起こしたものの、肝心な治癒魔法の使い手はさっぱり現れなかった。

それでも、微かな噂の痕跡をたどれば、戦場に出てきた王子の一人が、以前では考えられないほど元気になっているという事実に突き当たる。


「王子の過去を探って、この村を見つけたんだ」


ダンケルは、そう言った。

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