吸血鬼VS魔女 2
結局あの後、暖は慌ててアルディアの元を飛び出し、そのままになってしまった。
飛び出たところにウルフィアやサーバスが居て、顔を赤くした暖に生暖かい視線をくれたことは、恥ずかしい思い出だ。
今、この地にアルディアはいない。
ウルフィアとサーバスもいなかった。
彼らは戦いに行ったのだ。
「まったく、国王の厚顔無恥には呆れ果てる。腰を痛めて使えないと、解雇も同然に放り出したウルフィアを、治ったからと召集するなど」
ディアナが、不機嫌に文句をこぼす。
「デモ、ウルフィア嬉シソウ、ダッタ」
「あやつは戦闘バカなのじゃ! 戦えて嬉しいなど、理解できん!」
ディアナは、ひどく顔をしかめた。いつもシャンと伸びている背中が、心なしか曲がって見える。
「ウルフィア達イナイ。寂シイ、ネ」
「寂しくなんぞないわい! わしをお前と一緒にするな!」
ぷんぷんと怒るディアナ。
しかし、仲の良い女騎士がいなくなり老魔女が、がっかりしていることは一目瞭然のことだった。
「私は、王子さまがいなくなって寂しいわぁ」
暖とディアナの側のソファーに、だらしなく寝そべっていたラミアーが、大きなため息をつく。
「年寄りだらけのこの村で、唯一若い男だったのに ……」
心底残念そうに、ラミアーはクッションに顔を伏せる。
「ねぇ~、ウララ?」
その後すぐにパッと顔を上げたラミアーは、意味深に暖に向かって流し目をくれた。
美貌の吸血鬼の流し目に、暖はドキッとする。
「エッ!? エ、私?」
「そうよぉ~。だって、ウララは王子さまと、と~っても、仲良しでしょう?」
ラミアーは、ニヤニヤと笑った。
なぜかはわからないが、ラミアーは、暖とアルディアの別れ際の一件を知っているようなのだ。
「ナ、仲良シ ……」
真っ赤になって狼狽える暖に、楽しそうな視線を向けた。
「仲良シナンテ …… ア、アノ! 私、リオール所、行カナキャ!」
たまらず、暖は逃げ出した。
「リオールの元には、エルフの里から戦況の詳細が届いているはずだから、聞いておいてね!」
後ろから追いかけてくるラミアー言葉に返事も出来ずに、暖は駆け去った。
◇◇◇◇◇◇
クックックッ、とラミアーは上機嫌に笑う。
そんな吸血鬼に、ディアナは呆れたような視線を向けた。
「お前は、何をしたいんじゃ?」
「私にしたいことなんかないわよ。…… ただ、退屈なだけ。ここには、退屈以外の何ものもないもの」
そう答えながらも、ラミアーの瞳はキラキラと輝いている。
「私なんかより、ディアナ、あなたこそ何をしたいの? あなた、わざわざ王子さまの元に、ウララを向かわせたんですって? 偏屈なあなたが、出陣する王子さまに同情したのだとは、とても思えないけれど」
からかうようなラミアーの言葉に、老魔女はフンと鼻を鳴らした。
「わしは、ただ単に王子の心が知りたかっただけじゃ。…… いざという時に、この国をとるのか、ウララをとるのか。…… あやつが、万が一にでもウララについて来て欲しいとでも言うようなら、今のうちに災いの芽を摘もうと思っておったんじゃが ――――」
「まあ、怖い。…… だったら、『自分を使って脅されたとしてもこの村を出るな』とウララに言った王子さまは、命拾いをしたってわけね」
怖いと言いながら、自分で自分の腕を抱え、わざとらしく震えて見せるラミアー。
ディアナは、不機嫌そうに眉をひそめた。
「わしのことより、お前の方じゃ。こそこそウララの側を探って、…… 何を考えておる?」
ラミアーは「あら」と言って、肩をすくめた。
「退屈なだけだと、言ったでしょう? …… まあ、この退屈もいつまで続くかわからないけれど」
嫣然と笑った吸血鬼は、そう言いながら視線を上に向ける。
そこには、彼女の元に飛んできたコウモリがいた。
「魔族は、最初の戦い以降、表に出てこないそうね?」
「知らん」
素っ気なくディアナはラミアーを突き放す。
知らないのは、魔族が出てこないという事実なのか、それともその理由なのかを話すことはない。
ラミアーも、それ以上追及しようとは思っていないようだった。
「いったい、魔族の狙いは、なんなのかしら? ただ単に、人間にちょっかいをかけたいだけ? それとも、他に狙いがあるのかしら?」
「知らん」
ディアナの返事は、とりつくしまもない。
魔女の眉間によった深いシワを見て、ラミアーは楽しそうに笑う。
「何はともあれ、面白くなりそうよね?」
「悪趣味め」
顔をしかめ、忌々しそうに舌打ちするディアナ。
暇をもて余した吸血鬼の笑い声が、静かな村に響き渡った。
不定期更新などと、最初にうたっておきながら、それを裏切る定期更新を続けてきましたが……
急な用件が入り、明日より一週間ほど更新できません。
。o゜(Д`q)))【・゜・スミマセン・゜・】(((p´Д)゜o。
毎日お読みくださっている方、申し訳ありません!
できるだけ早く再開させたいと思っていますので、ちょっとお待ちください。
なお、ツイッターではマイペースの呟きを続けていきますので、ご安心ください。




