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若い二人

突如泣き出した暖に、アルディアは驚き狼狽える。


「お前! 何を ……」


「死ンジャ、ヤダ!」


ついに、暖は本格的に泣き出した。

平和な日本に生まれ育った彼女にとって、戦争は未知の恐怖なのだろう。

アルディアは、困りきって視線をさ迷わせた。

よもや暖が自分の事を心配して泣き出すとは思ってもいなかったのだ。


( ”関係ない” と言った事に腹をたて、飛び出して行くとばかり思っていたのに)


予想外の暖の反応に、助けを求めて周囲を見回す。

ところが、そこにたった今までいたはずのサーバスとウルフィアの姿は、いつの間にか消えていた。

慌てて探せば、二人はこっそりと部屋を出ていくところだ。

しかも、アルディアと視線が合った途端、サーバスは人差し指を立てて口に当て「シー」と言うし、ウルフィアなどは、ニンマリといい笑顔を浮かべる。


(おい! 待て! どこへ行く!?)


アルディアは、焦って口パクで引き止めようとした。

なのに、サーバスはいい笑顔で、わかっていますよと言わんばかりに頷き、ウルフィアに至ってはサムズアップを返してくれる。


(ちょっと待て! お前ら何を考えている?)


アルディアの視線の抗議を無視して、二人は扉を閉めて出ていった。

目の前には、自分を心配して泣いている暖。

しかも部屋に二人きりで、誰もいない状況。


アルディアは ………… 頭を抱えた。


(この私に、こいつを慰めろと言うのか?)


自慢じゃないが、そんなことしたこともない王子さまだった。

こんな時、どんな言葉をかければ良いのか、まるでわからない。


アルディアは、途方に暮れてしまう。


迷いに迷ったアルディアは、唐突に暖の腕を掴んだ。


「え?」


そのまま自分の方に力を入れて引っ張る。

当然、暖はバランスを崩し彼のベッドに倒れこんだ。


「ふっ、キャァ!」


ボスン! とベッドに尻餅をつく暖。

そんな彼女を尚も引っ張ると、アルディアはぶつかってきた彼女の頭を抱き込み、グシャグシャと撫でた。



◇◇◇◇◇◇



突然アルディアに抱き締められて、暖は驚く。

あんまり驚きすぎて、涙が引っ込んだ。

そのまましばらく、二人して固まってしまう。


「ア、ア、アルディア?」


「…… 泣き止んだか?」


こくこくと、首ふり人形のように暖は頷いた。

アルディアが、大きく息を吐く。


「この阿呆。私のためになど泣くな」


アルディアはそう言った。


「な、なんで?」


「私は、お前に ”関係ない” と言ったんだぞ。そんなことを言われた相手を心配するなんて、お人好しのすることだ」


「だって、だって、関係ないのは、本当だし、…… それに、私が、アルディアが心配なんだもの! アルディアは、自分を大事にしないから! だから ……」


正真正銘、お人好しの暖だった。

アルディアは、大きなため息をつく。


「アルディア、本当に食べるものとか気をつけて ――――」


またまた注意事項を話しはじめようとする暖を、アルディアは慌てて遮る。


「わかった、わかったから、お前は自分の事を心配しろ」


暖はキョトンとした。

戦いに行くわけでもない自分の何を心配しろと言うのだろうか?


「いいか、お前は、絶対、村の外に出るな!」


「外に?」


暖は、ますますキョトンとする。

アルディアは真剣な顔で頷いた。


「そうだ。これから戦況がどうなろうと、ディアナの結界で守られたこの村ならば安全だ。例え、誰に何を言われようとも、お前はここから出てはダメだ。それが、国王の命令だろうと従ってはいけない」


大真面目で、そんなことを言ってくる。

国王というのは、アルディアのお父さんではないのだろうか?


「アルディア?」


「まあ、ディアナがお前を出すとは思えないが、…… お前は、とんでもないお人好しだからな。命令でなく、泣き落としでも言うことを聞くなよ。…… それが、私の命を盾にした”脅し”であったとしてもだ」


暖は、驚き過ぎて言葉を失った。

国王が、自分の王子を人質にして脅してくるなんていう事態があるのだろうか?


「まあ、あくまで可能性の話だ。そんなことにはならないだろうとは、思う ……」


続くアルディアの言葉に、暖はホッと息を吐く。そんなこと絶対あっちゃいけないと思った。


「ともかく、お前は暴走するな。一人で判断せず、必ずディアナに相談しろ ――――」


今度は、アルディアが暖に対し、くどくどと注意をはじめてしまう。


「―――― 知らない奴から声をかけられたら、全力で逃げろ。美味いものをくれると言われてもついて行ったりするなよ。それから ……」


まるで、どこの小学生に注意しているのかと思うような言葉が、延々と続く。

最初は、驚き呆気にとられていた暖だが、聞いているうちに、徐々に顔を赤くしてしまう。


「ス、ストップ! 止めて、アルディア!」


ついにがまんできずに、アルディアを止めた。


「なんだ? お前に言っておくことは、まだまだあるぞ」


アルディアは、ムッとする。


「わかったわ! わかったから、だから止めて。 …… その、そんなに心配してもらうのは、恥ずかしくって」


アルディアが、言葉を重ねれば重ねるほど、彼がどんなに自分の事を心配してくれているのかが、ダイレクトに伝わってくる。

それは、とても嬉しい反面、ひどく気恥ずかしいことだった。

そして、それと同じ事を、さっき自分が彼にしたのだと思えば、暖はますます恥ずかしくなってしまう。


(だ、だって、…… それって、まるで、お互いを心配する、引き裂かれる恋人同士みたいな状況よね?)


暖は、いたたまれなかった。

赤くなった暖を見て、同じことを思ったのか、アルディアも赤くなる。

彼らは、まだベッドの上で寄り添ったままの状況である。


「なっ! わ、私がお前を心配するのは、お前が無防備過ぎるからで! 別に、私は、そんな! …… 特別な意味は!」


「と、特別!?」


「ち、違う! 特別じゃないと、言っているだろう!」


真っ赤になって怒鳴り合う、アルディアと暖。

それなのに、何故か二人とも自分から距離をとろうとはしない。



青春過ぎる若い二人だった。

別に、羨ましくなんかないやい …… 

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