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「また宇宙海賊か」
配信されたデイリーニュースを見ながらダズが呟く。
「何、また出たの?」
柿崎はダズの前にお茶を置くと向かいのソファに腰掛けた。
「おぅ、悪いな」
ダズは手元の携帯端末から顔を上げると、
「今度はダンドーラ辺境伯家の輸送船が狙われたらしい、貴族の宇宙船が狙われるなんて世も末だな」
そう言って背凭れに体を預けた。
「最近多いね」
「辺境じゃ帝国軍の影響力が少なくなってきているからな」
「そうなの?」
首を傾げる柿崎に、ダズは身を乗り出して声を潜める。
「天帝陛下のご容体が良くないだろ、しかも皇太子が決まってない。聞いた話じゃ後継者争いに余念のない有力貴族達は、既に下級貴族の取り込みと諸侯軍の戦力増強を始めてるらしい。そんな状態で天帝陛下が崩御なんてしてみろ、帝国は下手すりゃ内乱だ。だから中央政府は内乱に備えて帝国軍を下手に動かせない。とてもじゃないが辺境警備まで手を回す余裕なんてないだろう」
「なんか帝国も大変だね」
「この銀河を治めるアズバイル帝国も存続の危機って奴だな」
世知辛い世の中だとダズは首を振る。
「それに今内乱なんて始まってみろ、この機に乗じて亡国の亡霊たちが蘇ってくるぞ」
「亡国の亡霊?」
柿崎の疑問にそういえば知らないんだなとダズは呟くと、
「元々この銀河はいくつかの星間国家に分かれていてな、アズバイル帝国もその星間国家の一つだったんだ」
そう言ってお茶を飲んだ。
「それぞれの国同士は結構仲良くやってたらしい、まともな戦争なんて五百年以上無かったって話だしな」
「そうなんだ」
「でも突然アズバイル帝国が隣国のフランタニア皇国に戦争を仕掛けた。フランタニア皇国が平和ボケしてたって話もあるが、アズバイル帝国自慢の宇宙艦隊にフランタニア皇国は手も足も出なかった」
それはすごいねと相槌を打つ柿崎に、ダズは再び声を潜めて言った。
「この話には実は裏があってな、フランタニア皇国は騙し討ちに遭ったんだ」
「騙し討ちとは穏やかじゃないね」
「当時、アズバイル帝国の皇太子とフランタニア皇国の皇女との間に婚姻の話があった。でも皇女には想いを寄せた相手が居た為その話は破談になった。激怒した皇太子は一計を案じ、事故に見せかけてその相手を亡き者にした。そして悲観に暮れる皇女を尻目に、何食わぬ顔で“両国の更なる繁栄の為”と称してフランタニア皇国に同盟を持ち掛けた。元々争いを好まないフランタニア皇国は、先の破談の負い目もありその申し出を受けた」
そこまで言ってダズはお茶で喉を潤した。
「事件が起こったのはフランタニア皇国の皇都で行われる同盟の調印式前日だった。特命全権大使として皇都に赴いたアズバイル帝国の皇太子は、出迎えた皇国軍の艦隊を突然攻撃し始めた。不意を突かれて混乱する皇国軍の隙を突き、護衛に引き連れていた宇宙艦隊を衛星軌道上に展開した。そして皇都を包囲すると皇国軍に降伏勧告を突きつけた。皇都の制宙権を押さえられた皇国軍が為す術なく降伏すると、皇太子は皇都を制圧した」
ダズは一息つくとお茶を飲み干す。
「そしてフランタニア皇国はアズバイル帝国の手に落ちた」




