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「ダズ、ワズローンの航空宇宙管制局からルートの指定来たよ」
「あいよ。しかし本当いい加減にオートパイロットシステム乗っけてくんないかな親方」
「そんなこと言ってると、また親方に怒鳴られるよ」
ダズの愚痴に苦笑いを浮かべて手元の計器類を確認していた柿崎は、
「でもよカキザキ、今時手動操縦だぜ。面倒くさいじゃないか」
尚も愚痴を続けるダズに、
「そうかな、こんなもんだと思うけど」
涼しい顔で操縦桿を握り直す。
「しかし、お前さんは凄いよな。ウチに来て一年やそこらで宇宙船修理工場の仕事どころか、宇宙船の手動操縦まで覚えちまったんだからよ」
「まあね。元々機械いじりは好きだったし、宇宙船の操縦なんてロマンがあるじゃない」
そう言って笑う柿崎に、手元のパネル操作を終えたダズが言った。
「そんなもんかね。大気圏突入ルートの角度調整終わり、いつでもいいぞ」
「戻ったかカキザキ、ちょっと話がある」
事務所に帰ってきた柿崎に声を掛けた親方はミワにお茶を頼むと応接室に入る。
強張った表情の親方に、多少の嫌な予感を感じながらも柿崎は後に続いた。
「帝国がこの銀河を支配してから三百年の間に行った開拓星系の資料を確認した」
向かい合って座った親方の第一声で柿崎に緊張が走る。
「残念だが、お前の居たチキュウらしき惑星は見つからなかった」
親方の言葉に柿崎は目を瞑り、深くソファにその身を沈める。
「今現在で確認できる星系は全て確認した。新規で開拓されている星系は勿論、過去に破棄された星系も含めてな」
目を瞑ったまま何も答えない柿崎に親方は言葉を続ける。
「カキザキ、残酷な言い方だが現時点でお前がチキュウに戻れる可能性は無くなった」
それまで黙って親方の話を聞いていた柿崎は、目を開いて大きく深呼吸をすると、
「有難うございました」
そう言って頭を下げた。
「正直覚悟はしていました。この一年余り色々と学んでいく中で、自分がどれ程奇跡的な幸運に恵まれたのかは分かったつもりです。それに、可能性が全く無くなった訳ではありません、まだ帝国に発見されていないだけで地球は確かに存在していますから」
笑顔でそう言う柿崎に今度は親方が頭を下げる。
「すまんな力になれなくて」
「やめてください親方、こっちに飛ばされてから親方にはどれだけお世話になった事か。何の関わりもない僕に言葉を覚えさせてくれたり、仕事や生活の面倒を見てくれたのは親方じゃないですか」
柿崎は慌てて親方に頭を上げるよう促す。
「そうか」
顔を上げた親方は安堵の表情を浮かべると笑って言った。
「カキザキ、お前さえよけりゃこのままウチで働かねぇか、正直ダズなんかよりよっぽど役に立つ」
親方の言葉に笑みを浮かべた柿崎は勢いよく立ち上がると再び頭を下げた。
「宜しくお願いします」




