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「運が良かったな」
先程から親方の話を静かに聞いていたダズが、
「カキザキ、もしお前さんが飛ばされた次元流の出口が宇宙空間だったら、あの気密性の欠片も無いボディスーツとヘルメット。結果はあんまり考えたくないよな」
そう言って肩を竦める。
柿崎はダズの言葉を聞いて、宇宙服でも何でもないただのレーシングスーツの気密性を考え、一歩間違えれば宇宙の藻屑と消え去っていた事態に背筋を凍らせる。
「粗茶ですが」
ありえた未来に身震いしている柿崎に、ミワがお茶を差し出す。
差し出されたお茶は、ほうじ茶の様な味がした。
「なんだ、お茶っ葉変えたのか」
「先日、ルクレール商会の会長から頂いた物です」
「そうか、ルクレールに貰った物か、流石に舌が肥えてるな」
親方は満足げにお茶を飲む。
「しかし親方とルクレール商会の会長が知り合いなんて凄いですよね、アズバイル帝国全土に版図を広げる巨大企業の会長とこんな辺境の宇宙船修理工場の社長ですよ、全然釣り合わないじゃないすか。一体何処で知り合うんすか」
「うるせぇダズ、お前は黙ってろ」
今度紹介してくださいよと呑気なダズに親方の怒鳴り声が響く。
「ダズさん、社長はルクレール会長と同種族ですし、先の大戦の前からのお知り合いだそうですよ」
「先の大戦って三百年も前の事じゃないすか」
ミワの助け舟にダズは驚愕の声を上げる。
「“ドワルフ種族”は他の種族よりも随分長生きだって聞いた事はあるんすけど、親方全然そんな年には見えないすね。実際に見ると聞くとは大違いです」
「中央に居れば引く手数多の希少なドワルフ種族の技術者で、こんな辺境に来る物好きは中々居ませんからね」
「余計なお世話だ、お前らいい加減に黙ってろ」
親方は憮然とした表情でお茶を飲む。
色々と突っ込み所の多い三人の遣り取りを聞きながらも自身の幸運を噛み締めていた柿崎だったが、居住まいを正すと意を決して口を開く。
「それで、僕は地球に戻れるんでしょうか」
「座標が分かればな」
何でもない事の様に親方は答えると言葉を続ける。
「どれだけ離れていようと座標さえわかればそこまで行く事は出来る。カキザキ、お前の居たチキュウって惑星の座標は分かるか? 勿論アズバイル帝国基準の座標だ」
言葉を詰まらせて答えられない柿崎に、
「そう言う事だ。俺も無駄に長く生きちゃいるがチキュウなんて惑星は聞いた事がねえ。帝国内の星系はほとんど開発され尽くしてるんだ、可能性としちゃダズの言った通り帝国の領域外って事になる」
そう言うと親方は腕を組んで考え込む。
「おいミワ、今帝国が行っている新規の開拓星系の資料を集めてくれ。有人惑星関連を中心にな」
一頻り考え込んだ親方は、ミワにそう伝えると柿崎を見据えて言った。
「カキザキ、お前暫くウチに居ろ、どのみち行くとこねぇんだろ。宿と飯は面倒見てやる。あんまり期待してもらっちゃ困るが、チキュウの件はどのみちすぐに分かるもんじゃねえ、その間ウチの手伝いでもしてりゃいい」




