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「とりあえず帝国公用語と、あとなんか使えそうな星系言語を見繕ってくれや」
「私はただの事務員なんですけど」
親方の言葉に憮然としたミワが自動言語習得装置の端末を操作しながら呟く。
「まぁそう言うなよミワ、折角ダズが頑張ったんだ。何より話が通じないんじゃ如何にもならねぇじゃねえか」
言葉の通じない男に先程まで身振り手振りで自動言語習得装置の事を説明していたダズは、随分な時間を掛けて何とか理解してもらうと力尽きて隣のベットに崩れ落ちている。
「大丈夫だ兄ちゃん、別に痛くも何ともねえよ、すぐに終わるさ」
不安げな男に向けて親方が笑いかける。
自動言語習得装置の設定を終えたミワがヘルメット型の端末を男に被せて言った。
「ではいきます」
「恐らく“次元流”に巻き込まれたんだろう」
応接室に場所を移し、一通りの話を聞き終えた親方は腕を組むとソファに深く身を沈める。
「でも親方、そんな人間一人だけピンポイントに飛ばされたりするもんなんすか」
「理論上は不可能じゃねえ、それこそ天文学的な確率だがな」
ダズに答えた親方は所在なさげに佇む男に向かって言った。
「兄ちゃん、カキザキつったか。お前の居たチキュウって惑星と、このワズローンが次元流で繋がっちまったんだろう。お前はその次元流に巻き込まれて飛ばされてきたって訳だ」
「でもよっぽど強力な次元流だったんすね。そのチキュウって惑星もタイヨウケイって星系も聞いた事ないすからね。少なくともアズバイル帝国の領域外って事じゃないすか、何処かは知りませんが相当な距離の筈ですよ」
「まぁ、かなりの質量の次元流だったんだろうな、その割にはウチに被害が出てねえのは幸運としか言いようがねぇな」
「あの、すみません」
事情を説明し終えた後は、少しでも状況を理解しようと大人しく周りの話を聞いていた柿崎がおずおずと手を挙げる。
「その、色々と聞きたい事はあるんですけど、まず“次元流”って何ですか」
「あぁ、知らねぇのか」
申し訳なさそうな柿崎に親方が答える。
「光子核って知ってるかい」
「コウシカクですか」
知らないと答える柿崎に、
「まぁ簡単に言うと強力なエネルギーの塊だな、掌大の恒星みたいなもんだ。宇宙船の動力源なんかにも使うんだが、それが自然に生まれる事があるんだよ。普通はそのまま何事もなく拡散するんだが、極稀にそのまま周りの光子を取り込んでより強大な光子核になる事があるんだ。そうなると厄介でな」
親方はそう言うと、ミワにお茶を入れてくれと頼む。
「圧縮された逃げ場のないエネルギーは逃げ場所を求めて暴走を始める、暴発したエネルギーは位相空間を歪めて時空構造を捻じ曲げる。簡単に言やぁ無理やりワームホールを作っちまう様なもんだ」
「ワームホールって言うと、あの“ワープ”とかの」
簡単には理解し辛い親方の話を聞きながらも、なけなしの知識を絞り出して聞く柿崎に親方が言う。
「おぅ、そうだ。ワープの通り道だな。通常のワープはきちんと出口の安全確認をするんだが、次元流の場合は安全確認どころかどっちが入り口でどっちが出口かすら分からねぇ。ただ“繋げるだけ”だ」




