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「でも親方、ミワさんはいいんすか」
ダズの疑問に、そう言えば先程ミワには確認を取っていなかったなと柿崎も考える。
「ミワはな、特殊工兵部隊の隊長の娘なんだよ」
「そんな話聞いてないですよ」
ダズが驚きの声を上げる。
「当然でしょう、言ってませんからね」
冷静なミワの声に柿崎は苦笑いを浮かべた。
「それとカキザキ」
再び真剣な親方の声が応接室に響く。
「お前に伝えなきゃならん事がある。付いてきてくれ」
居住まいを正した柿崎にそう告げると親方は応接室を後にした。
「なんすかコレ」
最初に声を上げたのはダズだった。
親方に連れられて工場に入った柿崎達は、まず今まで気付かなかった隠し扉に驚き、親方に促されて地下へと潜ると更に衝撃を受けた。
漆黒を纏った流線型の船体はいつもの宇宙船よりも一回り小さかったが、しかし間違いなく戦闘艦であった。
「船名はダークフォックス。俺の持てる技術の全てをつぎ込んだ」
船体を見上げていた親方が振り返る。
「速度、旋回性能、防御力。どれを取っても帝国の最新鋭艦を軽く上回る。カキザキ、お前のシミュレーションデータも反映させてある。」
凄い凄いと歓声を上げるダズに対して、親方はあくまでも冷静に話を続ける。
「これが完成したのはつい最近だ。開発に百年以上掛かったが、これに積んでる新型の光子核融合炉の出力は既存の光子核融合炉なんざ比べものにならねぇ」
言葉を区切った親方は、まっすぐに柿崎の目を見据えた。
「カキザキ、お前が“飛ばされた”原因は恐らくこいつだ」
誰も言葉を発しない中、親方の話が続く。
「お前が飛ばされてきたあの日、俺はこの新型光子核融合炉の出力調整をしていたんだ。そして出力を最大に上げた時、発生したエネルギーが俺の予想よりも遥かに高かった。工場自体は隔壁に守られていた為直接的な被害は無かったが、恐らくその時に“次元流”が発生したんだろう」
親方は深々と頭を下げた。
「今更だが……。すまない、俺の所為だ。しかし、あの時にこいつを見せる訳にはいかなかった。俺は……」
言葉を詰まらせた親方の肩に、今まで静かに話を聞いていた柿崎が手を掛ける。
「顔を上げてください親方。僕が飛ばされた原因は本当にそうなのかもしれません。でも、それは親方が意図してやった事ではありません。それに僕が今此処に居るのは、不幸な事故と奇跡的な幸運が重なったからです」
「カキザキ……」
「それに、僕はまだ親方に恩返ししてませんからね」
顔を上げた親方は、力強く柿崎の手を握った。
「有難うカキザキ、お前の力が必要なんだ。力を貸してくれ」
二人の遣り取りを見ながら、俺も力を貸しますと涙ながらに訴えるダズに、ミワが笑顔でこう言った。
「ダズさん大丈夫です、間に合ってます」




