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 顔を上げた親方は、柿崎の目をじっと見据えた。

「親方、僕はこっちに飛ばされた後、もし此処で拾って貰っていなければ今頃どうなっていたか分かりません。親方にミワさん、そしてダズ。皆僕の命の恩人なんです。僕はまだその恩を返しきれていないんです」

 柿崎は親方から目を逸らさずに言葉を続ける。

「親方に何があったのかは分かりません。ですが、もし僕なんかで手助けできるような事があれば、遠慮なく言ってください」

「そうですよ親方、俺も力になります。何も出来ませんけど、俺頑張ります」

 柿崎の言葉にダズが続く。

 親方は目を瞑ると静かに天を仰いだ。

「社長、ダズさんもカキザキさんも信用できる人だと思いますよ」

 ミワが優しく語りかけると、意を決した親方は目を開く。

「これから話す事はお前達の人生を大きく変えてしまう。話を聞けば今後はまともな人生を送れなくなる。それでもいいのか」

「勿論です。俺は親方に付いて行くって言ったじゃないすか」

 ダズが親方に睨みつけられても怯まずにその目を見返すと、

「僕は他に行く所がありませんからね。それにもう十分波乱万丈の人生ですから」

 柿崎は親方に笑い掛けた。

「まったく、馬鹿野郎どもが。どうなっても知らねぇぞ」

 そんな二人を見て大きなため息をついた親方の顔には、先程まで漂っていた悲壮感は消えていた。

「フランタニア皇国軍、近衛隊特殊工兵部隊副隊長、グリオラ・ガッサーノ少佐。もう三百年も昔の話になるが……。元の俺の名前だ」

 思わぬ親方の告白に、目を見張る柿崎と外れそうな程に顎を落としたダズ。

「亡国の亡霊……」

 思わず呟いたダズの言葉に親方の目つきが鋭くなる。

「巷じゃそう呼ばれてるな。だが、俺はこの為に三百年待ったんだ、この機会を逃す訳にはいかねぇ」

 固く握りしめた自分の拳を、睨むように見つめる親方に柿崎が声を掛ける。

「親方、何があったんですか」

 柿崎の言葉に顔を上げた親方の目は、揺るがぬ決意に燃えていた。

「姫を、皇女殿下を救い出す」



 フランタニア皇国の皇女。末の子であった彼女はただ一人の姫と言う事もあり、両親や二人の兄から非常に可愛がられた。

 物心つく頃には、見目麗しく育った彼女はその心根の優しさも相まって、親族は勿論の事多くの国民から愛される存在となった。

 やがて彼女が“皇国の白い薔薇”と称される様になると、若い貴族やその子弟は彼女の心を射止めようと躍起になるが、彼女には既に意中の相手が居た。

 彼女の幼馴染で伯爵家の嫡子として育った彼は、当時皇国軍大佐であり、機動艦隊第七師団に身を置き一戦隊を率いてその将来を嘱望される若手士官であった。

 そして、当時計画された大規模な宇宙海賊討伐作戦を遂行すれば、准将に昇進し史上最年少での将官誕生と同時に皇女との婚約発表が約束されていた。

 彼女に縁談が持ち込まれたのはそんな時だった。


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