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『ゼッケン28番、柿崎選手がここでトップに立った』
沸き立つメインスタンドに場内アナウンスが響く。
「あそこで仕掛けるか」
少々上ずった声で唸る男に、
「やりましたね柿崎」
興奮気味の若い男は立ち上がる。
「ヘアピンコーナーに入るにはオーバースピードだと思ったんだが、よくコントロール出来たな」
男は感嘆の声を上げながら、
「勝者を迎えてやろうじゃないか」
そう言って立ち上がった。
ヘアピンコーナーを立ち上がると目の前には誰も居ないS字コーナーが見える。
クリアな視界には周回遅れのマシンすらない。
ふと視界の端にたった今躱したばかりのマシンが見えた。
無理やり並ぼうとしてくるが、余裕がないのかそれ程の脅威は感じない。 ゴール直前で抜かれたのだから気持ちは分かるが少々強引過ぎた。
冷静に相手の頭を抑えてラインをブロックすると、抑え込まれた相手は諦めたのか一旦下がる。しかしその隙を突かれて三位のマシンに並ばれてしまう。
そのまま三位に転落してしまった相手を尻目にニ位に上がったマシンがプレッシャーを掛けてくるが、このくらいなら問題ない。余裕を持ってコーナーを処理していく。
S字コーナーを抜けると最終コーナーに向かう。
最終コーナーを抜けるとチェッカーフラッグが見えるはずだ。
“焦るな”
自分にそう言い聞かせて最終コーナーに入る。
縁石すれすれの理想とするラインを丁寧になぞっていると不意にマシンがブレた。
“またか”
思わずヘルメットの中で今日三度目の舌打ちをしてしまうが問題はない、落ち着いて対処すればいい。
幸いな事にマシンはラインを外れてはいない、後ろのマシンをブロックする必要もない、自分の走りをすればいいだけだ。このまま最終コーナーの出口へ……。
そう思った次の瞬間、体が外側へ“引っ張られた”
突然の出来事に困惑しながらも何とか体制を立て直そうとするが、すでにマシンはコントロールを失い外側へ向かっていく。
オーバースピードな訳ではない、タイヤが滑った訳でもない。完全にコントロール出来ていた筈のマシンがアウト側に引っ張られていく。
理解出来ない事態にも咄嗟に体が動いた。
横倒しになるマシンに挟まれない様に足を引き抜くと、巻き込まれないようにハンドルから手を放す。
コースに投げ出されると打ち付けた体の痛みに思わず顔を顰める。
横倒しになったマシンと共にコースを滑っていくとタイヤバリケードが迫ってくるのが見えた。
強張る体を何とか丸めて衝撃に備えると、
“大きな怪我をしないように”
そう祈りながら意識はそこで途絶えた。




