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「ミワさん、親方はまだ帰って来ないんすか」
事務所のソファでだらしなく寛ぐダズは、堅焼きの菓子を齧りながらお茶を啜っていた。
宇宙海賊討伐から二月、結局ダンドーラ辺境伯軍は全滅、ダンドーラ辺境伯をはじめ従軍した全ての家臣・兵士は帰らぬ人となった。
民間から徴集された武装商用船は、宇宙海賊に内通していた裏切り者の五番艦を除いて全て生還。
宇宙海賊は、残りの二隻を柿崎達が沈め、裏切り者を含めてその全てが宇宙の藻屑と消えた。
そして先日、宇宙海賊討伐作戦の事後確認を終えた中央政府からダンドーラ辺境伯家へ沙汰が下った。
今回の不始末の責任を取る形でダンドーラ辺境伯家は領地没収の上断絶。一族郎党は身分を剥奪された上で近隣の難民収容施設に収監となった。
更に徴集された民間船への報酬として、柿崎達は畏れ多くも天帝陛下より“お褒めのお言葉”を賜った。
随分と偉そうな役人達がぞろぞろと来て“天帝陛下のお言葉である。ひれ伏せ、崇めかしづけ”と始めた時には流石に全員閉口したが、何とかその場をやり過ごした親方が“消毒しとけ消毒”と役人たちが居た部屋全てをダズに消毒させていた。
「午後には戻ると思いますよ」
すまし顔で手元の端末を操作し続けるミワは、顔も上げずにそう言うとそのまま作業を続ける。
「なんか最近、親方の外出が多くないか」
「そうだね。まぁダンドーラ辺境伯領が帝国の直轄領になったから、色々と忙しいんじゃないの」
ダズの向かいでデイリーニュースを見ていた柿崎が答える。
ダズは柿崎の言葉に、そんなもんかねと納得すると再び菓子を齧り始めた。
「話がある」
戻ってきた親方のいつになく真剣な表情に気圧されながらも、何かあったのかと不安げなダズと柿崎は連れられるままに応接室へと入った。
「ミワも座ってくれ」
お茶を用意したミワにも声を掛けた親方は、全員が揃うと静かに話を切り出した。
「宇宙船修理工場は閉める」
突然の話に応接室から音が消えた。
三人は時が止まったように暫く固まっていたが、ダズが真っ先に反応した。
「どうしたんすか親方、なんで閉めるんすか」
テーブルに身を乗り出して詰め寄るダズを、親方が静かに制する。
「お前達には悪いと思っている、宇宙船修理工場を清算してきちんと退職金は出すから心配するな」
「そういう問題じゃないんすよ、なんで辞めるのかを聞いてるんです」
「すまん。だが、再就職先は何とかしてやれると思う。本当に申し訳ない」
頭を下げる親方に、納得いかないダズは尚も言い募る。
「俺は嫌ですよ、余所で働くなんて。親方に付いて行きますからね」
ダズの言葉にも親方は頭を下げ続ける。
「ミワさん、そんなに経営状態が悪かったんですか」
それまで静かに話を聞いていた柿崎がミワに尋ねる。
「いえ、少なくとも直近の十年はずっと黒字経営です。経営破綻するほどの債務もありません」
ミワの答えに頷いた柿崎は、静かに親方に語りかけた。
「親方、何か事情があるんじゃないですか。話して貰えませんか」




