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一瞬戸惑う親方だったが、ミワの冷静な状況判断を聞くとすぐに落ち着きを取り戻す。
「やりやがったな、ちくしょうめ。ミワ、旗艦からの指示は」
「駄目です、パニックに陥っていてまともな通信が出来ません」
通信機の向こうでは悲鳴と怒号しか聞こえないとミワが首を振る。
「まったく使えねぇ奴らだ。ミワ、七番艦を旗艦の救援に向かわせろ、こっちはウチでなんとかする。カキザキ急げ、こうなりゃドッグファイトで一気に片を付ける。いけるな」
しかめっ面の親方は、ミワに指示を飛ばすと柿崎に確認する。
「いけると言う事にしときましょう」
親方に返事を返した柿崎の声に焦りは無かった。
緊急事態にも関わらず、やけに落ち着いた自分自身を頼もしく思いながら柿崎は操縦桿を握り直した。
一気にブースターを全開にすると、強烈なGが柿崎達を襲う。
操縦に集中する柿崎の五感が次第に研ぎ澄まされていく、以前にも感じた“感覚”が再び蘇る。
シートに押さえつけられたダズが小さな呻き声を上げるが、柿崎は気にせず宇宙船を急旋回させる。
先程までと違い、安全マージンを取らずに最短距離でレーザービームを躱していく柿崎は、敵艦との距離を一気に詰めていく。
「ちょ、ちょっとカキザキ。無茶すんな」
今までの宇宙船とは明らかに違う挙動に戸惑うダズがシートにしがみ付く。
「黙ってないと舌噛むよ」
振り向きもせずにダズに告げた柿崎は強烈なGを懐かしく感じながら、宇宙船を操り絶え間なく降り注ぐレーザービームを潜り抜けていく。
「よっしゃ、上出来だカキザキ」
敵艦に対して至近距離まで無傷で潜り込んだ柿崎に、親方が賞賛の声を上げると実弾砲撃を叩き込む。
命中確認する間も無く敵艦から離脱する柿崎に、ミワの声が届く。
「敵艦機関部に命中、撃沈確認しました」
「カキザキ急げ、ゆっくりしてる暇はねぇぞ」
親方に言われるまでも無く、宇宙船を反転させた柿崎は前線へと取って返す。
前線の戦況は混迷を極めていた。
旗艦と六番艦で裏切った五番艦を攻撃していたのだが、何を思ったか前線の二隻の戦闘艦に対しても旗艦より五番艦への攻撃命令が出された。
目の前で反転する二隻の戦闘艦を当然宇宙海賊が黙って見逃す筈も無く、反転したところで背後から猛攻撃を浴びせられ慌てて反撃したが時すでに遅く、三番艦がシールドブレイクを起こして撃沈。四番艦も集中攻撃を受けていた。
先に旗艦の救援に向かった七番艦は、前線に辿りついた時には既に敵味方が入り乱れており味方への誤射を恐れて攻撃出来ずにいた。
「何考えてんだ馬鹿野郎」
ミワから戦況報告を受けた親方が大声で怒鳴る。
「前線を維持せずに敵の目の前で反転させるなんざ自殺行為じゃねぇか」
ダンドーラ辺境伯のあまりに稚拙な戦闘指揮のお蔭で、出さなくてもいい犠牲が出る。それも勝ち戦を負け戦に変えてしまうような大きな犠牲が出てしまう。
「四番艦はもう時間の問題だ、このままじゃ旗艦もやべぇぞ」




