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「でもこれからどうするんですかね、このまま放っておくなんて事は出来ないでしょうし」
追加した酒と肴がテーブルに運ばれると、柿崎がジョッキを受け取る。
「もう一度討伐軍を出しますかね」
肴を摘み上げたダズが口の中へと放り込む。
「ダンドーラ辺境伯は大分ビビッちまってたからなぁ、自分がもう一回出るってのは難しいんじゃねぇか」
「でも親方、このまま宇宙海賊を野放しには出来ないじゃないすか」
「確かにな、奴ら間違いなく調子に乗るだろうからな」
今回の討伐失敗でダンドーラ星系の宇宙海賊が勢いを増すのはまず間違いなく、先の戦いで消耗した戦力補充を含めて、その活動が活発になる事は想像に難くない。
「しかし、宇宙海賊は何処で宇宙船を作ってるんすかね。まともな所なら相手にしないと思うんすけど」
「情けねぇ事だが、そういう仕事を請け負う所が有るんだよ。それに奴らの場合は一から宇宙船を作る訳じゃねぇ、その辺の宇宙を航行してる奴を分捕っちまえばいいんだからな」
面倒くせぇ事になったと嘆いて親方はジョッキを煽る。
「帝国軍が出て来る事はないんですか?」
「それは無いな。中央の政情不安がそれを許さねぇ。それにあれだけ大見得を切ったんだ、今更帝国軍に出てこられちゃダンドーラ辺境伯の面子が立たねぇ」
「それは分かりますけど、そんなこと言っててこれ以上被害が増えたら目も当てられないすね」
ダズが呆れたように言う。
「所詮は貴族だからな、てめぇの事しか考えてねぇんだよ」
親方はそう言って肴を齧る。
「まぁ、暫くは自衛しなきゃならねぇだろうから、ウチの宇宙船も少し強化しねぇとな」
「また戦闘ですか」
宇宙船の強化と聞いて、ダズが少々怯えた声を上げる。
「別にこっちから仕掛けるわけじゃねぇ、万が一の備えだ備え」
ダズの様子に、心配するなと背中を叩いた親方は、
「だが、喧嘩を売られればきっちり買うがな」
不敵に笑いながらジョッキを煽った。
「カキザキ、宇宙船の強化にあたってお前の意見が聞きたい」
工場内に運ばれた宇宙船を前に柿崎達は並んでいた。
「今じゃ感覚持ちの意見は貴重だ。何でも良い、気の付いたことを言ってくれ」
宇宙船を見上げる柿崎に親方の声が掛かる。
「親方、この前から疑問だったんすけど、その“感覚持ち”ってのはどのくらい居るんすか」
柿崎と一緒に宇宙船を見上げていたダズが疑問を口にする。
辺境とはいえ、アズバイル帝国で生まれ育ったダズは、ここ最近親方が良く言う“感覚”というものを知らなかった。
元々宇宙船の操船には、オートパイロットシステムを使用するのが帝国の常識であり、ダズの常識だった。
親方の宇宙船修理工場で拾ってもらい働き始めて三年になるが、親方のように手動操縦に拘る所などまず聞いた事がない。ましてや宇宙船を動かす事に“感覚”というものがいるなどと聞いた事がなかった。
「そうだな、今じゃまず見かけねぇな。俺も最後に見たのはもう随分昔の事だ」
腕を組んで遠くを見つめる親方の顔は、少し寂しそうに見えた。




