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この物語はフィクションです

『ゼッケン28番、柿崎選手がまた順位を上げた』

 場内アナウンスに顔を上げるとサーキットに目を向ける。

「調子いいじゃないか、柿崎の奴」

 噴き出す汗を拭いながら男は呟く。

「なんでもワークス・チームから声が掛かったらしいですよ」

 隣の若い男が答える。

「今朝仕入れた最新情報です。プライベーターからワークスですよ、夢のような話じゃないですか」

 驚く男に若い男は笑いながらホームストレートを駆け抜けるマシンに目を細める。



 最終コーナーを立ち上がり、前を走るマシンに追従するとスリップストリームにつける。

“いける”

 直感でそう感じた。今日は高回転域の吹け上がりが良い。昨日の予選からエンジンの調子が良いとは感じていたが、今日は一段とストレートに伸びがある。

 カウルに潜ませた体をさらに縮めて空気抵抗を減らすと同時にアクセルを開けて前のマシンに並び、戸惑いなく抜き去る。

『ゼッケン28番、柿崎選手が三位に浮上』

 場内アナウンスを置き去りにして第一コーナーに飛び込む。

“あと二人”

 前を行く二台を見据えながら、逸る気持ちを抑えてコーナーを処理していく。



 十六歳で免許を取るとすぐに夏休みのアルバイト代をつぎ込み中古の250ccのバイクを手に入れた。

 まずは地元の峠を攻めはじめ、次第に遠征して近隣の峠を行き尽くすと、そこからサーキットへと進むのにそれ程時間は掛からなかった。

 元々機械いじりが好きな事もあってか、自分でマシンを整備してレースに臨む“プライベーター”としてサーキットへ足を運び始めると、どんどんとのめり込んでいく。

 この数年、同級生が進学や就職に思い悩む間も自分はレースに全精力を傾けた。

 親は大学へ行けと言っていたが、高校を卒業し“ウチに来い”と言ってくれたレースに協力してくれている馴染みのバイクショップにそのまま就職すると、益々レース漬けの生活になる。

 スリップしてマシンごとタイヤバリケードに突っ込んだ時は流石に“終わった”と思ったが、足の骨折で済んだことが分かるとすぐに次のレースのことを考えていた。

 好きで始めた事なので多少の怪我などは気にもしなかったが、先日ワークス・チームから声が掛かった時は本当に驚いた。

“君の将来性に掛けてみたい”

 スカウトの言葉に素直に喜んだが、今まで支えてくれていた人達の事を考えるとすぐに返事は出来なかった。

“お前の走りが評価されたんだ、お前はもっともっと上に行ける”

 バイクショップの店長の言葉が背中を押してくれた。

 話が決まれば後はトントン拍子に事が進んだ。来週末にはもう新しいマシンに乗ることが出来る。もっともワークス・チームのライダーとしてレースに出るのはもう少し先になるのだが。

 このレースがプライベーターとしての最後のレースになる、是非とも表彰台に上りたい。それも出来れば一番高い所に……。

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