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誰かが夢見るシロクロシティ  作者: 水島緑
ブラック・レッド
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 思わぬ再会と状況のややこしさに、気まずさだけが募った。マジメは決してハギリを見ようとはしないし、ハギリもずっと俯いたままだ。そんな二人を呆れたように見遣りつつも、関係性を知っているため容易に口を出せないアヤが、ハギリに腰を下ろすように促した。

 テーブルを挟んでマジメの正面に常盤姉妹が座って、アヤが続けた。

「ハジメくんには申し訳ないけれど、別視点からの話も聞きたいんだ」

「……いや、それは間違ってないだろう。あの世界は複雑だからな」

 己の感情とは裏腹に、冷静な言葉を絞り出したマジメにハギリはいささか以上に驚いていた。

 もっと怒鳴られると思っていた。殴られるかもしれないとさえ思っていたのだ。

「さて、と。それじゃあ葉切からいろいろ聞こうか」

「その前に、葉切さんは常盤にあの世界のことを知られることを嫌っていたんだろう? 今ようやくわかったが、口封じをしようとしたのはそのためだ。いいのか?」

「……はい。お姉ちゃんに知られてしまった以上、何をしても無駄ですから」

 以前とは打って変わって、おとなしいハギリに釈然としないものを感じながらも、マジメは黙ってアヤを見た。

「じゃあ、頼む」

「うん。……じゃあまず、私の能力を知ったのはいつなの?」

「お姉ちゃんが中学生になったときからだよ。そのときが一番最初で、初めてだったんじゃないかな」

「いやまさか、そんなに前から私は……次だ。私が別世界を作った理由は、ストレスで間違いないよね?」

「そうだよ。もともとあの世界は現実の写し鏡で、最初はもっと綺麗だったんだ。でも、お姉ちゃんのストレスが溜まると、あの怪物たちが建物を壊して解消していくの」

「異世界、というよりは常盤の精神世界っていったほうが合ってるのか」

「そうだね。……時折、ストレスがなくなっていたのはそのせいだったのか」

 難しい顔をするアヤを痛ましそうに見るハギリが、更に続けた。

「最初はその解消方法だけで良かったの。でも、どんどんその方法に慣れてきちゃって、ただ物を壊すだけじゃストレスが解消されなくなっちゃったの」

「……それで、俺たちが」

「……はい。強く記憶に残った人たちを壊すことが出来れば、それだけ快感になるって」

「ヤミコ……もう一人の私がそう言ったのか?」

「うん……」

 誰もが黙り込んでしまった。それもそのはず、マジメはヤミコに殺されかけ、ハギリはヤミコに従い、アヤはヤミコを生み出したのだ。

 知らないうちに人を殺し、生み出された快感を享受しつづけ、ストレスを消し去ってきた、と知ったアヤの内心はどれほど荒れているのか想像も出来なかった。その心のまま、眠ってしまえばきっとまた誰かがアヤの精神世界に引き摺り込まれてしまうのだろうか。

 自身ではどうしようもない感情の動きのせいで、アヤがもうひとつの世界を作ってしまったことを責めるつもりはなかった。だが、このまま野放しにしてはおけないのもまた事実で、マジメは意を決して口を開いた。

「それで……どうすれば終わるんだ? 俺は、もう一人の常盤、小さい常盤からお前にこのことを伝えればすべて終わるって聞いたんだ。何か変わったことはないか?」

「あるよ、変化はあるよ。私の世界が見えるんだ。意識的に視点を切り替えることが出来るんだね。ああそれと、眠っていなくても行けるみたいだ」

「その世界は消せないのか……?」

「うん、残念ながらね。精神世界が消えてしまうと、私の心まで消えかねないみたいなんだ。葉切は、妹は、それを嫌ってハジメくんたちを襲ったみたいだ」

 すべては、大切な姉のために。

 わが身を投げ打ってでも姉を助けようとした覚悟はどれくらいのものだったのだろうか。自らの手を汚してまで姉に尽くそうとしたその献身は、誰にも責める権利はない。

 単純な話だ。

 ハギリは姉を守ろうとした。

 マジメは世界から抜け出すことを目指した。

 どちらも、正しいことをしていたにすぎないのだ。

 わっと火がついたように泣き出してしまったハギリを無言で見つめたマジメは、彼女の強さと自己犠牲の精神に尊敬の念を抱いた。まだ中学生の女の子だ。それなのに、姉のためだけに戦ってきた。

「ありがとう、葉切。私の自慢の妹だよ……」

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