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誰かが夢見るシロクロシティ  作者: 水島緑
ブラック・レッド
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 ホームルームが終わっても、アヤがやって来なかったときは焦ったが、彼女は一時限目の終了と同時に教室へ入ってきた。これでもしアヤが来なかったらもはや身動きも取れなくなっていただろう。アヤの家を知らないため、見舞いに行くことだってできない。

 しかしどうしたものか。

 今日のアヤはどことなく様子がおかしい。なんというか、ひどく大人しいのだ。

 喉を痛めでもしない限り、アヤはマジメのところに雑談しにくるはずだ。ものすごくどうでもいいことを延々と話し続けるだろうし、いままではそうだった。しかし、今日のアヤは何故か忙しない。挙動不審といってもいいくらいだった。

 何かに怯えているように、あちらこちらに視線を向けてずっとそわそわしている。まるで、悪いことをしてばれていないか心配する子供のような挙動だ。

 流石にアヤの様子がおかしいことに気づいたクラスメイトたちが彼女に視線を向けはじめるなか、アヤは余計にきょろきょろしはじめた。

「どうしたんだ? 戸締りするの忘れたか?」

 見ていられなくなったマジメが、珍しく自分から動いた。きょろきょろするアヤの目の前に立ち、落ち着かせるようにゆっくり話す。

「え、あ……ああ。それは大丈夫だよ。家にはお母さんがいるからね」

「そうかい。で、だ。すげー挙動不審だぞ。何があった?」

 もはや断定である。しかしそれほどアヤの様子はおかしかった。

 マジメに話しかけられたことで多少は落ち着いたのか、息を整えるようにため息を漏らすと、ぎゅっと自らの手を握って口を開いた。

「……悪い夢を見たんだ。あれは悪夢と呼んで相応しいものだったよ。すごくリアルで、ただの夢のはずなのにすごく怖いんだ……」

 思い出してしまったのか、ぶるり、と体を震わせるとアヤは唇を噛んだ。

 そこまで話してしまえば、あとはマジメが促さずとも口が勝手に動いた。嫌なことは誰しも、他人に聞いてほしいものである。

「人が死ぬ夢だったよ。人間じゃない怪物に殺されたんだ」

「見覚えがある人間だったのか?」

「うん……ハジメくんも覚えているだろう? あのときの、連続殺人鬼だったよ」

 思わず息を呑んだ。ただの偶然にしてはタイミングが良すぎる。

 続きを話そうとするアヤを一旦制止して、マジメは彼女の腕を掴んだ。

「場所を変えよう」

「……そうだね」



「本当にあいつだったのか? 下塚柊本人に間違いはないのか?」

「私が見間違えてなければ、だけどね」

 もう少しで授業が始まってしまうが、いまはそれよりも大切なことがある。二人は教室を出て、人が来ないであろう校舎裏にやってくると、少し離れて向き合った。

「見間違いってことはないだろうな。俺が断言するよ」

「どうして? いや、そもそもハジメくんは何故そこまで真剣なんだい? 私はあくまでも夢で見たという話をしているに過ぎないんだよ?」

「じゃあ、まずはそれを話そう。下塚柊は死んだ。今日の朝、日が上るよりも早くに死んでいる。常盤が見たものは夢であり、夢ではないんだよ」

「どういう……?」

 流石にこんな突飛な話、いきなり信用されるわけもなく、訝しげに眉を寄せたアヤを見て、逸る気持ちをなんとか抑えた。あの世界にいるすべての人間の生殺与奪権が目の前のクラスメイトにあるのだ。どうしたって焦ってしまう。

「いいか? これから話すことはすべて真実だ。夢でも冗談でもなく、すべてが起こっていることだ。たぶん、信じられない話だと思う。でもすべてが事実なんだ。俺の命を掛けたっていい」

「……そんなにも信じ難い話なのか?」

「ああ。見方によっては頭がおかしいと判断されるレベルのな」

 ふざけた様子は一切ない。そもそも、これまでマジメと付き合ってきて、冗談を口にするような性格ではないと知っている。そんな彼がわざわざ前置きを入れてまで信じてほしいといったのだ。どれだけ突拍子もない話だろうと、とにかく最後まで聞こうとアヤは頷いた。

「先に、多少の信憑性はもたせたほうがいいか。なあ常盤、夢に出てきた化け物って、霧みたいな体で、真っ黒で、丸太のような腕をした丸っこい奴じゃなかったか?」

「どうしてそれを……!?」

「俺も見たからだ。……これで多少は信じてくれるか?」

 他人の夢に出てきた人間を当てるなんて、その夢を見ていない限り無理だ。ましてや、それはアヤにとって生物かどうかもわからない未知の存在で、夢を見た本人でさえも馬鹿馬鹿しいと切り捨ててしまうような幻覚じみた存在だったのだ。

 にもかかわらず、マジメは的確に、アヤが見た夢の化け物を言い当てた。それによって、只事ではないとアヤも真剣になってくれた。

「理解するのは少しずつで構わない。話も長くなるけど、いいか?」

「構わないよ。私にも、無関係ではないのだろう?」

 真剣な眼差しを向けるアヤに頷いて、マジメは意を決して口を開いた。

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