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「失礼しまーっす」


 両手が荷物でふさがった涼が器用に足でドアを押す。


 入学式前日。


 ここは杉浦学園高等部・男子寮。


 涼が故郷を発って、羽田空港に着いたのが今日の昼過ぎ。


 向こうでのやらなければならないことなど色々とあり、前日というこんなにギリギリの到着になってしまった。


 制服等も受け取ったのはついさっき。


 他にも学校や役所などで様々な手続きがあって、寮にたどり着けたのは夜になってからのことだった。


 部屋の中にいた人物は、涼の顔を見るなり爽やかにほほえんだ。


「や。久しぶり」


「部屋の同室って……お前かよ」


 ドアを開けた涼はガクッとうなだれる。


 新しい制服に身を包んだ、見慣れた顔。高時祐真の姿がそこにあった。


「おや、すっかり髪の毛がさっぱりしちゃって。失恋でもしたの?」


「失恋してたらここに戻ってこないだろ」


「かわいい麻穂ちゃんのために、危険を冒してまたここに戻ってくるなんて。健気だね」


「うるせえよキザ野郎」


 余裕をたたえた表情の祐真。睨みつける涼。両者の間の空気が、あの懐かしい感覚に戻る。


 それがおかしくなって、二人はふっ、と笑いだした。


 いつかの麻穂がそう思ったように、男同士だったらそれほどうまくいかない二人でもないのかもしれない。


 祐真は改めて口を開く。


「それで、君の名前は?」


キョウ。一応、片岡 涼の“双子の弟”ってことになってる」


「京くんね」


 祐真が名前を覚えるように繰り返す。が、涼は怪訝な顔をする。


「お前、キモイからその”くん”付けやめろ」


「え、じゃあ呼びつけでいいの? 京って」


「いや、うーん……。まあ、京くんよりマシか」


「じゃあ僕のことも――」


「お前はずーっと高時だ」


 変な提案をしてこようとした祐真の言葉を、涼がスパッと切る。


 涼は自分が抱えてきた最低限の荷物をあいている方の机に置いて、中身を出していく。


 黙々と作業していると、机に向かって書き物をしながら祐真が話しかけてきた。


「麻穂ちゃんには会いにいったの?」


「……まだ」


「あー、だから今日麻穂ちゃん元気なかったのか。今日は学校で、今そろっている人たちだけでの入学式リハーサルだったんだけどさ」


 その言葉を聞いて、涼が祐真の机を覗き込む。祐真が机で何やら書いているのは、「新入生代表の言葉」のようだった。元生徒会長だから選ばれたのだろうか。


 でもよく見ると、その紙の隣に「在校生への挨拶」という紙もある。二つも原稿を書いているのだ。


 こいつも色々大変なんだな、と涼は思った。そして、改めて礼を言う。


「……麻穂のこと、気にしてくれてたらしいな。ありがと」


 がらにもない感謝の言葉に、祐真は笑顔で手を振りながら、こう返す。


「いやいや。僕は隙あらば彼女を横からかっさらおうと思ってるだけだから」


「前言撤回」


 いつもと変わらないやりとり。


 涼は、杉浦学園に戻ってきた。

次話で最終回です。

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