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Lupinass(ルピナス)  作者: Memocifa


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#1〜水の郷とあかべぇ〜

窓の外を流れるのは、雑踏に紛れた都会の景色が、こんな風に流れて行くなんて、思っていませんでした。


私は奈穂

就職をきっかけに、1年前上京しました。


地元を離れるつもりはなかったけれども、

巡る先に辿り着いたのは、とあることがあったからなんです。


時を遡る事、約1年半前、

蝉が鳴り響く季節を迎えていました。

「あと少しで部活引退だし、進路も考えないといけないとだし、何から手をつけたら良いか分からないよー!」


静まり返る部室で叫んでも、帰ってくるのは、

窓のそばに偶然いた蝉たちの声だけでした。


「本当に、残るって言って良かったのかな?」


自問自答しながら、机に置いてあるノートに記された文字を見つめ、スタンドに立てていたとある楽器を持ち上げました。


「この曲でダメだったら…もう終わりにしよう」


誰かに届くか分からない気持ちを抑え、

とりあえず弾いてみました。


「何かが違うな・・・でも、手がかりはあるような気もする」


なんでこんなに分からないんだろう?

「あかべぇ!何か正解か教えてよ!」


楽器が喋るわけがないから、答えてくれないのは分かっていても聞いてしまう……


この日は結局、手がかりのカケラを見つけることが出来ず、小さな楽器を抱えて帰宅しました。


自宅に着き、ケースから出してみると、

赤と黒のグラデーションが、いつも以上に煌めきを放っていました。


きみの名は、あかべぇ

一般的なサイズよりも小さなアコースティックギターです。


私は、軽音楽部でギターボーカルを担当しています。

マイ楽器に名前をつけるのはよくある事だから、おじいちゃんから譲ってもらった瞬間に直感で名前を決めました。


部活で曲をみんなで作詞作曲して楽しさを感じたから、自分でも1曲作りたいと思い、毎日時間を作っています。


「次こそは、完成させる!」


決意を胸にあっという間に時間が過ぎていました。



次の日もその次の日も、他の部員よりも早く行き、1番遅く帰る生活を送り、あっという間に私にとって大切な日を迎えました。


最初で最後のソロでのステージ

こんな機会頂いて良いのかと何度も葛藤したけれども、チャンスを頂いたからにはやり切らなくちゃと張り切っていました。


同期や後輩に見守られ、立ったステージはいつも以上に輝いていました。


「それでは聞いてください」


あかべぇを弾き語り、曲の終盤を迎えたその時、突然弦が切れたのです。


どうして…このタイミングで……


焦る気持ちと動揺を必死に抑え、なんとかその場はやり切ったけれども…


ステージを降りた後、涙がとまらなくなってちました。


あれから、ステージを見ていた人たちから

『気にしなくていい』や『最後まで頑張ってたよ』と励ましの声が行き来したけれど、

弦を張り替えてから出さずに部屋の片隅に

置いていました。


「もう自信無くしちゃった!無理して弾き語る必要はないよね……」


進路に迷っていた私は、就職すると決め、

さまざまな企業に応募をしました。


そして内定、卒業式、入社と季節を巡り

あっという間に1年半が過ぎていました。


新卒で入社した企業は、東京のど真ん中にあり、なぜご縁があったのかも分からず、

上長にも恵まれて、ひたむきに働き続け、もっと学びたいという気持ちでなんとかやってきました。

今は、異動になり、慣れない営業職、厳しいノルマと周りの言葉にも怯える日々


自分で決められないので、無理をしてでも受け入れるしか選択肢はありませんでした。



五月雨が降り続くとある日に、

商談先に向かう途中、ふとビルの隙間から見える空を見上げました。


「今日も長く感じるな…」


どうして、雲に覆われた日はこんなにも心が重く感じるのだろうか……


「とりあえず、商談を成功させなくちゃ」


空に流れる雲に逆らい、旅路を急ぎました。



「なんとかやり切った…」


帰宅を急ぐ人波に呑まれながら、道端を歩いていると、水たまりに映る自分の姿を見つめました。


思い描く姿は、この胸の中にあるのに、

どうして、私だけ、上手くいかないんだろうか…


すると突然、雨風が強くなり、傘はどこかへ飛んでいきました。


「あっ。私の傘!」


その時、雨音は徐々に小さくなり、雲は流れて青空に変わり、一面に咲き誇る花たちの中に立っており、遥か彼方に動く影がこちらに何かを語りかけてきました。


『この道の先で、待ってるよ!』


一本道の先に揺らめく影は、どこかへ行ってしまいました。


「ちょっと、待って…」


目を閉じて開くと机に顔がついていました。


時計の針は、午前8時過ぎを示しており

あれから時間が経っていることがわかりました。


「私、寝落ちしていたのか…

早く仕事に行かないと…」


いつもと同じようにスーツを着て、急いで駅へと向かいました。


違うのは、反対側のホームの列車に飛び乗ったことと、あの子を連れてきてしまったこと。


やっと勝ち取った有給なのに…どこかへ向かい、

あかべぇを連れてきてしまうのは、どうしてだろうか…?


今は、ギターを弾けないのに、

何度も何度も見つめてしまいます。


列車を幾度も乗り換え、何かに引き寄せられるように向かった先には、水の郷とろ舟が浮かび、晴天の青空が広がっていました。


風が強く吹き抜けて、どこかで見たような雰囲気を感じます。


これってもしかして…

夢で見た場所なのかな…?


初めて来たはずなのに、どうしてこんなにも懐かしさを感じるのだろう?


公園の中に入ると、満開を迎えた花たちが迎えてくれました。


「この花は青…いや、紫のイメージもあるけど、

黄色や白もあって、色とりどりなんだな…」


ろ舟が浮かぶ川面に反射した煌めきを見つめ、

衝動で園内の階段を駆け上がり、橋の上から園内を見下ろしました。


今なら…弾ける……


黒いケースから取り出し、肩にストラップをかけました。


「あかべぇ、久しぶりだね。

 …これで、指、切ったんだよね…」


ピックを1つ取り出し、フレットを抑えた瞬間、

手の震えが止まらなくなっていました。


あかべぇを黒いケースにしまい、手の震えを落ち着かせ、あの時のメロディがこころに浮かんで、花たちに語りかけるように口ずさんでいました。


『君がいて…君がいて…君がいて気づくことが

できた時を覚えてる?

伝えたい…伝えたい…伝えたい涙拭って……

そんな私に春なんてくるの……』


どうしてだろう…何かが込み上がってくるけれども上手く出せない。


「いつかまた、弾けるよね……」


『奈穂ちゃんなら出来る、できるよ。

 いつか思いも全部受け止められるよ!』


どこかから聞こえた気がしたけれども、幻想と現実を彷徨っているようで、何が正解なのかが分かりませんでした。


勢いで訪れた水郷の郷には、煌めきを反射する水面と花たちに何か与えてもらった気がしました。


これからもあかべぇと向き合わなければいけない現実を背負い生きていくと、大空の彼方に、想いだけを飛ばしていました。

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