第2話 初体験の翌日。
朝の教室。
窓から差し込む秋の光が、黒板をぼんやりと照らしている。
俺――佐原遥斗は、自分の席でぼんやりと机を見つめていた。
(……昨日のこと)
頭に浮かぶのは、昨夜の幼馴染――遠屋凪葉の顔。
赤くなった頬。
近い距離。
──昨夜の、凪葉との甘い行為。
「おい、遥斗」
肩を軽く叩かれ、俺ははっと我に返った。
振り向くと、親友の杉野健太がニヤニヤした顔で立っている。
「なんだよ、朝から魂抜けてるぞ」
「別に……」
俺は視線を逸らした。
すると健太は机に肘をつき、ぐっと顔を近づけてくる。
「遥斗」
「……なんだよ」
「遠屋となにかあったのか?」
心臓がドクンと跳ねた。
「──な、なんもねぇよ」
「嘘つけ。顔に書いてあるぞ?」
健太はあっさり言う。
「さっき昇降口で見たけど、遠屋もなんか変だったぞ」
「え?」
思わず顔を上げる。
「ぼーっとしてるし、遥斗のことチラチラ見てるし」
「……」
昨日の夜のことを思い出し、俺の顔は一気に熱くなった。
(そりゃ……そうなるよな……)
幼馴染と――あんなことしちまったんだ。
普通に戻れるわけがない。
そのとき。
「おはよー」
聞き慣れた声が教室に響いた。
俺は反射的に顔を上げる。
教室の入口に立っていたのは――凪葉だった。
ポニーテールを揺らしながら、いつものように教室へ入ってくる。
けれど。
目が合った瞬間。
「……っ」
凪葉は一瞬だけ固まった。
そしてすぐに視線を逸らす。
(やっぱり……)
昨日までの凪葉じゃない。
どこかぎこちない。
健太が小声で言った。
「ほらな」
「……うるさい」
俺は机に突っ伏した。
そのまま午前の授業は、ほとんど頭に入らなかった。
---
昼休み。
廊下の自販機でジュースを買っていると――
「遥斗」
後ろから声がした。
振り向く。
凪葉だった。
ポニーテールが揺れ、少しだけ息が上がっている。
「……よう」
ぎこちない挨拶。
凪葉は少し視線を泳がせてから、小さく言った。
「昨日……さ」
「……」
「……ありがと」
「え?」
思わず聞き返す。
凪葉は少し頬を赤くして、そっぽを向いた。
「べ、別に深い意味じゃないけど!」
「お、おう……」
沈黙。
自販機のモーター音だけが響く。
そして凪葉は、小さな声で言った。
「今日……行っていい?」
「……え?」
「遥斗の部屋」
心臓がまた大きく鳴った。
凪葉は続ける。
「ゲーム……しよ」
そう言いながら、ちらっと俺を見る。
その目は、昨日の夜を思い出させるような表情だった。
「……ああ」
俺は小さく頷いた。
---
夜。
俺の部屋。
テレビにはゲーム画面が映っている。
けれど――
コントローラーを持つ手は、まったく集中していない。
隣には凪葉。
昨日と同じ距離。
同じ部屋。
同じ二人。
「……遥斗」
凪葉が小さく言う。
「ん?」
「ゲーム……楽しい?」
「……いや」
正直に答える。
凪葉は少し笑った。
そして――
コントローラーを、ぽんっと机に置く。
「じゃあ」
凪葉は俺を見た。
少しだけ赤い顔で。
「ゲームじゃなくて……」
言葉は途中で途切れた。
けれど、次の瞬間。
俺たちは自然と互いに近づいていた。
抱きしめ合い、静かに唇を重ねる。
「……遥斗」
「……凪葉」
◇◇◇
「──なんか、まだ入ってるような気がする」
3回戦を終えたあと。
凪葉が、真っ白なおなかをさすりながらつぶやく。
「……そ、そうか?」
「……だって遥斗、大きいんだもん」
頬を膨らませる凪葉。
離れたあと、凪葉は少し照れたように笑った。
「俺たち……ただの幼馴染だったのにな」
「だね……」
静かな部屋。
ゲーム画面の光だけが、二人を照らしている。
昨日の夜の続き。
幼馴染との距離は――
もう、元には戻らないのかもしれない。




