7. 魔法の映像
俺たちは、ヴィーが見つけたという、異世界転移魔法の映像を視るため、DSDSアマデウスのブリッジにきていた。ブリッジはプラネタリウムのような半球のドームで、その中央にシートが一つあるだけだった。
沢山の計器やスイッチがある、前世の飛行機や宇宙船の操縦室を想像していた、俺には、ちょっと拍子抜けだ。
「アマデウス、シートをもう一つ用意して」
彼女が誰ともなしに命令すると、床の一部に穴が開き、そこからシートがせり上がってきた。
音声で操作ができるから、ここまでスッキリしているわけか。
「じゃあ、アッシュは、そこに座ってね」
元から有ったシートに腰掛けた彼女に言われ、俺は新しく出てきたシートに腰をかけた。座り心地は固過ぎず柔らか過ぎず丁度いい。
「えーと、どれだったかしら?」
彼女は、シートの脇から生えている、自在アームに取り付けられたパッドを操作し、目的の映像を探しているようだ。全てが音声操作というわけでもないのだな。
「ところで、他の乗組員はいないのか?」
「ええ、私一人よ」
彼女一人だけなのか、どうりで、誰も見かけないはずだ。そうなると、さっき命令したアマデウスというのも、船の人工知能といったところか。
調査船だというのに、彼女一人ということは、途中で他の乗組員は亡くなったか? 少し彼女に聞きにくいな。今は触れずに、俺の関心事に話題を変えよう。
「異世界転移魔法の他にも、魔法の映像はあるのか?」
「ええ、それならたくさんあるわよ」
「たくさんか! 後で見せてもらってもいいか?」
「構わないわよ。でも、まずは異世界転移魔法ね。確か、これだったはず。それじゃあ再生っと」
彼女がパッドをタップすると、ブリッジのドーム状の壁面に映像が映し出された。
「ほら、見て見て、この人が魔法を使って、別の世界に転移しているでしょ。異世界から人を召喚する魔法の映像は多いけど、元いた世界に帰還する魔法の映像は貴重なのよ」
「うん、そうだね……」
こ、これは……。アニメじゃねーか!!
確かに、異世界転生や転移のアニメで、元の世界に帰れた話は少ない。だから貴重だというのはわかるが、わかるのだが、現実問題、アニメではなんの役にも立たないだろう。
それより問題なのは、彼女が、このアニメを本当のことだと思っていることだ。
「あのさ、この映像はどこで手に入れたんだ」
遺跡で発見したというのは考えにくい。ヴィーは異世界転移魔法を探すために遺跡にきたのだ。つまり、遺跡に来る前に映像を見たことになる。どこかで、本物の映像だと騙されて買わされたのだろうか。それにしたってアニメだぞ。本当のことだと思うだろうか?
う! グサッ!
絵本の魔法が、本当に有ると信じていた自分に、自分の言葉が突き刺さる。
「これは、この世界に飛ばされた直後、周囲の状況を確認した時に、調べた電磁波に混じっていたの。異世界転移魔法を使えば、元の世界に帰還できるかもしれないと喜んだわ」
彼女にしてみれば、暗闇に一筋の光明が差し込んだ感じであったのだろう。俺に言わせれば、溺れる者はワラをも掴むといったところだが。
「それで、発信源をその場所から3万光年離れたこの星系だと特定し、3か月もかけてやってきたんだけど……」
3万光年を3か月ということは、このアマデウスは光速を超えることができるということだ。3万光年なら、光の速度で3万年かかるということだからな。ん? 調べた電磁波? 電磁波って光や電波のことだよな。それって……。
「3万光年離れた場所で受け取った電磁波が発信されたのは、その時点で既に3万年前になるのよ。そんなわけで、私が到着した時には、魔法の知識を持った文明は、知ってのとおり滅んでしまっていたわ。3万年と3か月ですものしかたがないわよ」
彼女はやるせない表情をみせ、お手上げだという仕草をとった。
それにしても、騙されて買わされたものではなかったようだが、それなら、なぜアニメを本当のことだと思っているのだろう。
一縷の光が途絶えて、それでも、諦めずに遺跡を調査している彼女に、これはアニメで、本当のことではないと教えてしまって良いのだろうか。
「ところで、ヴィーは、アニメって知ってるか?」
「アニメ? 知らない言葉だわ。少なくとも、私の世界では使われていなかったはずよ」
「そうなんだ。この映像とかをアニメというんだけど」
「へー。この変わった映像エフェクト、アニメというのね。趣があって、私は好きだわ」
「映像エフェクトというか、少しずつ違う絵の連続で、動いているように見せているんだぞ」
「絵? ちょっと待って、ちゃんと翻訳できてないみたいなの」
そう言って彼女は、耳のリングを何度か指で叩いた。
「絵とは、図のように描かれたものなのね。ということは、このアニメも、実物が素ではなく、描かれたものということなの? すごいわ!」
「ちょっと、ちょっと。ヴィーの世界には、絵がないのか?!」
「うーん、多分そうみたい。もちろん、図はあるわよ。図は」
文字がないならともかく、絵がないなんて、どんな発展の仕方をしたんだ?
「文字はあるよな?」
「当たり前じゃない。私がいたのは、そんな原始的な世界じゃないのよ」
「光速を超える宇宙船を作れるのに、原始的だとは思ってないさ」
「ならいいけど」
いいけどと言ったが、彼女は少しムッとした表情のままだ。
しかしな、世界が違うとここまで違うものかね。そうなるとアニメが本当のことだと思うのも無理もないのか……。いや、もしかすると思っている以上かも。
「もしかして、物語はわかる?」
「また、馬鹿にして! 英雄や偉人の伝記のことでしょ」
「ファンタジーとかフィクションは?」
「嘘のことね」
ファンタジーとかフィクションは、フェイクという認識なのか。
「ちなみに、このアニメはファンタジーでフィクションなんだけど」
「えー! このアニメ、嘘なの」
「嘘というか、創作だね」
「創作って、つまり、嘘ということよね」
彼女の世界では、創作は全て嘘になるようだ。
「ガーン! それを信じてここまで来たのに……」
ああ、やはり落ち込んでしまったか。




