6. 彼女の事情
エルフだと思っていた巨乳のお姉さんは、宇宙人《バルクァン星人》だった。しかも、バルクァン星はこの世界の星ではないという。
「この宇宙とは別の世界って? お姉さん、異世界転移ができるのか!」
それができるなら、俺も元の世界に戻れるのではないか?
「別に、意図して異世界転移してきたわけではないのよ。アマデウスで航行中に時空震に巻き込まれちゃって、気づいたらこの宇宙で漂っていたの。それで、帰還しようとバルクァン星を探して見たけど、いくら探してもまったく見つけられず、アマデウスが出した答えは、ここは、私が元いた世界とは違う、異世界であるということなの。今は、元の世界に帰る方法を探している最中よ」
彼女も、俺と同じように迷い人であったようだ。これでは、彼女に俺の元いた世界につれていってもらうのは無理だろう。
そもそも、俺の場合は異世界転生だ。彼女の異世界転移と違って、生まれ変わっているのだから、元の世界に戻っても居場所はない。今更元の世界に戻っても仕方ないよな……。それよりは現世をエンジョイすることを考えよう。それには魔法だ。
エルフじゃなかったけれど、このお姉さんなら魔法について何か知っているかもしれない。異世界人だし、遺跡にいたのも、きっと調査をしていたのだろうから。それなら、もっとお近づきになった方がいいだろう。何より、美人でスタイルもいい巨乳だし。
「俺の名前はアッシュ、俺も、お姉さんが自分の星に帰れるように手伝ってやるよ」
俺は椅子から立ち上がると、彼女に握手を求めて手を出した。
「あら、ありがとう。私はヴァイオレットよ。ヴィーと呼んでね」
彼女は俺が出した手を見て、それから自分の手を見てから俺の方に手を差し出した。しかし、彼女は俺の手を握ろうとしない。彼女の表情はにこやかで友好的な様子だ。手を取るか迷っているふうではない。
これはきっと、彼女の世界には握手という習慣がないのだろう。
そう判断し、俺の方から彼女の手を握った。彼女は一瞬驚いた様子だったが、これが友好を伝えるものだとすぐ理解したようで、彼女の方からも握り返してくれた……、というか握り返す力が強いのだが。
「痛い痛い!」
俺は彼女の手を振り払った。
「なんで、そんなに力を込めるんだ? 痛いだろう」
「え? 力比べではないの?」
あー。彼女はまったく理解していなかった。
「これは握手といって、友好の印に、手を握り合うんだ。力任せにではなく、普通にな」
「そうなの。変わった決まりがあるのね」
「決まりというか、慣習かな。バルクァンにはそういうのないのか? 中指と薬指の間を開いて片手を上げて挨拶するとか、人差し指を触れ合わせるとか」
俺は実際に、そのポーズをとって見たが、彼女は、それに対して、これといった反応を示さなかった。
「それが、ここでの挨拶の仕方なの?」
「いや違うが、宇宙人がやりそうかなっと」
「他の星のことはわからないけど、バルクァン流挨拶の仕方はこれね」
代わりに彼女がやってみせてくれたのは、右手で鼻をつまみ、左腕を頭の後ろに回して、左手で右耳を引っ張るというものだった。
「ず、随分と変わった挨拶の仕方をするんだな」
「変わっているかしら?」
まあ、彼女にしてみれば、それが普通なのか。
「それでアッシュ、挨拶も済んだし、早速なんだけど、手伝ってくれるというなら、魔法について教えてくれる」
「え! 手伝うと言っておいて悪いんだけど、俺は魔法についてほとんど何も知らないんだ」
逆に、俺の方が、彼女に、魔法のことを教えてもらおうと思っていたくらいだ。
「遺跡にいたのも、何か、魔法を知る手がかりがないか探していたところだったんだ」
「そうなの、それは残念だわ。でも、あそこにいた目的は同じだったのね」
「ということは、ヴィーも魔法が目的か? 元の世界に帰る方法を探してたんじゃないのか?」
「ああ、異世界転移魔法が使えれば、元の世界に帰れるかと思って探しているの。だけれども、まるで手がかりがないのよ」
彼女が魔法を探していたのは帰還のためか。俺より遥かに切実だな。いや、俺だって泣けるくらい切実だ。なんにせよ、魔法を見つけたいという思いは一緒だ。
「なるほど、異世界転移魔法ね……。ヴィーがいた世界にはあったのか?」
「いいえ、私の世界には、魔法の魔の字もなかったわ」
「それじゃあ、どこから異世界転移魔法のことが出てきたんだ。ヴィーの思いつきじゃないよな」
「それは、こちらで見つけた映像に、そんなシーンがあったからよ」
「異世界転移魔法の映像があるのか! 俺にも見せてくれないか」
「構わないわよ。映像を見るなら、ブリッジに行きましょう」
俺たちは、医務室を出てブリッジに向かった。




