5. エルフの正体
転移魔法を使おうとしたエルフを逃すまいと、俺は彼女にしがみついた。その結果、俺はどこかに転移してしまったようだ。
先ほどの図書室のような場所とは明らかに違っていた。見渡してみると、ここは八畳ほどの広さの部屋で、その中央部分が直径二メートル位一段高くなっている。何もないがらんとした部屋だが、唯一入り口の脇には、レストランなどで見かける受付機のような物が置いてあった。
転移魔法を使うための儀式をする部屋だろうか?
俺たちは、その一段高くなった所に立っていた。そう、俺たちだ。幸いなことに、俺だけ別の場所に飛ばされてしまったということはなく、エルフの彼女と一緒の場所に転移できたようだ。しかし、その彼女が、先ほどから、すごい剣幕で捲し立てている。どうやら俺に怒っているようだが、言葉が通じないので何に怒っているのかわからない。
とりあえず、俺は手のひらを上にして両手を広げ首を傾げてみた。これで、あなたの言葉がわからないと伝わればいいのだが。
すると彼女は、より一層顔を顰め、俺の手首を掴むと、無理やり引っ張って部屋の外へと歩き出した。あれ? 余計に怒らせてしまっただろうか。これ以上気分を害されても困るので、俺は引かれるまま彼女について行くことにした。
最初の部屋を出て、廊下を少し歩き、すぐ右隣の部屋に入る。そこは医務室のような部屋だった。彼女は俺をそこの丸椅子に座らせると、近くの棚を漁り、ホチキスのような器具を手に持ち戻ってきた。そして、おもむろに、あいている方の手で俺の耳を掴むと、その器具で俺の耳を挟み、力一杯握り込んだ。
ガチャ!
「痛! 何しやがる!」
耳に刺すような痛みが走った。どうやら針を刺されたようだ。
「どう、これで私の言葉がわかる?」
今まで、全く意味をなさない音の羅列だった彼女の声が、急に意味をもつ言葉になった。
「え? あれ? なぜかわかるようになったけど……。そうか、翻訳魔法だな!」
「残念ながら魔法ではないのよ。見て」
そう言うと、彼女はそばにあった手鏡を手に取り、俺の顔に向けた。鏡に写った俺の耳には、小さな耳管が付けられていた。
「これで翻訳されているのか。すごい魔道具だな」
「ブブー。それは魔道具ではありません。ただの翻訳器よ。相手の言葉がわかるようになるだけで、こちらが、相手の言葉を喋れるようになるわけじゃないから、あなたにもつけてもらったの」
そう言った彼女の耳にも同じ耳管がつけられていた。
聞き取れるようになるだけでも、十分にすごい道具なのだが……。
「なんだ、魔道具じゃないのか。なら、これが遺物というものなのか?」
「残念ながら、この星の遺物でもありません。これは私の星で作られたものよ」
「私の星って……」
「そんなことより、転送中に割り込むなんて、すごく危険なことなのよ!」
今、とても重大な事項を確認しようとしたのに、それは流され、すごい剣幕で、彼女のお説教が始まってしまった。転移後すぐに、彼女が捲し立てていたのはこれだったのだろう。
「転送はね、不確定性原理により因果律を強制変更して行うの。とても不安定な状態だからちょっとした害的要因で事故につながりやすいのよ。実際に転送中に紛れ込んだハエと人間が融合してしまったり、転送装置の緊急停止により一人の人間が二人になってしまったり、転送座標がずれて壁にめり込んでしまったり、人間だけ転送されて着ていた服が転送されなかったり、その逆だったり」
それって、転移したらスッポンポンということか。俺は思わず、彼女を凝視してしまった。
「あっ! 今、私の裸を想像したわね。子どものくせに、すけべなんだから」
「あ、いや、確かにそのとおりなんだが、話を振ってきたのは、そっちじゃないか」
この話の流れで、目の前の巨乳エルフの裸を想像しないなんて、無理な話だ。
「話なんか振ってません。私は転送中に割り込むことが、いかに危険か、分かりやすく説明しただけよ」
「それは理解できたし、もうしないようにするけど、お姉さんが言っている転送って、転移魔法ではないのか?」
「いえ、魔法ではないわね。この船の転送装置で行うのよ」
「この船って? ここは船の中なのか?」
「そうよ。ここは、深宇宙探査船《ディープ スペース ディスカバ シップ:
DSDS》アマデウスの中よ」
「船は船でも、宇宙船かよ!」
「ただの宇宙船ではないわ。アマデウスは深宇宙調査船よ」
ただの宇宙船と深宇宙調査船の違いも気になるところだが、今は、それよりも確認しなければならないことがある。
「それじゃあ、お姉さんはエルフじゃなく宇宙人なのか?」
「そうね、あなたからみれば宇宙人になるかしら? 私はこの星ではないバルクァン星出身なの。ただ、バルクァン星はこの宇宙とは別の世界にあるから、私は異世界人ともいえるわね」
え? これってSF? それともファンタジー?




