4. 遺跡
遺跡は、この星のあちこちに存在していた。数千年、いや、数万年前のものと言われるそれらは、先史以前に、高度に発達した文明が、この星で栄えていたことを示していた。
遺跡からは、様々な遺物が発掘されたが、そのほとんどが用途不明な謎の物体だった。俺は、それらが魔道具ではないかと思い、父に聞いてみたことがあった。
「遺物が魔道具じゃないかって? そもそも、魔道具って何だ?」
「魔力……、魔法の力を使って動く道具のことだよ」
「ふーん。アッシュは面白いことを考えるんだな。だけど、遺物はただの遺物だろ」
「……」
父との会話でわかったのは、父は遺物に興味がないということと、この世界に魔道具という言葉はないということであった。
夫婦喧嘩から逃げるために、父が勧めてくれた遺跡の調査であるが、数年前に近所の森で発見された遺跡のことであった。
そこは最近、国の研究機関による調査が終了し、一般に公開されるようになった所だ。公開されてすぐに、俺とルルの二家族で、ピクニックも兼ねて見学に行っている。森の中ではあるが、子ども一人で行ってもさほど危険はない。
もちろん、森の中ではあるので熊や猪は出没するが、この村周辺ではそれが当たり前なので、それらに対応できなければ、ここでは生きていけない。
そう、出没するのは熊や猪などの野獣で、ゴブリンやオークなどの魔物や魔獣ではない。そもそも、この世界には魔物や魔獣がいない、というか魔物や魔獣という言葉すらないらしい。(泣)
せめて、スライムくらいはいるのではないかと思ったが、いたのは巨大アメーバだった。
ということで、野獣対策の装備を付けて、俺は遺跡に向かっているのだが、なぜか、ピンクのモフモフが、俺の後を距離をあけてついてきていた。
「はぁー。おいルル! こっちに来いよ」
「アッシュくん、怒ってない?」
「何で、俺がルルに怒るんだよ」
イザベラには怒っているけどな。散々俺のことを指差し笑いやがって、いつか泣かしてやる。
「ならいいんだけど」
ルルは、ピコピコと早足で俺に追いつき、横に並んだ。
「ねえ、どこに向かってるの?」
それも知らずについてきたのか。
「遺跡」
「ふーん。前に家族と行った所だよね」
「そうだけど。それよりルルは何でここにいるんだ? 教会はどうした?」
このまま話を進めると、次は、何で遺跡に向かっているのか聞かれそうなので、俺は話を逸らした。まだ、ルルに魔法について調べに行くとは言いづらい。
「アッシュくんが、いつまでも戻ってこないから、私も抜けてきちゃった」
「心配かけたか。すまなかったな」
「ううん、そんなことないけど。それで遺跡には何しに行くの?」
あれー? 話を逸らしたはずなんだけど? おかしいな?
「何でもいいだろ!」
「あれ、アッシュくん怒った?」
「怒ってない!」
「えー、本当は怒ってるでしょ」
怒っているわけではない。思いどおりにいかずにイライラしているだけだ。だが、それでルルに当たるのは間違っているだろう。
「本当に、怒ってはいないって」
「ならいいけど」
その後は、たわいもない会話をしながら一時間歩くと、目的地である遺跡にたどり着いた。
遺跡の入り口は崖の中腹にあった。今はそこまで足場が組まれているが、ロッククライミングでそこまで登るにはチョット勇気が必要そうだ。遺跡が数年前まで発見されなかったのは、きっとそのせいだろう。
俺たち二人は足場を登り遺跡の中に入る。
一般公開が開始された直後は多くの人で賑わっていたが、今は俺たち以外、人っ子一人いないようだ。
入り口のところに地図が置いてあったので、それを一枚もらって目的地を探す。
しかし、この遺跡、前に来た時も思ったが、前世の学校のような作りをしている。
そういうことなら、調べ物が出来そうな図書室は最上階のここだろうか? それよりも、この離れた区画に図書館として独立していた可能性の方が高いか? もらった地図を見ながら、当たりを付けてからそこへ移動する。
もっとも、既に研究所が調査済みなのだから、参考になる資料などは、何も残っていないだろう。それでも、転生者の俺なら気づける、何かが残っている可能性はゼロではない……と信じたい。
最上階の図書室らしき部屋にたどり着き、扉を開け部屋に入ってみると、そこには空の本棚が並んでいた。読みどおり、ここが図書室だったのは間違いないようだ。
ただ、案の定、残された本は一冊もなく、本棚の裏も探ってみたが、あるのは埃ばかりだった。
「何もないね」
ルルも一緒になって、何か残されていないか探ってくれていたが、流石にもう諦めモードだ。
「そうだな。ここには何もないようだから、次の部屋に行ってみよう。次に期待だ」
そう言いながらも、次も何もないだろうと、心が折れかけている。
ガタン!
誰かが入り口の扉を開けようとしてるようだ。俺は咄嗟にルルの手を引くと本棚の陰に隠れた。
別に悪いことをしているわけではないので、特に隠れる必要はないのだが、入ってくるのが善人とは限らない。入ってきたのが悪人だった場合、子ども二人だけでは何をされるか、わかったものではない。俺一人なら何とでもなるが、今はルルも一緒だ。慎重に用心することにする。
キー!
誰かが扉を開けて入ってきた。
「£&£&€〆=※$〆&※¥#%¥¥@〜*」
何を話ているのかわからないが、声の調子からすると入ってきたのは女性のようだ。
俺は本棚の陰からそーっと相手の様子を伺う。
やはり相手は女性だった。
彼女はスラっと背が高く、ウエスト部分をベルトで締めた丈の短いワンピースに、脚のラインが出る細身のボトムという、この辺では見かけない装いをしていた。
そして、スレンダーなスタイルなのに大きな胸、その美乳が俺の目を引いた。あれはHカップはありそうだ。
おまけに、髪はストレートの金髪ロングヘアで、そこからちょこんと先の尖った長い耳が顔を覗かせている。その姿は、まるで、天使か女神のよう……。
ん? 先の尖った長い耳?
「エルフじゃないか!」
しかも、巨乳!
俺は、思わず大声をあげてしまった。
当然、彼女はこっちに気づいて逃げようとする。
「あ、待って、待って、危害を加えるつもりはないから!」
俺は必死に、彼女を引き止めようと精一杯の声をかける。
「#¥¥*@〜^_€£&※〆」
こちらの声を理解しているのか、それとも俺の誠意が伝わったのか、彼女は逃げる足を止めこちらを振り返った。そして、何かこちらに話しかけてきたのだが、俺には彼女の言葉が理解できない。
「€※&〒$€+※=#%…〜¥#^_^」
俺が彼女の言葉を理解できないことを感じ取ったのか、彼女は手を振ると呪文のようなものを唱えた。すると彼女は光に包まれていった。
「これは、転移魔法か! ここで逃してなるものか!」
俺は後先考えず、彼女にしがみついた。
「アッシュくん!」
ルルが必死に俺の名を呼ぶが、次の瞬間、空間が歪み、天地がひっくり返った。そして、気づくと今までとは全く別の場所にいたのだった。




