11. 本棚
エルフに似た、宇宙人《バルクァン星人》のヴィーに出会って一週間が経った。俺は、今日ヴィーと遺跡調査に行く約束をしていた。
できることなら、もっと早く行きたかったが、家族にヴィーのことは内緒にしていた。そうなると、自由に出かけられるのは教会の日曜学校の時だけだ。
この世界では、子どもといえども暇ではない。俺くらいの歳になれば、しっかり労働力としてあてにされているので、理由もなく仕事をサボって出かけることはできない。
ただ、日曜学校に行く場合は仕事が免除されるので、俺は日曜学校へ行くふりをしてヴィーの所に行くことにした。
幸い、俺はもう日曜学校で学ぶことは全て終えているし、日曜学校へ行ったというアリバイづくりは、なぜかルルが積極的に協力してくれることになった。
「アッシュくんは、ここから遺跡に向かうのね」
「ああ、シスターには、一人で自習していると言っておいてくれ」
「わかったわ。それじゃあね」
「それじゃあな、ルル」
家から教会に向かう道の途中、俺はルルと別れて一人遺跡への脇道に進んでいく。
しばらく歩き、周りに誰も居ないことを確認すると、俺はヴィーにもらった腕輪にタッチした。
「アマデウス、転送用ドローンの準備はできているか?」
『準備万端』
アマデウスに転送してもらうには、転送元と転送先に転送装置が必要になる。今回、予めヴィーに連絡をして、俺のそばに転送用ドローンを飛ばしてもらっている。ステルス機能があるので見つけることができないが、きっとその辺に飛んでいるのだろう。
「なら、転送してくれ」
『了解』
アマデウスの返事と共に、俺は光に包まれていき、目の前がチカチカして、気がつくと、そこは先週ヴィーと出会った遺跡の図書室のような部屋だった。
「アッシュ、一週間ぶり」
金髪の長い髪から、特徴的な尖った耳が顔をのぞかせているヴィーが、少し離れた場所から俺に手を振っている。彼女が手を振るのに合わせて、その胸の巨乳も揺れながら俺を迎えてくれた。
「あ、ヴィー、もう来てたのか。会うのは久しぶりだな」
この一週間、会うことはできなかったが、何度も腕輪を使って通話はしていた。まるで、遠距離恋愛の恋人同士のようだ。
「転送してくれてありがとう」
「どういたしまして」
「それで、先に来て何か見つかった?」
「まだ何も。ただ、アマデウスのレーダー解析によると、この部屋に何かあるはずなのよ」
「何かね……」
この部屋は先週、俺とルルで隅々まで探したが、その時は何も見つけられなかった。そもそも、国の研究所が調査済みで、それこそ本棚があるだけで何も残っていなかった。
「何かと言われても、先週探した時には本棚以外何も残ってなかったぜ」
「本棚?」
「これのことだけど……。もしかして、ヴィーの世界には本棚がなかったのか?」
俺は、近くの本棚を片手でたたきながら、驚きの表情をヴィーに向けた。
「名前から察するに、本を入れておく棚のことよね」
「そうだな」
「それで、本てあれよね。紙でできた記録媒体の」
彼女の世界には小説などなかったようであるから、本の用途としては、記録を残すこと、つまり記録媒体だったのだろう。
「その認識で大体合ってるが、そうかヴィーの世界には本が無いのか」
「べ、別に本が無いわけじゃないのよ。ただ、大変貴重な物で、残っている数はすごく少ないわ。だから、一冊ずつ厳重に保管しておく物で、まとめて棚に入れておく物じゃないのよ」
この世界でも本は貴重だ。この村に本があるのは、教会と領主の館くらいなものだろう。
だが、貴重だという、その意味合いは全く逆なのであろう。この世界での本が、発展過渡期なのに対して、彼女の世界では、既に役目を終え、絶滅寸前といったところだ。
「この棚に、いっぱいに本が入っていたのかしら。さぞかし壮観だったでしょうね」
「噂によると、この遺跡から本が大量に発見されたみたいだから、ここにあったのかもな」
「そうなのね。本はすぐ傷むというけど、すごいわね」
あれ? ちょっと待てよ、この遺跡何万年も前のものじゃなかったか? 本って普通そんなに持たないだろ。
「これは、状態保存魔法じゃないか?!」
「どうしたの、急に?」
「あ、ごめん。魔法かもしれないと思ったら、テンションが上がっちゃって」
「え! 魔法かもしれないって、何が?」
「ヴィーが言ったとおり、本は痛みやすいんだ。普通、何万年も持たない。それなのにこの遺跡から本が発見された。ということは、本に状態保存魔法がかけられていた可能性があるということだ」
「それって、一度かければ効果は永遠に続くものなの?」
「どうだろう? 普通はだんだん効果が弱くなりそうだけど」
「実物のサンプルが欲しいところね」
「全部、研究所が持っていちゃってるよ」
「諦めるのはまだ早いわよ。アマデウスのレーダー解析では、ここに何かあると出てるのよ」
「でも、ここには何も残されてなかったぜ」
「何も? そんなことないわよ」
そう言って彼女は、本棚を片手でたたきながら、ニヤリと笑った。
「あ! 本棚が残されている」
「アマデウスのいう何かが、本棚なら、これに何か仕掛けがある可能性があるわ」
「そうか、本に状態保存魔法がかかっていたのではなく、本棚が中の本に状態保存魔法をかける魔道具の可能性があるのか」
「アマデウス、この本棚を転送して、船内で詳しく分析してちょうだい」
『イエス、コマンダー』
本棚が一つ、光に包まれて消えていった。 魔道具であるという分析結果が出ればよいが。
「私たちも、船に戻りましょう」
「あ、うん」
俺はヴィーに、しがみついた。
「アッシュ、別にしがみつかなくても、二人とも転送できるわよ」
「そうなのか」
それは、ちょっと残念だ。
彼女がアマデウスに指示を出し、俺たちは船に転送されたのだった。
それから概ね一時間後、本棚の分析結果が出たようだ。
「分析結果によると、予想どおり、あの本棚は普通の本棚ではありませんでした」
「やった! やはり魔道具」
「残念ながら、魔道具でもありませんでした」
「えー! じゃあ何なのさ」
魔道具ではなかったなんて、糠喜びさせやがって。
「あの本棚には、時間停滞フィールド発生装置が組み込まれていたのよ」
「時間停滞フィールド発生装置?」
「指定した範囲の時間経過を遅らすことができる装置よ」
「それって魔法じゃないのか?」
「違うわよ。グラビトンを加速することにより時間を遅らせるの。純粋な科学現象よ」
「クッ!」
そういえば、前の世界でも浦島効果といったっけ、光速で移動すれば時間の流れが遅くなると言われていたな。それを発生させる装置ということか。
「今回は、魔道具ではなかったけど、遺物を発見できたわ。これもアッシュの協力のおかげよ。ありがとう」
「別に、お礼を言われるほどのことはしてないぞ。というか、ヴィーは、魔道具ではなく、遺物でも嬉しいのか?」
「あー、元々の私の任務は深宇宙の探査だから、未知のものを見つけられれば何でも嬉しいわ。それに、何が元の世界に戻るためのきっかけになるかわからないでしょ」
確かに、彼女は俺のように魔法にこだわる必要はないだろう。遺物であろうと、それ以外であろうと、元の世界に帰れるなら何でもかまわないはずだ。その点、元の世界に帰る気のないというか、帰っても意味のない俺との違いなのだろう。
俺にとっては、やはり魔法だ。異世界なんだからな。魔法がないなんて、そんなはずはない。絶対魔法を見つけて、この異世界生活を謳歌してやる。
俺は決意を新たにするのだった。




