10. 帰路
目の前がチカチカしたと思ったら、俺はアマデウスの転送室から元いた遺跡に転送されていた。
「さて、ルルはどこかな?」
俺はルルの目の前でヴィーと一緒に突然消えてしまったのだ。きっと心配しているだろうが、遺跡の図書室のような部屋にルルの姿は見当たらない。
考えられる可能性は、俺を探して遺跡の中をさまよっているか、助けを呼びに村に戻ったか。さて、どっちだろう?
村に戻ったのならいいが、遺跡の中をさまよっているのなら、彼女を置いていくわけにはいかない。
そうなると、遺跡の中を捜索しなければならないのだが、そんなことをしていれば日が暮れてしまう。何か良い方法はないだろうか……。
そうだ! できるかどうかはわからないが、ものは試しだ。
俺はヴィーにもらった腕輪にタッチした。
「アマデウス!」
『ゴ用件ハ?』
「今、ルルがどこにいるかわかるか?」
『ワカリマセン』
残念! 駄目だった。
マップ魔法のように、人を探知できる能力がアマデウスにあればと思ったが、やはり、そんな魔法のような都合のいい機能はなかったようだ。
『ワカリマセンガ、遺跡内ニハイナイト思ワレマス』
「それは、なぜそういえるんだ?」
『転送用ドローンノ記録カラ推測シマシタ』
「記録?」
『記録デハ、ルルハ、部屋中ヲ探シタ後、部屋ヲ出ル時ニ「助けを呼ばなくちゃ」ト言ッテ、走リ去ッテイマス。ソノタメ、90%ノ確率デ、遺跡内ノ他ノ部屋ヲ探シテイルノデハナク、村ニ戻ッタモノト推測サレマス』
転送用ドローンには、広範囲の探知機能はないが、周りの様子を感知し記録する機能はあるようだ。
確かに、その様子ならルルは村に戻ったのだろう。
「わかった。ありがとうアマデウス」
『ドウイタシマシテ』
さて、そうとわかれば俺も急いで村に戻ろう。俺は遺跡から出て、村への帰り道を全力で走り出した。できれば、ルルが村に戻って、大事になる前にルルに追いつきたい。
だが、ルルも走って村に向かったのなら、追いつくのは難しいかもしれない。
そう思っていたのに、村への帰り道を半ばほど行ったところで、鼻歌を歌いながら、のんびり歩いているルルに追いついた。
「ルル!」
「え! アッシュくん、戻って来ちゃったの?」
「え? 戻って来ちゃった?」
「あ! えーと、戻ってこれたんだ。良かった。心配してたんだよ」
一瞬ルルが、戻ってこない方がよかったという表情をしたような気がしたが、きっと気のせいだろう。
「心配かけてごめん」
「ううん、いいの。それより、あのお姉さん、エルフよね。それに、魔法を使ったわよね。村に戻ったら、エルフや魔法は絵本の中の話じゃなく、本当なんだって自慢できるね」
ああ、ルルはヴィーのことをエルフだと勘違いしているようだ。まあ、俺も最初はそう思ったし、誰でもそう思うだろう。まさか宇宙人だとは誰も思うまい。
そもそも、この世界に宇宙人という概念があるのだろうか? 俺はこの世界に来てから宇宙人という言葉を聞いた記憶がない。
「なあ、ルル。宇宙人って知ってる?」
「ウチュウジン? 何それ? もしかしてエルフの国の名前なの?! アッシュくんはそこに行ってたの?」
やはり、ルルは宇宙人を知らない。
「宇宙人っていうのは、この星以外の人のことなんだ。それで、さっきの彼女は宇宙人だったんだ」
「ふーん。エルフはウチュウっていう所に住んでるんだ。それでウチュウってどんなところだった? やっぱり、綺麗なお花に囲まれていた?」
そのイメージは、きっと絵本の影響だろう。エルフは、登場シーンで少女漫画のように花を背負ってたからな。
「いや、俺が行ったのは宇宙船の中だったから花はなかったな」
「そうなんだ。お船の中だったんだ。この村にはお船なんてないし、それも自慢できるね」
まあ、ルルが子どもだということがあるかもしれないが、転生者である俺とでは説明しても認識にずれが生じてしまうようだ。俺はこれ以上説明するのを諦めた。
「それなんだけど、みんなにはこのことを黙っていようと思うんだ」
宇宙人の説明をみんなにするのはめんどくさいし。
「え? なんで? 意地悪を言ったイザベラちゃんを見返してやれるんだよ」
「まあ、イザベラのことは後で泣かすとして」
「あー、泣かすんだ」
「俺やルルが遺跡でエルフに会って、魔法も見たと言っても、誰も信じてくれないと思うんだ。逆に、嘘つき呼ばわりされて笑われるのが落ちだよ」
「んー。それもそうね。エルフを連れてこられたら別だろうけど、そんなの無理だものね」
「そうか、ヴィーを村に連れてくれば……」
頼めば彼女は村まで来てくれるだろうか? 彼女に村まで来てもらえれば、村の人たちにもエルフや魔法が実在したと信じさせることができるだろう。そうなれば、イザベラはもちろんシスターや父親にも俺が正しかったことを証明できる。
でも、それでいいのだろうか? そもそも彼女はエルフではなく宇宙人だし、使っているのも魔法ではない。それはつまり、みんなを騙すということだ。
それに、エルフが見つかったことが知れ渡ることになれば、彼女が狙われることになりかねない。そんなリスクを彼女に負わせるわけにはいかない。
多分、彼女もそのリスクがわかっているから、人前に姿を見せないのだろうから。村に来てもらおうと考えるだけ無駄か。
「何か言った?」
「いや、ちょっと考え事をしていただけだよ」
「それならいいけど……。それでどうやって戻ってきたの?」
「普通に送り返してもらったけど」
「そうなんだ……。ところで、今までそんなブレスレットもピアスも着けてなかったよね?」
女の子なこともあってか、ルルは、なかなか目敏いな。
「これは彼女にもらったんだ」
「ふーん。もしかして、またエルフと会うつもり?」
「そのつもりだけど……。もしかして、ルルも腕輪と耳管が欲しいのか?」
「別に欲しくはないけど……」
ルルの様子は、遠慮しているようではないが、他に言いたいことがありそうだ。
「会って一緒にウチュウに行くつもり?」
「ああ、ルルも一緒に行きたいのか?」
「あたしは行きたくないけど。アッシュくんは、行くの? 行かないの?」
「行くつもりだけど」
もしかして、ルルは、俺に行ってほしくないのか?
「そうなんだ、行っちゃうんだ。それは、よかったわ」
「よかった?」
「あ! えーと、魔法のあるエルフの国へ行けて、よかったわねと言ったのよ」
「そうなんだ」
一瞬、俺が宇宙に行って居なくなって、よかったと言われたのかと思ったが、ルルがそんなこと言うはずないよな。
「そうなのよ、あははは……」
ルルの空笑いがフェイドアウトすると、森は気まずい沈黙で包まれることとなった。
それっきりルルは黙り込んでしまい、何か考えているようだが、何を考えているかは俺にはわからない。そんなルルが気になるものの、俺は俺で、ヴィーとの遺跡調査計画を頭の中で練るのに忙しかった。
そして、二人は黙って村への帰り道を黙々と歩くのだった。




