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イオリのこれから

「仕事柄、転移者とは何度か会ったことがあるが、確かにそんな大きな紋章は初めて見るな。お前さんのスキルは、何ができるんだ?」

「名前通り、どんなものにも命を吹き込めます。こんな風に」


 俺は立て続けに、ブランドンさんとキャロルの前でスキルを使ってゆく。

 テーブルに置かれた薬入りの瓶を、液体が入ったままカエルにする。

 枕を膝の上に持っていき、ふわふわのリクガメに変えると、驚きの声が上がった。


「まさか、SSランク……噂にゃ聞いてたが、生きてるうちに拝めるとはな」

「すごい……」


 たちまち爬虫類(はちゅうるい)と両生類のコンビが部屋に生み出されるさまを見て、グラント親子は動揺すらしているみたいだった。

 特にキャロルは、カエルが苦手らしい。

 ……言っちゃ悪いけど、この反応は見てて楽しいかも。

 そのうちカエルが俺のもとに跳ねてくると、ブランドンさんが腕を組んで頷いた。


「だがまあ、これで納得できたぜ」

「何がですか?」

「お前さんを川辺で拾った時、デカい傷があったんだが、見たことのない動物が押さえてたんだよ。それがなけりゃ、きっと血を流しすぎてくたばってただろうさ」


 見たことのない動物――多分、岩や流木が【生命付与】で形を変えたものだろうな。

 どうやら俺は、無意識でスキルを使ってたみたいだ。


「しっかしまあ、お前さんと一緒に来た転移者は、つくづく見る目がねえな。それに、そんな強いスキルがあるなら、連中をぶっ飛ばしちまえばいいんじゃねえか?」


 ブランドンさんの言葉にも、一理ある。

 でも、それは俺自身がわざわざ出向くほどの優先事項じゃないからな。


「このスキルは、俺が自由に生きるためのスキルなんです。自分からわざわざ、あいつらのところに行ってどうこうする気もない……けど」


 まず俺がやるべきことは、川底の男と約束したように、異世界を楽しむこと。

 そしてその先に、あいつらとの衝突があるのなら――。


「戦う必要があるのなら、俺は容赦しません」


 ――俺は【生命付与】スキルの凶悪な面を、出し惜しみしない。

 お前達が殺し損ねた人間が、どれほど強くなったのかを教えてやるさ。


「わっはっは、気に入ったぜ!」


 リクガメの甲羅を撫でる手の力が強まった時、ブランドンさんが俺の背を叩いた。

 本人はじゃれてるつもりなんだろうけど、ゴリラ並に腕力が強いぞ、この人。


「いい目をしてやがる! なよなよしてるばっかりじゃねえ、いざって時に腹をくくれる根性を持ってるやつが、俺っちは大好きなんだ!」

「そ、そりゃどうも……」


 頬を掻きながら礼を言うと、ブランドンさんは立ち上がり、胸をドンと叩く。

 やっぱり牛というより、ゴリラなんじゃないか、この人は。


「なあ、イオリ。行く当てがないなら、しばらくここにいるってのはどうだ?」


 ――ゴリラとか言ってごめんなさい。

 ――この人は聖人です。


「……いいんですか?」


 予想外の提案に喜びを隠しきれない俺に、ブランドンさんが白い歯を見せて笑った。


「もちろん、ただじゃねえぜ。俺っちはここで『双角屋(そうかくや)』ってアイテムショップを開いてるんだ。その手伝いさえしてくれりゃあ、飯も寝床も用意してやる」


 異世界でどうやって暮らしていけばいいのか、誰をあてにすればいいのか。

 これから俺の中で沸き上がってくるはずの不安を、この人は全部解消してくれるんだ。

 断るわけがない――仕事がどれだけきつくても、断るわけがない!


「ぜひ! ぜひ、やらせてください!」

「おいおい、俺っちが言っといてなんだが、簡単に引き受けていいのか? アイテムショップの素材集めも店の片付けも、きつーい仕事だぜぇ~?」

「任せてください、何だってやってみせます!」

「よーし、ますます気に入った! お前をここで雇ってやるぜ、イオリ!」


 俺もブランドンさんも熱がこもってきたのが、互いの視線でよく分かる。

 何というか、もしかすると俺達って気が合うのかも?

 キャロルが彼の後ろで、少しだけはにかんでるのもとっても嬉しく思えるな。


「とりあえず、傷をしっかり治さねえとな! こいつを塗って、さっさとふさぐぜ!」


 ゲコゲコと鳴く瓶のカエルの隣にある()れ物を、ブランドンさんが開く。

 中に入ってるのは、ちょっぴり臭う、黄土色の軟膏だ。


「な、軟膏でどうにかなるんですか?」

「チッチッチ、この軟膏はカンタヴェールいちの薬師(やくし)が調合したとっておきだ! ちゃんと塗り続けりゃあ、それくらいの傷は明後日には塞がるだろうよ!」


 なるほど、ファンタジー世界の軟膏なら、信用できそうだ。

 何が調合されているのかと興味が湧いているうち、ブランドンさんは膝を叩いて立ち上がった。


「そこのポーションは、今日のうちに飲み干しとけ! 再生力を高めてくれるからな!」

「何から何まで、助かります」

「いいってことよ! そんじゃあ、俺っちとキャロルは1階のアイテムショップにいるから、何かあったら呼んでくれ! 行くぞ、キャロル!」


 またも大声で笑いながら、ブランドンさんが部屋を出ていく。


「うん……い、イオリさん、お大事に……」


 キャロルも慣れない様子の笑顔を見せて、父親について部屋を後にした。

 残されたのは俺と瓶のカエル、枕のリクガメだ。

 ひとりになってやっと、俺の中に、異世界にいる実感が膨れ上がってきた。


(……いい人に拾ってもらえて、よかったなあ)


 仮にどこぞの蛮族に拾われていたら、気絶しているうちに丸焼きにされていたかも。

 ファンタジーならではのエルフがいるとしても、ドワーフがいるとしても、人間の話なんて聞いてくれなかったかも。

 そう考えると、話が通じて情に厚い、グラント親子に拾われた俺のなんと幸運なことか!

 こっちは命を救われたんだ――お礼は倍返し、じゃないとな!


「恩返しもしたいし、傷を早く治さないと……ポーションも、飲んでおかなきゃ!」


 ひとりごちた俺は、カエルを掴んで、中のポーションをごくりと飲んだ。


「……にっがぁ……」


 ――ヨモギとパクチーを混ぜたみたいな味だった。

【読者の皆様へ】


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次回もお楽しみに!

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