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Aランクスキル【魔物使役】

 突然の魔物の襲来に、カンタヴェールはたちまちパニックに(おちい)った。


「う、うわああっ!?」

「なんだよこれ、魔物か!?」

「皆、建物の陰に隠れてくれ!」


 俺が叫ぶと、皆が双角屋や他の店、家、建物の後ろに避難する。

 そうして町側で残ったのは、俺とグラント親子、カノンだけだ。

 一方で、坂崎やあいつの子分は逃げ惑う人の姿を見るのが楽しいのか、皆のさまをバカにするようにゲラゲラと笑った。


「俺のスキルは、触れた魔物を3匹まで支配する【魔物使役】! どんなバケモンも、俺が撫でるだけで使い勝手のいい道具に早変わりだ!」


 なるほど、魔物をノーリスクで操るのが坂崎のスキルってわけか。

 元になる魔物がいないと無力だが、そこらへんはきっと、マッコイの伝手に集めさせたんだろうな。


「爪とふたつのくちばしで獲物を引きちぎるダブルヘッドホーク! 花びらから破壊光線を撃つビームリリィ! そして体中から毒を噴き出すポイズンコンダ! 1匹でちっせえ村をぶっ壊すぐらい強え魔物が、3匹だ!」


 坂崎の後ろで唸り声を上げる魔物は、確かに見るだけで危険極まりないのが分かる。


「しかもこっちには、スキル持ちの仲間が8人はいるぜ! 人間をパンチ一発でぶち壊す【拳撃(けんげき)】に地面を操る【土魔法】、【風魔法】に【防御魔法】、紹介してやれねえくらいの転移者が俺の味方だァ!」


 おまけに坂崎の後ろでにやにやしている連中も、全員スキルを持ってる。

 Sランクはいないけど、全員が確実にBランク以上で、Aランクもいるはずだ。


「も、もちろん、わしの護衛にも戦わせますよ!」


 ついでにマッコイの護衛もやる気満々だが、こいつらは無視していいや。

 とにかく、これだけの数の仲間を率いるんだから、そりゃ坂崎も調子に乗るよな。


「どうだ、ビビッて声も出ねえか、あァ?」

「…………」

「おいおいおいおい、どうした~? Eランクの雑魚スキル野郎が、ションベン漏らしてんじゃねえだろうな~?」


 無言で睨むだけの俺の頬を、坂崎がぺちぺちと叩く。

 この程度の煽りは何とも思わないが、両隣の角と炎がピコン、と動いた。


「イオリ君、焼くよ」

「お兄さん、殴り潰します」

「落ち着け。ここでやり合うのは得策じゃない」


 俺の代わりにカノンとキャロルがキレそうだけど、こんなやつのために、ふたりがキレて、カンタヴェールを戦場にしてやる理由はない。

 そもそも、俺のスキルなら確実に坂崎と魔物を含めた全員を倒せる。

 けど、後ろの皆を守りながら戦えるかは怪しい。

 カンタヴェールの皆を誰ひとり傷つけずに戦うとなると、かなりきついな。

 そんな事情もあって攻勢には出ない俺の態度を、完全に日和(ひよ)ったとでも勘違いしたのか、坂崎は一層調子に乗りやがる。


「まあ、魔物を怖がるのも無理もねえよな! 俺だって大変だったんだぜ、こいつらを操るまで、色んな魔物を捕まえては捨てたんだからよ!」


 しかも、聞き捨てならない発言までかましやがった。

 こいつは従えた魔物を、どこに放棄(ほうき)したんだ。


「捨てた、だと?」

「オークだのブラックレオンだの、見た目は強そうだがちっとも使えねえから、川の手前でスキルを解除して何匹も放ってやった! 使い潰さないだけ、優しいだろォ?」


 そこまで聞けば、俺も町の皆も、カンタヴェールを悩ませる問題の原因を悟った。


「まさか、ブリーウッズの森で暴れてたのは!」

「こいつらが逃がした魔物が、長い時間をかけて、川伝いに森まで来たんだろうな。そのせいで、俺っちは危うく娘を失いかけたわけだ」


 気づけば、ブランドンさんが拳を握り締めてた。

 理由なんて聞くまでもない――坂崎が逃がした魔物が、キャロルを襲った魔物だからだ。

 どうして広い川の向こうにいて、水が苦手なオークがブリーウッズの森にいたのか。

 俺とキャロルが倒したブラックレオンを含め、人間に危害を及ぼす危険なモンスターが、森に何度も出現したのか。


 答えはひとつ。

 ここにいる坂崎コウスケが、好き放題に魔物を野に放ったからだ。


 カンタヴェールの人が傷つき、キャロルが死んだかもしれない原因は、眼前でへらへらと笑っている腐れ外道が作り上げたんだ。

 しかもこいつの言い分からして、他にも魔物を捨てたに違いない。

 どう考えても、俺達が討伐しきれていない魔物も、きっとまだ周辺にいるはずだ。

 坂崎のやったことは、もう公害のまき散らしと大差ない。


「止めんなよ、イオリ。角のてっぺんまで、ブチギレちまったぜ」

「ブランドンさん……!」


 角の先から湯気が出るほど怒りに満ちたブランドンさんの目は、猛牛のそれだ。

 ソフトモヒカンの髪も、いまや激情のせいで炎の如く揺らめいている。

 俺ですらぞっとするほどの憤怒(ふんぬ)を迸らせる剛毅(ごうき)な男を見ても、坂崎達がちっとも怯えないのは、全能感に浸ってるからか。

 あるいは、恐怖なんて感じないほどマヌケだからか。


「ぎゃははは! 安心しろよな、俺にも情けってもんがあるんだよ!」


 (つば)をまき散らして笑う坂崎が中指を立てる。


「町の北にあるゴーマの洞窟ってところに、真夜中、町の代表が天羽と銀城を連れて来い。そしたら、町を潰すのは特別にやめといてやる」


 ゴーマの洞窟なら、俺も知ってる。

 実際に行ったことはないけど、少量ながら鉱物が取れるらしい。

 山の(ふもと)の少し奥まったところにあるから、確かに怪しい取引をするにはうってつけだ。


「タイムリミットは日が昇るまでだ。それまでに誰も来なかったら町を焼け野原にしてやる。ジジイもババアも妊婦もガキも関係ねえ、皆殺しにするからな」

「日の出まで待たなくていいぜ、俺っちがここで首の骨を折ってやるよ!」


 筋肉と額に血管を浮かべたブランドンさんを、俺が引き留める。


「落ち着いてください、ブランドンさん! 皆が怪我したらどうするんですか!」

「ぐっ……!」


 ブランドンさんが歯ぎしりするのを、坂崎達が見下すように嘲笑う。

 お前ら、俺が止めてないと全員ブチ殺されるのを理解した方がいいぞ。


「じゃあな、田舎者と雑魚共! また夜に会おうぜ!」


 自分達が()()()()とも知らずに、魔物を連れて、坂崎達は大笑いしながら去っていった。

 後に残ったのはえぐれた地面と、静かな町。


 ――そして、敵意が爆発寸前の俺達、カンタヴェールの住民だ。

【読者の皆様へ】


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― 新着の感想 ―
[一言] 洞窟の中に入ったら一網打尽だよなぁ…。 森に逃げても、生命付与なら強い奴だって作れるし、そもそも、ゴーレムで二人の姿を真似出来れば、圧倒的になるだろうし…。 ただのAランクと、鍛えに鍛え…
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