表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/41

安心できる場所

「銀城……大丈夫、大丈夫だ……」


 話を続けた自分を責めながら、俺は銀城さんの背をさすった。

 だけどそれ以上に湧きあがってくるのは、小御門や坂崎達への怒りだ。

 いくらAランクスキルの持ち主とはいえ、相手は女の子だってのに、スキルを封じたうえで心に傷を負うくらいの仕打ちをするなんて。

 それにマッコイも許せねえ――次に会ったら、狼の餌にしてやる。


「ごめんな、変なこと聞きすぎた。この話は、もうやめにした方がいいな」


 正直、もう話を続けるつもりはなかったけど、銀城さんが拒んだ。


「……イオリ君、手……握って……ぎゅって……そしたら、大丈夫だから……」


 どうしたものかとわずかに迷ったけど、まだ傷の残る手を、俺は静かに握る。

 そうしたら、次第に銀城さんの震えが収まってきた。


「聞いた俺が悪いんだ。本当に無理しなくていいんだぞ、銀城」

「ううん……話さないといけないことが、あるの……」


 ブランドンさんもキャロルも不安げに見つめる中で、病室に銀城さんの声が響く。


「リョウマ君……()()()が、カノンを引き渡す前に、言ってたよ……イオリ君を殺したのは、自分達だって……」


 銀城さんにあいつが暴露(ばくろ)したのは、もう彼女を世の表側に出すつもりがないからだ。


「それに、坂崎が……悪い人を、いっぱい知ってるって……カノンを売ろうとした人も、坂崎とか、その友達が知り合ったって言ってた……」


 坂崎()、と呼ばないあたり、よほど下衆(げす)な真似をしたんだろうな。

 小御門自身が手を汚さない分、あいつはためらいなく自分の手を汚して悪逆(あくぎゃく)な手段を取る――あいつにとって、暴力や支配は趣味の一環だからだ。


「坂崎コウスケか。確かにあいつなら、あくどいことに手を染めそうだな」

「イオリの友達、ってわけじゃなさそうだな」

「いつも子分を従えて、弱いやつしか獲物にしない上に、徹底的に痛めつける。小御門の目的に暴力が必要なら、あいつ以上にうってつけの男はいないですよ」


 学校でも異世界でも、坂崎と子分のやることは変わらない。

 犯罪にさえならなきゃ、殺人でも婦女暴行でも放火でも何でもやる。


「小御門がやらなきゃ、きっとあのまま、坂崎が俺を殺してた」


 静かに俺が言うと、隣にいるキャロルの瞳孔が開いていた。


「お兄さんに、乱暴を……」

「どうどう。鼻息が荒くなってるぜ、キャロル」


 ふう、ふう、と白い息を漏らすさまは、まるで闘牛みたいだ。

 キャロルの変貌ぶりも驚きだが、ひとまず考えるべきは坂崎とマッコイについてだ。


「マッコイをカンタヴェールから追い出した時、転移者の知り合いがいるって言ってた。きっと、坂崎のことだ。小御門や近江が動かないとしても、話を聞いた坂崎だけは報復に来るかもしれない」


 恐らくマッコイが坂崎に事情を話せば、あいつがここに来る。

 スキルの力を存分に活かして、皆に危害を加えるはずだ。


「その時は、俺が……」


 そうならないように、俺は身を挺してひとりでカンタヴェールを守るつもりだった。


「――さっきも言ったろ。お前さんと、カンタヴェールの町が迎え撃つぜ」


 俺が話し終えるより先に、ブランドンさんが肩を叩いた。

 指や腕の太さから確かな力を感じるけど、相手はスキルを持っているだけじゃない、人を殺すのに何のためらいもない()()()なんだ。


「……でも、相手はスキルを……」


 首を横に振る俺に、ブランドンさんは笑いかける。


「関係ねえさ! お前さんに好きなように暴れろって言ったのは、俺っちだしな!」

「お兄さんは、私の命を守ってくれました。今度は私達が、お兄さんの大事なものと、あなたを守る番です」

「薬屋も武具屋の連中も、がきんちょもじいさんばあさんも、同じ気持ちだ。嬢ちゃんをここに運び込む前に聞いたから、間違いねえぜ!」


 ここまで言ってくれる人達を信頼しないのは、かえって失礼だ。

 ブランドンさんもキャロルも、カンタヴェールの皆も、味方でいてくれるんだから!


「……こんなに頼もしい味方がいれば、百人力ですよ!」


 俺はブランドンさんの手のひらを、力強く叩いた。

 手首が折れるかと思ったが、このパワーが味方なら、怖いものなしだな。


「よぉーし、こっからは通常営業だ! 俺っちは頼まれてたアイテムの合成をするから、キャロルは店番をよろしくな!」

「うん、分かった。お父さん、合成するアイテムはちゃんと量を測ってね」


 ひとまず今後の方針が固まったところで、ふたりは病室を出てゆく。


「それじゃあ俺も、店の手伝いを……」


 俺もグラント親子について行こうと立ち上がると、不意に手の先に重みを感じた。


「……お願い、イオリ君。ここにいて」


 見ると、銀城さんがぎゅっと、さっきより強く俺の手を握っていた。

 まるで離れると、死んでしまいかねないと言うかのように。


「銀城さん……」

「……カノン、って呼んで」


 震える声と、(うる)んだ瞳が、俺をもう一度椅子に戻す。


「今のカノンの、安心できる場所は……イオリ君のそばだけ……だから……」


 俺の手の甲に、カノンの爪が食い込む。

 痛みはない代わりに、彼女の苦しみが伝わってくる。


「眠れるまで……一緒にいて……!」


 必死に声を絞り出したカノンを、ひとりにはできなかった。


「カノンが眠くなるまで、ここにいるから。安心してくれ」


 俺が彼女の手を握り返すと、静かにすすり泣く声が、カノンから漏れた。




 ただ、俺はこの時、気づいてもいなかった。

 ――銀城カノンという人間が、とんでもない依存体質だということを。

【読者の皆様へ】


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


「面白い!」「続きが読みたい!」と思ったら……↓


広告下にある評価欄の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に押していただけると嬉しいです!

ブックマークもぽちっとしてもらえたらもう、最高にありがたいです!


次回もお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ