最終試験Ⅲ(前)
人が死んだ。15年の年月を過ごしてきた仲間が2人、死んだのだ
それも呆気なく惨い死に方で…頭の中にあった、誰も死ぬ事無く全員で生き残る。などと言う甘い考えを嘲笑うかのように目の前にある現実がそれを否定する
「ゲホッ…うっ」
目の前の惨状にセルシオが嘔吐する。他の者も吐いたり錯乱したりとかなり疲弊している。僕自身も目眩と吐き気が収まらない、、
まだ始まったばかりの試験だが既に精神をズタズタに蝕んでいっている。予想外の出来事、そして死への耐性のない僕らにあまりにも過酷な試験だ
「セルシオ!ルージも、落ち着いて!目を閉じて深呼吸をしよう」
ルージの方も吐くほどではないにしても明らかに普段の調子では無い
ここで現実から目を背けても仕方ないのでまずはセルシオ達を落ち着かせる。
「すぅーっはぁー」
「あっ、ありがとうソラ…っ」
「ソラは大丈夫なのか?」
冷静さを取り戻したルージが心配する。未だ動悸が収まらないがそうも言ってられないので平気を装う
「大丈夫だよ…なんとかね」
僕ら三人は何とか落ち着くことが出来たが周りは未だ錯乱状態が続いてるようだ。ミノタウロス達は未だ部屋から出てこない…どころかこちらに興味すら示してないようだ。どうやら攻撃に対してのみ反応を起こすものらしい
「クロウデェンさん、見たところ与えられた弓が効いていないようなのですが、本当に試験として成立してるのですか?中断を要請します」
「イヤーナさん、試験の中断は認められません。弓が効いてない訳ではないです、現に彼の腹部の弓は消えず負傷しているのですから」
確かにミノタウロスの腹部は今も血が流れている。だけどその表情は無表情そのもの…まるで効いているようには見えない
「それに試験の突破方法は1つではありません。30人になるまで殺し合えばクリアですから、そこで泣いているルイさんを殺せば1グループ脱落です。ポイントも貰えますので一石二鳥という事になります」
可憐で整った容姿からは想像出来ない程、残酷な言葉が彼女の口から発せられる最初からミノタウロスなんて狩らせる気は無く殺し合いを望んでいるような口ぶりだ。
「とんだ悪魔ね…いや汚物かしら」
セルシオがゴミを見るような目でクロウデェンを睨みつける。
僕が彼女の吐く毒を止めることは無い。実際にクロウデェンの考えに賛同できる要素は万に1つも無い、僕は生まれて初めて人に対して負の感情を向ける
全方面から向けられる悪意に対して悪びれる様子もない彼女を僕はまともに直視することが出来ない。まるでただの業務の一環の様な平然な顔をしている…感情がない、隣のAIの方がよっぽどマシだ
「聞いた私が馬鹿でした。とだけ言っておきます…貴女、、いえ貴様は、私を怒らせた。今ここで殺されても文句は言うんじゃあねえぞ」
「ふふっ。仲間思いな人は好きよ。ただ私を殺してこの場の全員が死ぬとしたらどうします?口の利き方は考えた方がいいかも知れませんね」
今までに見たことない勢いで怒りを表すイヤーナ君を簡単にあしらってみせた
「くっ、失礼しました」
数では圧倒的に僕達の方が多い。それなのに有無を言わせる説得力がそこにはあった
「おりゃあああ」
男が叫びを上げ短剣を振り上げた。その矛先には先程仲間を失い憔悴しきったルイの姿が
「危ない!!!」
僕は振り上げられた短剣を手で受け止める。咄嗟手で庇おうとしたが疲労感からか、腹部を短剣が抉る
「うっ…」
腹部に強烈な痛みが走る。
「ソ、ソラ!!血が…」
「セルシオ…落ち着いて、止血…頼めるかな?」
「な、なんで…俺はそんなつもりじゃ」
「お前ぇえええ!」
ルージが怒りのままに殴りかかろうとするので僕はそれを止める
「辞めて!ルージ僕は大丈夫だから…今は仲間割れを起こしてる場合じゃない。それに君も冷静になるんだ!」
セルシオが僕の腹部に自身の袖を破いて止血処置を施してくれる。刺さったナイフは出血が酷くなるため引き抜くことなくそのままにする
出来るだけ早く、判断力が鈍る前にカタをつけたい
「みんな、落ち着いて聞いてくれ!殺しあってはダメだ…幸いにもアルマー達を殺ったのミノタウロスは、武器を持っていない。こちらに来れるかは分からないがまだやりようはいくらでもあるはずだ!みんなで考えよう」
刺されたことで注目が集まり結果的に僕の指示は広く聞こえる形になった。
短期決戦と痛みが辛いところだがここはどうにか根性で耐えよう…
視界の済みに入ったクロウデェンの薄気味悪い笑みが不愉快で痛みさえも吹き飛びそうだ
「そうだ!ソラの言う通りまだ諦めちゃいけねぇ」
「同感ですね…あの女の手のひらの上で踊るなんて事だけは避けたいものです」
「うちのソラは強いんだから!!」
「すまねぇ…ソラ。俺気が動転して…それでルイを本当にごめん」
男が彼女に謝る
「うん。別にいいの…殺されても構わなかった」
まだ落ち込んでいるようだ…彼女を立ち直らせる事は難しい。ただ被害を最小限に抑えられたことをとりあえず良しとしよう
「まずアイツらがこちらに来れるか鏡を手前に置いて確かめよう。鏡なら最悪取られても構わないだろう」
「俺行ってくるよ。」
「良いのかい?えっと…」
「ライだ。錯乱したとは言え負傷させてしまった罪は償わて欲しい。いいかな?みんな…」
「ありがとう!ライ」
「うん、ライが良いのなら…それにあんたがここで行かなかいような奴ならチームを組んでいないわ」
ライは、手持ちのポイントで鏡を購入しミノタウロスのもとに行く。僅かの距離に鏡を置き戻ってくる。結論から言えばミノタウロスは、鏡を拾うことは無かった。と言うより鏡に目線を1度向けたきり興味を示さなかったのだ
「ソラ…これって、、どうなの??」
「完全にわかった訳では無い…けど出て来れないと考えても良いと思う」
「本当!!」
前向きな一歩にセルシオは、安堵の表情を浮かべた
「ソラさん、それに皆さんに提案なのですがこの反射銃と言うのを買って試してみるというのはどうでしょうか?」
提案とは言うがイヤーナ君はもう既に銃を手に持っていた。彼のグループの合計ptは60、グループ1つで完結できる数少ないグループだ。
塔に1発の銃声が響き渡る。銃弾は綺麗にミノタウロスの横をすり抜ける…と云うより「避けたッ!?」しかし銃弾は角度を変えミノタウロスの脳天を貫いた
「おめでとうございます、イヤーナチーム試験クリアです。残りチームの皆さんも検討をお祈りします」
呆気のないものだった。弓や剣といったものは飾りでこの銃のみが奴らを打ち抜けるたった一つの武器だったなんて…
「こんなあっさりと終わるとは…」
「私語は慎んでくださいね。こちらに出口がありますので通って奥の広場でお待ちください」
希望が見えた。僕達の中で歓声が巻き起こる…続けと言わんばかりに銃を買った別の組が次々と引き金を引いた。ミノタウロスは、棍棒を振り回し銃弾を跳ね返す。動体視力が良い何てもので片付けられないが反射弾は威力を落とす事無くこちらに帰ってきたのだった、銃を放った者の胴体に風穴が開く。ミノタウロスは銃弾に対して空気抵抗を与えることなく正確に弾いて見せたのだった
「なっ、、、」
「リ、リベル!!!!!」
またしても人が死んだ。起死回生の一手は呆気なく彼らの攻撃で消え失せたのだ…二つの銃弾を除いては、どうやら強化剤を染み込ませた銃弾は棍棒そのものをも貫通する威力のようだ。しかしながら未だ倒せているのは1グループのみ、、
なんと恐ろしい相手なのだろうか
「こんなの…無理だろ!!どうしろってんだよ…」
弱音を吐くのも無理はない。。考えろ、、奴らの行動の隙を作る方法を
分割です。