勇気ある行動
何が違うってまずはこの人口量。
そりゃ国と集落を比べたら当たり前の話ではあるが、アイラはもちろん、現実世界から来た私たちですらあの集落で慣らされた身からすればこの圧倒的な人混みは一瞬の驚きを隠せない。アイラは一瞬どころかずっと驚いているかもだけど。
「さ、まずはどこから行きましょうか…、って聞くまでも無かったですね」
アイラ以外は一瞬でその驚きは身を潜め、驚きはワクワクへと変換されていた。
特にアヤは期待を裏切らないリアクションをしている。
目をキラキラさせながら口角は上げながら。
いつもより目の周りが白く見えるような。
いや、あれほんとに目輝いてるんじゃないか。
本当にこの人は面白いというか可愛いというかなんというか。
あ。
ナンダコイツ、可愛いな。チクショウ
よし。久々にノルマクリア。
「まずはあれよ!」
やや前を歩くアヤがそう言って指差す方には団子のようなものを売っている売店があった。
それも串に3〜4つの団子を刺した、THE団子。
みたらしや三色団子、それに……なんだ、あれは…真っ黒い団子…?いや、なんかドロドロしてるぞ。あれは食えるのか…?
「あんなにオシャレなものが売っているのね!さっきここを通った時に絶対にあれは食べてみたいと思ってたの!」
THEお嬢様のアヤにとっては団子、それも串に刺さっているタイプのものなど存じ上げもしないだろう。
トップクラスの和菓子屋とかでなら見たことくらいはあるかもしれないけど、それでも串に刺さったままかぶりつくようなストロングスタイルの食べ方をアヤがするというのも到底考えが及ぶわけもなく。
「ヒイラギさん。あれはどうやったら頂戴できるのかしら?それにアイラさんも気になるでしょう?せっかくここまで遠出してきたのだから、初めて出来ることや向こうでは見たことのないものには積極的に挑戦していくべきよ!」
ここまで控えめだったアイラもアヤに積極的に挑戦していくように促され、やや前を歩くアヤに近づいていき、
「そ、そうだねぇ。せっかくの機会だから色々体験してみようかねぇ」
と言った。
なんだかんだこの2人って相性良い気がするんだよね。性格とかはまあ違うんだけど、なんかこう親子みたいな。アイラのお母さん気質が強すぎるってのもあるとは思うけど。
「それにしてもこの黒いものも食べれるのかい?なんだかドロドロしているけど…」
と、興味半分困惑半分の表情を見せる。
いや、その考えは正しい!正しいよ!アイラ!私だってそう思ったもん!
現実の世界ですごく似ている、いやもうそれそのものなんじゃないかってものを見たことがある私ですら、え…?あれ食えるの……?って思ったくらいだもの!むしろよく初見でそこまで察せられたと思うよ!
「とはいえ食べないで悪くいうのも失礼だからねぇ。ここはアヤの言う通り挑戦してみるよ」
「そうよ!するかしないか迷ったらするべきよ!そうしないと後で後悔するわ。私はそういう生き方はしない主義なの」
2人は妙なところで意気投合してその団子を売っている店へと近づいていく。
勿論、それに気づいたヒイラギもついて行く。
いかんせんヒイラギがついてないと事が進まないのだから。
アヤとアイラの後ろから団子が見える位置に動いた時に一瞬体が止まって一瞬顔が引き攣ったように見えたけど、まあそんなことはないよね。うん、まさかね。
「それじゃあこのみたらしを5人分と黒いドロドロしたやつを2本下さい」
「おっ!コイツに目をつけるとは、アンタもそれなりに場数を踏んできたってとこだな」
袖を引きちぎったであろう元半袖を着た、団子を売っているムキムキムキマッチョの男性はそう言った。
「コイツは俺の力作なんだ。食い物である以上は、どうしても食べてもらわないと本当の評価は分からねぇ。なのに誰もこいつを食べてくれねぇ……。食べてくれねぇとこいつのポテンシャルは誰にも理解されないままだ……」
膝から崩れ落ちて目に見えて落胆しているのが分かる店主。
そしてその店主の両手を目から涙を流しながらぎゅっと握るアヤ。
その後ろでただ涙を、それも号泣してただ立つアイラ。
その3人を真顔で見つめるこれまた3人。
「店主さん!そこで諦めたらダメ!頑張っていたらきっと食べてくれる人は来るわ!現に私は食べてみたいと思ったからここに来たのよ。店主さんがこの団子を食べて欲しいという気持ちを失っていたら誰にも食べられなかったけど、実際に私が来たことで店主さんの願いは叶ったわけよ!」
「じょ、嬢ちゃん…」
ちょっと古めの昭和風ドラマがなんか始まった。
「す、すまねぇ…。まさか嬢ちゃんにここまで心動かされるとは思ってなかったぜ。ここは一つ金は取らねえからこの団子を食べてくれ!金はいらねぇ代わりに忌憚のない意見を俺の教えてくれ!それでこそここまで俺がこの団子にこだわってきた意味があるってもんだ!」
そこでアヤが店の机をバン!と叩く!
「店主さん!それはダメよ!どんな気持ちで言ったかは分からないけれど、強い想いを持って作ったものを無料で渡すなんて相手にもそしてあなたにも失礼な行為だわ!ここはちゃんと商品として買わしてもらうわ!」
ここで店主に稲妻走る!
「た、確かに嬢ちゃんの言う通りだ…。そしたら俺の最高傑作を是非買って食ってみてくれ!」
アヤと店主の周りの空気が気持ち高い気もするし、2人は2人で手を組んでるし。
2人が手を離すとアヤはヒイラギの元へ向かい、
「という訳で、突然で申し訳ないのだけれど5人分の代金を支払ってもらって良いかしら?」
と頼み込む。
「えっ!5人分って僕たちの分もって事ですか!?」
「ええ、そうよ。店主さんの最高傑作を私とアイラさんだけで食べるなんて勿体無いじゃない」
「「えっ」」
ヒイラギに続いて私とユイもヒイラギと全く同じ反応を示す。
マズいぞ、この流れ。ここで断るわけにもいかない、そんな雰囲気が流れているが。
「それじゃあ店主さん。この団子を5人分お願いするわ」
「おう!ありがとな!」
店主は嬉しそうに団子を5人分取るとアヤに手渡し、ヒイラギは腹を括ったような顔をして店主に代金を支払う。
その後ろには緊張した面持ちのアイラとさらにその後ろに別の意味で緊張する私とユイ。
「はい。アヤとユイも!」
「う、うん。ありがとう」
「じゃあみんなで一緒に食べようか」
アイラにそう言われてはもう逃げられない。
私たちは一部を除いて腹を括り団子を口に入れる。
忍耐力が3上がった。




