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俺の隣の美久先生  作者: ぜよ
9/11

引っ越しの理由

 私、水野美久は、高校1年の夏に父親の転勤で岩手の小さな町に引っ越してきた。

 そこは、空気がおいしくて、街を少し出ると、田んぼが一面に広がっていた。不安はあったけど、この街を好きになるのに時間はかからなかった。

 高校では、友達ができるか心配だった。どちらかというと内気な方だったから。でも、クラスのみんなは、気兼ねなく話しかけてくれた。すごくホッとした。

 しかし、それも長くは続かなかった。


 一か月後、クラスの男子と話している姿によく思わない女子が少しずつ増えていった。

 最初は、無視から始まった。話しかけようとすると避けるようにその場を立ち去る。そんな日々が続いたが、あまり気にはしなかった。いつか納まるはず。


 そんなある日、学校の帰りに小学生の男の子がうずくまっていた。膝にけがをしていたので伴奏呼応を張ってあげた。

 そして、彼は満面の笑みで、


「お姉ちゃん、ありがとう」


 その言葉を聞いたとき、心のモヤモヤが吹き飛んでしまった。

 彼の名前は、安田春人くん、私は、春くんと呼ぶことにした。

 その後も、学校の帰りや休日に遊ぶようになった。こんな日がずっと続けばいいのに…


 いじめは日に日にエスカレートしていった。上履きや教科書がごみ箱の中に捨てられていたり、先生に気づかれないようなギリギリのことをしてくる。仲が良かった友達も私を避けるようになった。先生に相談しても、軽くあしらわれるだけだった。誰にも相談できない。


「私は、どうすれば良かったの…」


 そして、私は、孤立してしまった。


 学校に行くたび、泣きたくて、苦しくて、もう行きたくなくなった。


 でも、春くんの笑顔を見るたび、私は救われた。


 しかし、もう限界だった。


 私は、両親にいじめのことを勇気を振り絞って相談した。

 両親は、驚いていたけど、私のために学校に掛け合ったりしてくれた。

 しかし、学校側の返答は、良いものではなかった。


 このままではいけないと思った父は、仕事があるため、ここから離れることはできない。家族で話し合った結果、私は、母と東京に戻ることになった。


 引っ越すことは、春くんにも伝えた。春くんは、少し寂しそうな顔をしていた。


 引っ越し当日、私は、春くんと約束した。


「またいつか会おうね」


 見送りには、春くんも来てくれた。

 車が発進すると、春くんが車が見えなくなるまで、手を振ってくれていた。私は、悲しみのあまり、春くんを見ることができなかった。今まで我慢してき涙が溢れてきた。


 私は、その後、東京の高校に転入した。いじめのこともあり、不安しかなかったけど、クラスのみんなは、優しくていじめは起きなかった。高校も無事、卒業できた。


 将来は、私のような生徒も導けるような先生になる決意を固めた。


 そして、高校教師になった。


 この春、あのアパートに引っ越してきた。そして、君に会った。初めて見た時、小さい頃のあの子の面影を感じてしまって、居ても立ってもいられず、君にお節介を焼いてしまった。



 私は、話を終えると、春くんはびっくりした表情を浮かべていた。


「いつか必ず、春くんに会って、感謝を伝えたいと思ってた。ありがとう、春くん」


「俺なんて、何にもしてないですよ。それより、いじめに気付けなかった事が悔しいです」


「しょうがないよ。まだ、子供だったんだから」


 そして、春くんは、まじめな表情で私を見つめている。


「先生と生徒が付き合うことは難しいと思います。もし、ばれるようなことがあったら、先生の教師人生も終わってしまうかもしれない。でも、尚更、先生を諦めたくありません。自分勝手なわがままなのは分かってます。でも、俺は、美久先生が好きです。付き合ってください!」


「本当に私でいいの?」


「あなたじゃなきゃダメなんです。ずっと、あの頃から俺の気持ちは変わりません」


「生徒の目もあるから、あまり出かけることはできないけどいいの?」


「そんなのどうでもいいです。毎日会ってるじゃないですか」


「わかりました。これからよろしくお願いします。」


 それを聞いた春くんは飛び上がって喜んでくれた。


「今更ですけど、俺で本当に良いんですか」


「こんなこと言われたら、断る理由がないよ。私だって、春くんと一緒にいてとても安心する。こんなこと今までなかったから」


 そして二人は、付き合うことになった。






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