心音
林間学習当日、清々しい快晴だ。
高校から、大型バスに乗り、約二時間で合宿施設に着いた。
ついて早々、部屋に荷物を置き、体操着に着替え、ロビーに集合。
今日の予定は、登山コースを班ごとに登る。初心者でも登れる簡単なコースだ。
「すごくワクワクするね。あかりちゃん」
「少し緊張しますが、皆さんとなら楽しめそうです」
「それじゃあ、行きますか。工藤隊長!」
「からかわないで下さい、斉藤さん」
「工藤さん、何かあったら、遠慮なくいつでも行ってください」
こうして、俺たちは、山を登り始めた。
思っていたより、あまり運動していないせいか、結構疲れてきた。
区画ごとに給水ポイントがあり、2年の担任が何かあった時のために、見張っている。
順調に登り、最後の給水ポイントまでたどり着いた。
「みんな、お疲れさん。あと少しだから、頑張って」
2年1組の田中先生に励まされ、俺たちは、また登った。
「あと少しだ。頑張ろう!」
後ろにいた工藤さんも結構疲れてきているようだった。
―工藤さんにペースを合わせないと
その時だった。
「痛い!」
「どうしたの?工藤さん」
「少し、足を挫いたようです。大丈夫です。皆さんに心配かけたくありません。」
「歩くの辛そうだよ。どうしよう…」
「それなら、俺の背中に乗って。ゴールまでそんなに遠くないと思うし」
「そんな、安田さんが大変じゃないですか」
「いいから、遠慮しないで」
私は、少し恥ずかしい思いでしたが、安田さんにおぶさりました。
なんだか、すごく大きな背中、そして、安田さんの心音が身体に伝わってくる。
どうしてだろう。私も、ドキドキしている。こんな感情、感じたことがない。もう少し、このままでいたいと私は思ってしまった。
「みんな、着いたよ!」
ゴールに着くなり、工藤さんを先生たちのところに運んだ。幸い少しひねっただけで、それほどのケガではないようだ。その後は、痛み止めを飲んで歩けるようにはなった。
施設に戻り、汗を流すために風呂に入った後で、夕食だ。
「お風呂の時間割、私たちだから、一緒に行こう、あかりちゃん」
「今日は、迷惑かけてごめんなさい」
「いいよ、そんなに考え込まないで。私たち、友達でしょ」
「はい!」
私は、友達なんていらないと思っていた。一人で何でもできると。でも、こうして今日、みんなと一緒にいることの楽しさを知ることができた。友達と言ってくれた桐谷さんは、絶対に大切にしようと思った。
お風呂にて、
「これからは、桐谷さんじゃなくて、唯でいいよ」
「恥ずかしいです。ゆ、唯さん」
「それでよろしい。あかりちゃんって、好きな人とかいるの?」
「急に何ですか、い、いないですよ!」
「怪しいな、絶対いるでしょ。誰?」
「言えません。」
「私そんなに信用ない?」
「わかりました。安田さんです」
「マジで、今日、それじゃあ、今日、ドキドキしたんじゃない。春人君におんぶしてもらったし」
「それは、そうですけど…」
「あかりちゃん、かわいい」
この時間は、なんだかとても楽しい。唯さんとの距離も近づいた気がする。
夕食を済ませると、今度は、今日のメインイベントの肝試しだ。
工藤さんは、ちょっと無理そうなので、近くで見学しているそうだ。楽しみにしていたと思うのに。
俺も一緒にいてあげよう。そうすれば、退屈しないだろう。
「先生、俺、調子悪いので見学しててもいいですか?」
「調子悪いんですか。私のせいですね」
「違うよ、一人じゃ、寂しいと思って」
こうして、二人は、見学することになった。