工藤あかり
新学期が始まって、2か月、いよいよ期末テストだ。
自分もテストの準備で忙しい中、美久先生は、俺に勉強を教えてくれている。分からない問題の解説がすごくわかりやすい。しかし、先生との距離が近いからか、時々、緊張してしまう。香水のいい香り、髪をかき分けるしぐさに見とれてしまう時がある。
「ちょっと、ちゃんと聞いてる?」
「あぁ、すみません、真面目にやります」
期末テストが終了し、掲示板にテスト順位が張り出されている。
「今回はどうだ…。あれ、1位だ!マジかよ」
「すごい、春人君、私なんて、23位だった。見習わなきゃね」
「俺は、ほとんど変わらずか。15位。でも、なんで、1位なんてとれたんだ」
去年は、5位~10位のあたりを行ったり来たりだった。これは、美久先生様様だ。お礼においしいスイーツでも買っていこう。
そんな喜んでいる俺に冷ややかな視線が感じられた。
それは、工藤あかりだった。俺と同じ2年4組で、去年の全テスト成績学年トップだった。それが、どうだ。今回は2位。相当悔しいのだろう。
「工藤さん、どうしたの?」
「いいえ、何でもありません」
工藤さんは、寡黙であまり友達がいない。寄るなオーラを出しているようにムスッとして、誰とも話そうとしない。いつも休み時間は、一人で昼食をとった後、読書している。
―本当にそれで楽しいのか?
その日の帰り道、今日は、雨が強く、傘が飛ばされそうだ。今日は、バイトが休みでよかったと思う。
玄関を出ると、一人の女子生徒が立っていた。
それは、工藤あかりだった。
今日、あんなに睨まれたら、気まずい。でも、話さないわけにはいかないし。
「工藤さん、傘忘れたの?」
その瞬間、鋭い眼差しがこちらに向く。
「はい、雨が弱まるまで待ってようと思います」
「今日はこのまま降り続くらしいよ。良かったら、俺の傘使って」
「それじゃあ、安田さんが濡れます」
「いいって、アパートまでそんなに遠くないし、工藤さん家、結構遠いでしょ。俺は、大丈夫だから。」
工藤さんは、戸惑ってはいたが渋々傘を受け取ると
「ありがとうございます」
―いつも無表情の工藤さんが笑った。なんだ、笑えばとてもかわいいじゃん。
「それじゃあ、俺はこれで」
そこで二人は別れた。
来週は、林間学習がある。山奥で登山・バーベキューをする二泊三日の旅行。夜には、肝試しもあるらしい。俺にとっては、どうでもいいことだ。
―ここに美久先生がいればなぁ。
今まさに、クラスで話し合いをしている。
「それでは、四人組の班を作ってくれ」
俺はたちは、三人、あと一人、どうしようか。ふと、目をやると、工藤さんが一人で話には入れていないことに気づいた。
「あと一人、工藤さんでいいかな」
「あの氷の女王かよ、まあ、春が言うなわいいけど」
「私もいいよ。結構どんな人か気になってたし」
そして俺は、工藤さんに声を掛けた。
「工藤さん、班は、もう決まった?」
「まだですが…」
「俺たちの班に入らない」
その時の工藤さんは、無表情の中にも少しほっとしているように感じた。
班での話し合いは、工藤さんが仕切ってくれたおかげで、早く終わった。
「工藤さん、助かったよ」
「いいえ、皆さんに誘ってもらったので、これくらいは」
「そんなに畏まらなくていいよ、クラスメイトなんだしさ」
その時も、あの時のような笑顔を見せた。
「工藤さんって、笑ってた方が可愛いよ」
「な、何を、そんな恥ずかしいことを」
工藤さんは、少し照れていた。それを見た翔と唯は笑っていた。
「工藤さん、私、桐谷唯、こっちは、斉藤翔、これからよろしくね」
「よろしくお願いします」
これなら、工藤さんもこの班で打ち解けられそうだ。