お邪魔します!
春人は、玄関の扉を開けた。
すると、そこには、隣の水野美久さんが鍋を持って立っていた。
「遅くにすみません。肉じゃが作りすぎたので、もし、良かったら、食べていただけませんか」
急のことに俺の頭は、真っ白になっていた。
「食べていいんですか。ありがとうございます。どうぞ、汚い部屋ですが、あがってください」
「はい、お邪魔します」
俺は、何をしているんだ。そのまま鍋をもらって、帰ってもらえばいいのに、部屋にあげてしまった。
心臓の高鳴りがやまない。部屋は、そんなに物がない分、散らかることはないけど、緊張する。
春人は、リビングに招き入れた。
「今、お皿用意するので、水野さん、適当に座っていてください」
「とても綺麗な部屋ですね」
「いえ、何もないですよ」
皿を準備し、水野さんの肉じゃがをご馳走になった。
「とてもおいしいです。スーパーで買ったものよりおいしい。」
「そう言ってくれて、うれしいです。そういえば、安田さんは、高校生ですか?」
「はい、泉谷高校の2年生です。水野さんは、どんな仕事をしているんですか?」
「私、高校の先生。教科は、英語を教えてます。と言っても、まだ、今年で1年目ですけどね。」
歳は22歳、白鳥女子学院高校に今年赴任したとのこと。
高校の先生・・・。別人なのは、分かってはいるのに、あの人と重なってしまって、どう表現したらいいか分からない感情に俺の心は、少し押しつぶされそうになった。
「そうだ、俺のことは、春人でいいですよ。敬語もいいです」
「それじゃあ、春君でいいかな?私のことも美久でいいよ」
―あの人にも、そう呼ばれていたなぁ。
「美久先生でいいですか?」
「ちょっと恥ずかしけど、うん。春君は、普段食事どうしてるの?もしかしたら、インスタントラーメンばっかり食べてるでしょ」
「その通りです」
「これからは、朝と夕飯は、私の部屋に食べに来なさい。高校生は、健康が第一だし、遅くまでバイトしてるんだから、遠慮しないで。お昼の弁当も作るよ。」
なんでこの人は、数回しか会ったことのない、この俺のために世話を焼いてくれるのだろうか。美久先生とこれから、一緒にいられる時間が増えることは、とてもうれしい。
「ありがとうございます。もし、時間があるときでいいので、勉強も教えていただけませんか。わがままを言ってることは、十分承知しています」
「わかった。お役に立てるのなら。ご飯食べ終わったら、教えてあげる」
今日は、幸せな1日になった。
次の日、俺は、先生の部屋で朝ご飯を食べた。料理は、とてもおいしい。それだけじゃなく、心までほっこりする。弁当も用意してくれた。手作り弁当なんて、中学校以来だ。
学校の昼休み、
「春、購買のパン買ってたやつが、弁当作るわけないし、その弁当どうした」
「春人君、絶対怪しい」
「誰に作ってもらったんだよ」
「どうでもいいだろ」
結局、二人のしつこさに負けた俺は、美久先生が作ったことを話した。
「だから、この頃おかしかったんだ。もしかして、その人のこと好きになったんじゃない。」
「うるさいなぁ。まあ、そうだよ。でも、彼氏とかいるんじゃないの」
唯がニヤニヤしながら、俺の方を見ている。