二度目の恋
安田春人、十六歳は、小さな田舎町から上京、東京の泉谷高校に通う高校生。3月も終わり、新学期がスタートしようとしている。
春人には、小学生の頃、町から引っ越してしまう、当時、高校1年生の初恋の女性と交わした約束。
その子の将来の夢は、高校教師。
「僕も学校の先生になる。そうすれば、また、会えるから。そして、お姉ちゃんを俺のお嫁さんにする」
そんな夢は、叶うかどうかわからない。彼女に会える保証も教師になっているかも分からない。でも、俺は、今も諦めていない。
始業式前日、隣に引っ越してきた女性、水野美久。どことなく、初恋の女性に似ていた彼女に一目惚れしてしまう。
安田春人、16歳、東京の泉谷高校に通う1年生だ。小さな田舎町から上京し、もう3月の終わり、新学期が目前だ。
俺には夢がある。小学校時代の初恋の相手との約束。俺の片思いだったけど。確か、彼女は、その当時、高校1年生だったと思う。彼女が引っ越しでこの町を離れる一日前のこと。
「お姉ちゃんの夢は何?」
「私、高校の先生になりたいかな」
「じゃあ、俺も高校の先生になる。もしかしたら、お姉ちゃんに会えるかもしれないから。それで、僕のお嫁さんにする」
「ありがとう、約束だよ」
この過去の思い出は、鮮明に覚えている。だけど、彼女の名前は、覚えていない。いつもお姉ちゃんと呼んでいたから。
俺の夢は、高校教師。もともと、勉強は好きな方だ。彼女に会える保証はない。高校教師になっていないかもしれない。けど、俺は、その約束を叶えたい。
「ピンポーン!」
「宅配便かな?はーい」
玄関を開けると、そこには一人の女性が立っていた。
茶髪ショートで赤ぶち眼鏡をかけた穏やかで綺麗な人。
何故かわからない。どことなく、初恋の彼女に雰囲気が似ていた。その女性を見た瞬間、俺は一目惚れしてしまった。俺にとっての2度目の恋。
「今日、隣に引っ越してきた水野美久といいます。よろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします。なんか困ったら、いつでも行ってください」
「ありがとうございます。それでは」
玄関を閉めると俺は、心臓の音がバクバク高鳴っていることに気が付いた。
「綺麗な人だったな。でも、彼氏とかいるんだろうな」
俺にとっては、決してかなわない恋だとわかっている。でも、その夜は、まったく眠れなかった。
今日は、始業式、高校二年の新学期だ。眠い目をこすりながら、登校していると、後ろから声がした。
「おはよう、春!」
「おはよう、元気だった、春人君」
「おはよう、元気って、ほとんどバイトだったよ」
この2人は、1年の頃、初めてできた友人だ。席が隣だったこともあるけど、趣味の話で盛り上がり、仲良くなった。
一人は、斉藤翔、学年一のイケメンでたくさんの女子にもてまくっている。でも、だからと言って、チャラつかない、とても誠実でいい奴だ。
もう一人は、桐谷唯、翔とは、幼馴染で二人は付き合っている。唯は、人見知りで、翔といつも一緒でだった。俺が初めて話しかけたときは、警戒していたけど、今では、唯の方から話しかけてくれる。
「今日、クラス替えあるよな、みんな一緒だったらいいな」
「私、翔と一緒じゃなきゃ、この先、不安」
俺は、二人の話より、昨日の女性のことで頭がいっぱいだった。
「おい、聞いてんのかよ!」
「聞いてるって!」
そして、三人は、校舎表の掲示板のクラス表を確認した。
「みんな一緒でよかった」
唯は、ほっとしていた。
「それじゃ、教室に行こう」
俺も正直、ほっとしている。この二人といるととても楽しい。
その後、始業式も無事終わり、教室でひと段落ついた。
「担任がまさかの岩渕恵子かよ」
「俺も翔もあの先生に目付けられてるからな。何されるかわからん」
岩渕恵子先生は、23歳、去年、赴任してきた先生で、生活指導も受け持っている。いつも服装で注意され、居残りで掃除をやらされた。とても厳しいけど、普通にしていれば、大人なオーラを出した美人なのにもったいない気がする。
今日は、入学式もある関係で、午前で学校は終了。
下校中のこと、
「春、今日、なんかおかしいぞ」
「春人君、ずっと上の空って感じ、もしかして、好きな人でもできたの?」
「うるさいな、そんなわけないだろう」
「でもさ、小学の初恋の相手を引きずるよりも新しい恋を見つけた方がいいと思うぞ。春、そこそこイケメンだし」
「そこそこって、なんだよ」
そんなことは、分かっている。でも、そう簡単には、忘れられない...。
「それじゃ、バイトだから、ここで」
「じゃあな、春」
「じゃあね」
そして、二人と別れた俺は、ファーストフード店のバイトへと向かった。
バイトが終わり、七時半アパートに戻る。今日も、一日疲れた。すぐ寝たい気分だ。
座布団に腰掛け、宿題をやり始めて数分後、玄関のチャイムが鳴る。
「ピンポーン!」
「なんだよ、こんな時間に」
玄関の扉を開けると、そこには、隣の水野美久さんが、鍋を持って立っていた。